サクヤの御力
2話目は短いですが御了承ください。
(ここは…家だ。)
目を覚ましたサクヤは、気を失う前の記憶を呼び戻す。
(たしか、神様が加護を下さってる途中で鹿のモノノケが出てきたような…。)
そこで急激に流れ込んできた神力に、サクヤは気を失ってしまった。
「サクヤ!目が覚めたかい。貴方、2日も目を覚さなかったから心配したのよ。」
サクヤの母コノハは、居間に上がり、サクヤの枕元に座った。
「2日…。えっと、私どうやって…。」
「小平太と宮守の皆さんが気を失ってるあんたを見つけて、ここまで運んでくださったのよ。」
(そういえば、小平太が大人を呼びに戻ってたんだった。)
「こんにちは、コノハさん。サクヤは目を覚まし…、サクヤ!目が覚めたのか。」
小平太と目が合ったサクヤは、苦笑いを浮かべながらゆっくり上体を起こす。
「ごめんね、迷惑を掛けたみたいで。」
「身体は何ともないのか?」
「多分、大丈夫。」
「あの時のこと、憶えてるのか?」
すぐさま返答しようとしたサクヤは、思い止まる。
(なんだろう、あの時神様に会ったことは人に言ってはいけない気がする…。)
「あの、モノノケの姿を見たことは憶えてるんだけど、すぐ気を失ったみたいで…。」
「そうか。宮守の人の話だと、驚いて気を失ったか、妖に化かされたんだろうって。相手が妖魔じゃなくてよかったな。妖魔だったら見境なく人を喰らうからな。」
「うん。よかった…。」
(もしかしたら、本当に化かされたのかも…。あれは夢だったのかもしれない。)
「とにかく、目を覚まして良かった。宮守の人にも伝えておくよ。じゃあな。」
小平太は慌ただしくサクヤの家を出ていく。
ぐぅ~。
「ふふ、2日も寝てたんだからお腹もすくわよね。もうすぐ昼餉になるから、それまでゆっくりしてなさい。」
コノハはそう言って、安心したように微笑みながら台所へ向かった。
(昼餉かぁ。何だろな。…そう言えば神様は鼻を良くしてくれるって言ってたけど、匂いで昼餉がわかるのかな?)
サクヤは昼餉の匂いを当てようと、鼻をヒクヒクさせる。
(…。全然わかんないや。やっぱりあれは夢だったのかなぁ。)
そんなことを考えながら、出された昼餉を胃に流し込んだ。
「あんなことがあったのに、意外と懲りてないんだな。」
2人であの出来事があった山道を歩きながら、小平太は詰るようにサクヤに言葉を向ける。小平太としてはサクヤが心配でしょうがないのと、結果として置き去りにしてしまったことの後悔、大事にならずに済んだ安堵との狭間で彷徨いながらサクヤに問いかけた。
「う〜ん、懲りてないわけじゃないんだけど、薬草を採らなきゃ薬は作れないしね。そんなに怖い目にあったわけでもないから。」
「でも、またあんなことがあったらいけないから、絶対に1人で山に入るなよ。」
「でも、その度に小平太に付いてきてもらうのも悪いじゃない。」
「お、俺ならいつでも付いてきてやる。サクヤを1人にはしておけないからな!」
顔を赤くしながら宣言する小平太を、サクヤは不思議そうに見ながら歩き続ける。
「そう?ありがと。」
(確かこの辺で神様と鹿のモノノケに遭遇したのよね。)
サクヤは2匹?の闘いの痕跡を密かに探しながら歩く。
(何も残ってない…。やっぱり夢だったのかなぁ。)
サクヤは必要な薬草を採取すると、小平太と共に来た道を帰った。
帰宅したサクヤは、採取した薬草を早速煎じる。
(分量は母様に教えられた通り。後はしっかり心を込めて煎じればいい。)
薬研に入れた薬草を煎じながら、サクヤは心の中で呟く。
(山犬の神様、良い薬になるよう、御力をお分けください。)
出来た薬を紙辺に小分けして、全部で10個の傷薬ができた。
「痛たたた!包丁で指切っちゃった。あら?調度傷薬が出来たみたいね。どれどれ、効果を確認してみようかしら。」
左手の人差し指を押さえながら居間に上がってきたコノハは、並べられた傷薬を見つけると、徐ろに一袋を手に取る。
「見せてもらおうか。サクヤの薬の効き目とやらを。」
サクヤは母の言動に首を傾げながらも、そっと見守る。
(ナニコレ?!嘘でしょ!傷が消えた!)
「やっぱり母様の処方は凄いね!こんなに綺麗に治っちゃうんだもん。」
(いやいやいや、こんな即効性のある薬なんて、私でも作れないわよ。…やっぱりサクヤはあの人の御力を受け継いでしまったのね…。)
「サクヤ…。あなたの作った薬は良く出来てるけど、まだ人様にお出しできる物ではないわ。私がいいって言うまで、人に使ったり、渡してはいけないわよ。」
「は〜い。」
(人は駄目なのか。じゃあ、動物にならいいのかなぁ?もう神様に使っちゃったけど。でも、夢の中だったみたいだし、問題ないよね。)
「調合の練習は続けていいけど、もったいないからヤギの餌にするか、お茶にして飲めばいいわ。」
「薬草茶は渋くて苦いからやだぁ。」
サクヤは母の言いつけをしっかり守り、薬草の採取と調合の練習をしながら、『御力量りの儀』の日を迎える。
次話はコノハの話です。




