月読夜草の花
前日の疲労が抜けきりません…。
「ところでサクヤ、どうして急に御力を回復させる薬なんて作りたいって思ったの?」
(う〜ん、御力をギリギリまで減らして回復すれば、力量が増えるって神様に聞いたなんて言うわけにもいかないしなぁ。)
「えっと、昨日妖鹿を退治したときに、弓矢に御力を籠めたんだけど、事前に破魔の矢に御力を籠める仕事なんかした後だと、そんなこともできないじゃない。そんな時、直ぐに回復できたら便利だなぁって思ったの。」
「待ちなさい、サクヤ。弓矢に御力を籠めたってどういうこと?この間の薬といい、何でもかんでも御力を籠めてるわけ?」
「ち、違うよ!薬は心を込めただけで、弓矢には御力を籠めたの。何でもかんでもって言うけど、皆だって破魔の矢には御力を籠めるじゃない。それと同じよ。」
「全然同じじゃないわ…。破魔の矢以外に御力を籠めるなんて普通考えないから。」
「でも、矢以外にも刀や槍に籠めて、鬼を退治するって聞いたし、他にもあると思うんだけど。」
「それは、そういう御力を持った人がやることであって、誰でもできるわけではないわ。」
(え?そうなの?私がおかしいのかな?)
「はぁ〜。やっぱり貴方に付いていくことにして良かったわ。目の届く範囲にいないと、何をしでかすかわからないもの。」
「母様も行くなんて言うから不思議だったんだけど、そういうことなの?」
「さっき言ったことも本当よ。でも、心配の方が勝ってるわ。」
(解せぬ…。でも、う〜ん。何だか御力のことがよく分からなくなってきたなぁ。せっかくなら1人で登って、神様に直接聞きたかったかも。)
翌朝、サクヤはコノハの厳しい視線に晒されながら、社務所に向う。
「おはようございます、藤十郎先生。本日は宜しくお願いします。」
「おはよう。こちらも宜しく頼む。」
藤十郎とコノハは何やら話しているが、その間に弓寮で用意された武具を装備し、食料等を担ぐ。
「では、出発するか。」
「呉れ呉れも気をつけてな。」
宮司も見送りに来てくれた。
「なんで俺が護衛ではないのだ。」
その横で勘助は悲壮感いっぱいの顔で見送っていた。
社の脇から山を登る。途中までは『量りの泉』と同じ道だ。
泉から更に30分登って、山の中腹となる。ここで一旦休憩を摂る。
「此処から一気に道が険しくなる。夜までに登ればいいのだから、焦らずゆっくり登ろう。」
藤十郎が2人に声をかけた。
小平太達と野山を駆け回っていたサクヤは、まだまだ余裕があるが、コノハは疲れが見える。藤十郎はそちらに気を使っているのだろうと、サクヤは思った。
再び歩き始めたが、急な崖を鎖を使って登ったり、岩の隙間をよじ登ったりと、かなり険しい道が続く。
「流石に応えますね。」
「うむ。女人の脚には応えような。焦らず休みながらまいろう。まだ、時間はある。」
休憩していたサクヤが気配を感じ、ふと上を見ると、岩の上に一匹の山犬がいた。
(なっ!?アカイヌヌシ様!なんでこんな所に。ってここアカイヌヌシ様の住処だった。そうじゃなくて、何で姿を現したの?)
「サクヤ、どうかしたか?
むっ、山犬か!」
藤十郎は咄嗟に弓を構えた。
「いけません!藤十郎先生。」
「何故だ?」
(そりゃあ、神様だもの…。)
「い、いえ、敵意はないようですし、ここはヌシ様の御山です。山犬であれば、神様の遣いかもしれませんし。」
「うむ、確かに。敵意はなさそうだな。」
そう言って藤十郎は弓を下げたが、サクヤはアカイヌヌシの意図が分からない。
(いくら自分の住処だといっても、そんな簡単に姿を現さなくても。神様だってバレてもいいのかなぁ?)
サクヤが困惑していると、岩の上の山犬は行き先を示すように、「ワンッ」とひと鳴きした。
(あぁ、喋る気はないのね。)
「案内してくれるようです。付いていきましょう。」
「サクヤは山犬の言葉が判るの?」
「そんな気がするだけ。どのみち皆不案内なんだから、神様の遣いかもしれないなら、行く価値はあるんじゃないかな。」
藤十郎とコノハは困惑顔だったが、反論するほどの材料もないのか、疲労で思考力が落ちているのか、頷いて付いてきた。
暫く歩くと山犬がひと鳴きする。
サクヤが駆け寄り、犬の鼻がさす方を見てしゃがみ込む。
「なんで、お姿を現されたんですか?」
「面白そうだったからな。それに、ここは我の住処だ。何処に現れようと我の勝手だろう。」
「それはそうなんですが…。」
「そんなことより、この草は『龍力草』と言って、一時的に筋力を増強する効果がある。根ごと持って帰って増やすと良い。」
「そんなものがあるのですね。ありがとうごさいます。」
そう言って『龍力草』を採集すると、サクヤは犬の頭をナデナデした。
「神の頭を気安く撫でるでない!」
「えぇ〜、だって、モフモフしてるから、つい。」
「ま、まぁ、悪くはないがな…。」
アカイヌヌシは大人しく撫でられていたが、尻尾は激しく振られていた。
サクヤと山犬に追いついた2人は、サクヤと懐いた山犬の姿を見て、顔を合わせて笑った。
「サクヤには、人だけでなく、動物をも惹きつける何かがあるのでしょうな。」
「厄介事まで引きつけるので、困っているのですけどね。」
その後も、サクヤはアカイヌヌシにいくつかの薬草を教えてもらい、採集した。
因みに、アカイヌヌシは、その度に撫でてもらえるよう、頭を差し出している。
(疲労回復に効く『獅子彪弦花の実』は便利そうね。二日酔に効く『右近衛草』は、まだ私には使う予定がないけど。)
山頂に着く頃には、日が傾いていた。
山頂には小さな祠があり、アカイヌヌシを祀っていた。
3人は並んで前に立つと、藤十郎が代表して祝詞を上げる。
「赤犬山におわす、畏きアカイヌヌシの神よ。畏れ多くも罷り越した我等に、加護と大願成就を齎し給え。」
3人は合わせて柏手を打ち礼をする。
その後ろでアカイヌヌシは伸びをして、やれやれという顔をしていた。
日が落ち、満月が昇る。
山犬は不意に立ち上がると、ひと鳴きして歩き始める。松明を持った藤十郎が足元を照らしながら、3人は山犬に付いていく。
山頂から少し下った岩陰に、一輪の花が咲いていた。
「これが『月読夜草の花』なのね。綺麗な花だわ。
あら、あちらにも咲いているわね。」
コノハの言う方に藤十郎は松明をかかげる。
サクヤは、最初に見つけた花の花弁を採ると、紙に包み採集袋に収めた。
立ち上がったサクヤの袖を山犬が引く。
サクヤは山犬の案内に従い、2人の視界から外れると、一株の芽を鼻で指す山犬の隣にしゃがんで指す方を見た。
「『月読夜草』の芽だ。その脇にあるのが種だから、共に持ち帰るとよい。」
「ありがとう存じます。これは山から降りても育つのでしょうか?」
「効果は落ちるかもしれぬが、育ちはしよう。」
「やってみます。」
サクヤは微笑んで山犬の全身を撫で回す。山犬は仕方なさげに撫で回されていたが、終いには腹を見せていた。
元気があれば、もう1話あげます
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