妖狐
徹夜の仕事明けで、更新が遅れました
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宮司の予想通り、神楽の翌日には社に参拝者が多数訪れた。
「思ったより少なくてよかったな。対応しきれるか心配だったが、この程度なら何とかなるだろう。」
弥九郎は、参道の途中で警備に立ち、参拝者が妖やモノノケに襲われないよう、注意を払っていた。
「いや、御守や飲食物は売り切れが続出して、テンヤワンヤらしいですよ。」
護符や御守を売る社務所の売り場を統率していた静は、疲れ果てていた。
「流石に昨日の今日では、用意できる品数に限界がありましたね。」
昨日から護符や御守を製作していた造作部は、破魔の矢そっちのけで製作していたが、午前のうちに全て売り切れてしまい、参拝者からの苦情に困惑顔であった。
「急遽、3演目だけ神楽を舞うことが決まった。サクヤは姫舞ができるか?」
竜造からの無茶振りにサクヤも困惑する。
「いや、出来なくはないですが、私より上手な方が、いくらでもいるじゃないですか。」
「参拝者はお前を目当に来てるのだ。お前が出なきゃ何が起きるかわからん。」
そう言われると断り切れない。
「開演は午後からだ。演目は『四方祓い』、『巫女舞』、『妖狐』だ。妖狐になる姫はサクヤが演る。他は昨日の稽古通り。急いで準備しろ!」
頭の叱咤が飛ぶ。
『妖狐』は、高貴な家の姫に化けた妖狐が、貴公子を取り喰らおうとしたところを、駆けつけた神である赤犬の化身と、従者である山兵が退治するという話である。
サクヤは、妖狐が本来の姿になる前の姫役を務める。妖艶な姫が本性を現し、顔に狐の面を着けて妖狐と入れ替わるまでを演じる。
(妖狐かぁ。やるからには、とびきり妖艶で恐ろしい妖狐にならなきゃね。)
このとき誰一人、神楽が阿鼻叫喚の坩堝に陥ることを予想できる者はいなかった。
サクヤは、姫の衣装を纏い、化粧を施す。神の時とは違う妖艶な雰囲気を出すために参考にしたのは、他かならぬコノハであった。
(母様が何か企んだときの顔、マジ怖いもんね。)
衣装の袖に狐面と、妖術に見立てた巻紙を用意し、出番を待つ。
神楽殿は、参拝者で満員札止めとなり、立ち見まで出た。
「サクヤさん、今日は変なもの込めないでね。」
「変なものなんて込めた事ありませんよ。」
サクヤは頬を膨らませたが、直ぐに真顔に戻ると、役に入った。
サクヤが登場すると、前回の神役とはまるで違う雰囲気に、観客はざわめいたが、
「これはこれでいいなぁ。」
「凄い綺麗だ。男とは思えん。」
思い思いの囁きが聞こえた。
甲斐甲斐しく貴公子をもてなす姫は、酒を勧めて貴公子を酔い潰す。
寝入ったのを確認し、姫は徐々に本性を露わにしていく。
最初、妖艶さに見惚れていた観客は、本性を見せ始めた姫の、狂気を孕んだ顔に恐怖を覚える。
サクヤがキッと客席を睨むと、幼い子供の悲鳴が上がり、気の弱い者は腰を抜かした。
舞は激しさを増し、姫は髪を振り乱しながら貴公子に最期を告げる。
サクヤが狐面を隠し持ち、顔を袖で隠した刹那、面を付けたサクヤは客席に飛び降り、巻紙を客に向け放った。
「妖狐だぁ!」
数人の客が絶叫を上げ神楽殿から逃げ出す。
恐慌状態に陥った神楽殿は、多くの人が後を追うように逃げ出し、逃げれなかった者は腰を抜かして失禁していた。
サクヤが妖狐と入れ替わる前に、神楽は強制終了となる。
最早、誰も観ていなかったのである。
「サクヤさんに神楽はできませんね。客が皆逃げ出すなんて、初めて見ました。
私、サクヤさんを巫女寮に入れるの諦めます。『魅了の御力』どころか、妖の可能性が出てきましたもの。」
静は笑うしかなかった。
「赤犬の社には妖狐がいて、近づくと取り喰らわれる。」
そんな噂があっという間に宿場町に広まり、赤犬の里はいつもの静けさを取り戻した。
「う〜ん、神楽って難しいね。頑張ったんだけどなぁ。」
「其方に妖狐を演らせた俺が悪かった。神一本でやってみんか?」
「竜造さん、やめておきましょう。私達には制御しきれません。胃の臓に穴が開きますよ。」
静の説得に、竜造は頷くほかなかったが、まだ諦めきれずにいた。
帰って体力が残ってたら更新します




