破魔寮へ
第14話です
サクヤは1つ目の寮であった造作部の護符寮を『普通』に過ごし、何事も問題を起こさないまま、2つ目の寮である「破魔寮」にやって来た。
「破魔寮へようこそ、サクヤ君。」
満面の笑みで迎える新七に、サクヤは若干引いていた。
「早速だけど、前回の続きをやってみよう!ここに矢を3本用意している。」
「ちょっと待ってください。破魔寮の仕事って、破魔の矢の製作ですよね?何で私はいきなり御力を籠めるところから始まるんですか?」
寮の他の宮守達は、新七の方を見ないものの、呆れた顔や、同情の顔をして、サクヤの言葉に同意していた。
「それは、君の御力を活かすのが、作業効率の向上に繋がるからだ。護符寮では特別活躍したわけではないのだろう?手先のことは他に得意な者がいくらでもいるんだから、君の長所を活かすのが、頭である私の責務だ。」
動機は不純ながらも、説得力はあったので、思わず納得しそうになったが、心は込めても、御力を籠めるなとコノハに言われていたサクヤは思い止まる。
が…、一度御力を見せつけてしまっているため、結局断り切れなかった。
サクヤの前に破魔の矢になる前の矢が3本並べられる。
「さあ、早速御力を籠めてみよう!」
諦めたサクヤは矢を無造作に手に取ると、鏃を上向きに持って3本纏めて御力を籠める。
(アカイヌヌシ様、破魔頭が面倒臭いので、程々に御力を授け下さい。)
最早祝詞とは言えない願いを心の中で呟き、御力を籠める。
サクヤは最初、目を瞑って御力を籠めていたが、鏃が赤くなり過ぎないよう調整するため、観察することにした。
(へぇ、3本を一度に籠めると、特に調整しなくても、ちょうどいいくらいになるのね。)
「おぉ!成功したようだね。」
喜色に満ちた顔で新七は矢を手に取る。仄かに赤く染まった鏃を、頬ずりしそうな勢いで観察していた。
(うわぁ、ちょっと気持ち悪いかも。破魔寮はやめておこう。)
サクヤは希望するお役目の選択肢から、破魔寮を外した。当然そんなことを新七は知らないが。
翌日以降も破魔の矢に御力を籠める仕事に従事したが、鏃の材質が色々変わった。
但し、サクヤの体調を考慮され、午前午後各1回ずつと、見回りに来た藤十郎に決められた。なので、御力を籠める時間以外は矢の作り方を普通に教わった。
初めて自分で作って御力を籠めた矢は、記念として貰うことができた。ただし、御力を籠めるときは3本纏めて籠めたので、貰った1本が本当に最初に作ったものかどうかはわからなかった。
「今日は黒曜石の鏃に籠めてみよう。御神域で採れる黒曜石は、御力を籠めるのに最も適していて、最も多くの御力を籠める事ができる、最強の矢と言われているんだけど、当然多くの力量が必要になるから、中々できる人がいなくてね。一度に3本に籠めれるサクヤ君ならできるんじゃないかと思うんだ。」
スキップしそうな勢いで近づいてくる新七に、サクヤは一歩後退った。
(やっぱりないわぁ。)
サクヤは何時ものように矢を構えたが、黒曜石は多くの力量が必要だということと、赤犬山ではあまり取れず、貴重な物でもあると聞かされ、真剣に御力を籠めることにした。
(赤城の山におわす、畏きアカイヌヌシの神よ、破魔の矢に御力を与え給え。)
サクヤの頭に、御力を授けてくれた時のアカイヌヌシの姿が浮かぶ。
黒曜石の鏃は、中々赤く染まらない。
(これは、本当に力量がいるみたい…。)
サクヤがこれ迄にないくらいの御力を籠めると、鏃がほんのり光る。
しかし、鏃は御力を拒むかのように反発するのを感じた。
「大人しく受け入れなさい!」
思わず声が出たが、サクヤは気付いていない。
「よし、いい子ね。」
サクヤは、仄かに赤く染まった黒曜石の鏃を見て微笑んだ。
「凄いな。この矢を作れたのは今の宮司様以来だよ。」
新七は喜びとも戸惑いともつかぬ顔で、サクヤと鏃を交互に見た。
(流石に疲れちゃった…。)
サクヤがその場にへたり込むと、新七は慌ててサクヤを支える。
「頭!流石に無理をさせ過ぎです!」
寮の作業員が声を上げたのが聞こえたのを最後に、サクヤは意識を失った。
「新七さん、新人巫女であるサクヤに、あんなことをやらせるなんてどう言う了見なのですか?」
知らせを聞いて社に駆けつけたコノハは、新七を詰めていた。
正座して項垂れてる新七には返す言葉もない。
「コノハ殿、私の監督不行でもある。申し訳ない。」
藤十郎も平謝りであった。
「こんな馬鹿のところに、大事な娘を任せることはできません。破魔寮での研修は、打ち切って頂きます。」
「うむ、そうだな。その方がよかろう。」
藤十郎、新七共々、全面降伏で了承し、サクヤは御力と体力が戻るまで、自宅療養となった。
回復後は破魔寮での研修期間が終わるまで、自宅で過ごすも良し、社で自習するも良しと決まった。
「これで破魔寮は消えたな…。」
弥九郎と静はほくそ笑んだ。
本日中にもう1話か2話あげる予定です
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