再降臨と御力の概念
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「お腹が空いたぁ。」
破魔寮で倒れたあと、コノハと藤十郎によって自宅運ばれたサクヤは、その日の夕方に目が覚めた。
「良かった。今回は当日中だったわね。さっき小平太も心配して顔を出したのよ。」
(そっか、御力を使い過ぎて気を失ったんだ…。)
「お腹が空いたのなら夕餉は食べれるわね。」
コノハは、直ぐに膳を用意してくれた。
「お役目は…?どうなったの?」
「あんな馬鹿の所にサクヤを任せれる訳ないでしょ!」
コノハは先程決めたことをサクヤに伝えた。
サクヤは内心ほっとした。
(もうあそこに行かなくてもいいんだ。よかったぁ。)
「で、体調の方は大丈夫なの?」
「うん、御力も殆ど戻ったみたい。」
「そう…。で、どうするの?社には暫く休養するって言ってあるし、次の研修期間までは貴方に任せる感じだったけど。」
「う〜ん、折角だからゆっくりしようかな。久し振りに煎薬もしたいし。」
そう言って、サクヤは朝餉の後、薬草採りに出掛けることを告げた。
サクヤは狩り装束に弓を持って、山に入る準備をしている。矢櫃には先日もらった『破魔の矢』も入れている。
「貴方の弓の腕は確かみたいだから大丈夫だとは思うけど、気を付けるのよ。」
コノハに見送られてサクヤは出かけた。
サクヤはのんびり散策気分で山道を歩いていたが、弓は何時でも放てるよう、準備だけはしていた。
暫く歩くと、以前アカイヌヌシに遭遇した辺りになる。
その時、前方の山道の上の方から気配を感じ、サクヤは咄嗟に矢を番えた。
「弓を降ろせ、我だ。」
声が聞こえたと思った直後、崖上から山道に飛び降りた山犬の姿があった。
「アカイヌヌシ様!」
サクヤはすぐさま矢を収め膝をついた。
「久しいな。やはり巫女になったようだな。他に変わりはないか?色々騒ぎを起こしているようだが。」
相手は神様である。サクヤの動向など、概ね把握しているのだろうと、サクヤは考えた。
「私は以前お会いしたことが、夢か幻ではないかと思っておりました。」
「ふむ、気を失ったまま別れたからな。その様に考えてもおかしくはないか。だが、授けた力は実感できたであろう?」
(はて?鼻は一向に良くなってないけど。)
思案顔のサクヤに、アカイヌヌシは困惑する。
「いや、大猪と遭遇した時に、実感できたのではないのか?」
(あぁ!あの時、猪が出る事に気がつけたのは、猪の臭いにいち早く気付けたからなのか!)
サクヤが納得の顔になったので、アカイヌヌシは満足気に頷く。
「うむ。で、あれ以降変わりはないか?時々破魔の矢に力を与えよと訴えてはきてたようだが。」
「えぇっ!あれって、聞こえているんですか?」
「うむ、きちんと祝詞を上げておれば、聞き届けるようにしておるからな。」
「そうなのですね。」
(次から祝詞を上げるときは、いい加減な気持ちで上げるのはやめておこう。)
「そういえば、昨日は多くの力を籠めて倒れておったな。祝詞が奏上されるときは、我からも力を与えておるのだが、あんなに多くを求められたのは久し振りで驚いたわ。」
「はい、私には過ぎた願いでございました。」
「いや、「不足は成長の糧」だ。倒れるまで籠めるのはやり過ぎかもしれんが、その直前まで使い、足りないことを身体が覚えれば、より多くの力を蓄えようとする。そうして力量は増えていくものだ。己の限界を知るのは悪いことではない。」
(へぇ〜、そうなんだ。お休みの間に色々試してみようかな。)
「折角の機会だ。力についてもう少し教えておいてしんぜよう。
其方らの言う『御力』は、『血の記憶』のことを言っている。本来、力のありようというものはもっと自由だ。頭の中で具現化出来、出来ると確信出来ることは基本的に出来る。
例えば其方の弓、放つ力は生まれ持った『血の記憶』による力と、後から鍛えて身につけた力とがある。其方は自覚しておらぬようだが、弓の才も力であることに変わりはない。其方は的を射るのに、当たると信じているであろう?それが具現化できているということだ。少しでも疑う気持ちがあれば具現化は出来ぬ。
『血の記憶』による力は、謂わば本能的に出来ると確信していることだ。生まれ落ちた鹿が、直ぐに立ち上がろうとするのと同じようにな。
一方で『授かった力』というものがある。これは、血の記憶とは別に、出来ると信じ込み具現化出来た力のことだ。よくあるのが、神託を受けたと思い込んだものだな。「神から与えられたのだから、出来るに決まってる。」と信じ込むのだ。これは、実際には神が授けた訳では無い。実際に授けるときは、其方に施したように、『血の記憶』に入れ込むのだ。そうすることで本能的に出来ると思うようになる。『授かった力』とは言うものの、実際には授かったわけではない。信じ込むことで『具現化出来た力』といった方が正しいな。」
サクヤはわかったような、分からないような顔でコクコク頷いている。
「まぁ、今は全てわからずとも、何れわかるようになってくる。実際、其方は気儘に使っているようだしな。」
アカイヌヌシは快活に笑うと、ふと真顔に戻る。
「但し、誤った使い方は、邪な心を宿す。己の為ではなく、誰かの為に使うことを心掛ければ、そうそう誤ることはあるまい。」
「心得ました。御教授ありがとうございます。」
(その素直さが、この者の最上の力やもな。)
「誰かが此方に来ているようだ。分かっているとは思うが、此処で見聞きした事は他言無用ぞ。」
そう言い残すと、アカイヌヌシは姿を消した。
(何だか難しい話で、よくわからなかったけど、神様に御力を授かったのは確かなようね。言いつけを守って、気を付けて使わなくちゃ。)
「サクナ!ここにおったか。見舞いに行けば薬草採りに行ったと言うから、心配で様子を見に来た。大事はないか?」
藤十郎は、心配とも呆れともつかぬ顔でサクヤに声をかけた。
「大事ありません。ご心配をおかけしたようですみません。」
「いや、此方の落ち度だ。新七には厳しく言い聞かせておいた。本当に済まなんだ。」
そう言って藤十郎は頭を下げた。
サクヤは目的の薬草を集めると、藤十郎と共に帰路に着いた。
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