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山兵(さんへい)への勧誘

第10話です。

お楽しみください。

 サクヤ達は社務所の部屋に戻ると、昼食をとる。

 社の前にある門前通りに住むサクヤ達は通いであるが、他の集落からやって来た子供達は、寮住まいなので、寮から持参した弁当を食べる。サクヤ達は一旦帰ってもよかったし、弁当持参でも良かったが、皆弁当を持ってきていたので、並んで食べた。


「サクヤちゃん、体調は大丈夫?」


 安澄が心配そうに尋ねてきたが、その場を逃れるための仮病だったので、サクヤは心苦しい。


「ありがとう。しっかり食べれば御力も戻ると思うから大丈夫よ。」

「でも、あの石の一件といい、今回の飛び散りといい、サクヤちゃんは御力が多いのね。」


(人と比べた事ないし、実際どうなのかは分からないんだよね。アカイヌヌシ様の言ったことが夢じゃないなら、力量も増やしておくような事も言ってたような気がするけど…。)


「そんなことはないと思うんだけど。多分使い方というか、調節が下手なだけだと思うんだけどね。」

「そうかなぁ?何か力量を量る方法もあるみたいだし、調べてもらえば?」


(いや、余計なことはしないで!)


「ははは。まだ皆成長途上だから、今の力量を量ってもすぐ変わるんじゃないかな。」


 安澄は納得していない様子だったが、何とかそれ以上追及されないよう逃れた。


 そんなサクヤを小平太と竹蔵は白い目で見ていた。



「午後からは山兵部に向かう。山兵は宮守の主要な役目である、神域の守りと、妖魔の退治を行う部門だ。まぁ、この辺は流石に皆知っていようがな。」


 藤十郎を先頭に、山兵部のある鍛錬場へ向かう。


「サクヤ、体調は良いのか?戻らぬようなら午後は休んでも良かったのだが。」


 藤十郎はサクヤの体調を気遣い、声をかけた。


「御飯を食べたら御力も回復したようなので、大丈夫です。」 


(元々体調悪くないですし。)


 サクヤは愛想笑いでそう返した。



 山兵部は寄宿寮のある建物と鍛錬場とでなる、社の中では最も大きな施設で、部の特性上、社からも少し離れた場所にあった。寄宿寮があるのは、何時でも出動できるよう、一定の人数を備えておくためでもある。



「よく来たね。私は山兵部弓寮頭の弥九郎だ。今日は基礎体力の測定を行ってもらう。」


 挨拶したのは、サクヤが大猪退治をした時に知り合った宮守の弥九郎であった。


(この人、巫女なのに私を弓兵に勧誘した人だ。なんだか嫌な予感がするなぁ。)


 若い宮守の案内で、男女それぞれ動きやすい服に着替えるため、一旦移動する。

 鍛錬場に集まると、弥九郎が説明を始めた。


「先ずは脚の速さの確認だ。短い距離と長い距離の両方を確認する。」


 それぞれ測定を熟していく。

 男子で短距離が速かったのは鉄太、長距離は省吾であった。

 その他、懸垂は小平太が、石投げは鉄太、跳躍(走り幅跳び)は竹蔵がそれぞれ1番だった。

 

 女子では短距離走では安澄が辛うじて1番だった以外、その他の競技はサクヤやブッチギリで1番だった。

 幼い頃から小平太達とばかり遊び、女子との付き合いが少なかったサクヤは、女子の中では体力が頭抜けていることに衝撃を受けた。


(あぁ、私って女子の中では規格外なのね。)



「では、少し実戦形式に近いものをやっていこう。先ずは相撲だ。」


 男子達は、其々が火花を散らし盛り上がっていたが、女子ではサクヤ以外の2人が、サクヤを見ながら青い顔をしている。


「先生、もう不戦敗でいいんですが…。」


 安澄も伊都も戦意を喪失している。


(うぅ、酷い扱いだ…。)


 弥九郎は苦笑いしながら、2人の申し出を了承した。3人の体格差が大きいこともあり、やるまでもないと判断した結果だった。


 因みに男子の結果は体格に勝る省吾が優勝し、準優勝は竹蔵だった。


「次は弓だ。弓場にいくつか用意しているので、自分に合うものを選んでくれ。」


 弥九郎はそう言いながら弓場へ案内する。その顔は何かを企んでいるような顔だったが、藤十郎はそれに気付きながらも見なかったフリをしていた。


 弓場に着くと、各々が自分に合いそうな弓を選び準備を整える。

 サクヤは何時も使っている、大人用の小弓を選んだが、何時もより張りが強いと思いつつも、問題ないだろうと判断した。


「じゃあ、順番にあちらに見える的を狙って射てくれ。因みに1人5射だよ。」


 そう言われ的の方を見た子供達は唖然とする。

 小平太達がいつも鍛錬している弓場の的までの距離の倍以上ある。


(こんなの、当てるどころか、届くかも怪しいぞ…。)

 

 少し離れた場所で鍛錬している弓兵達が、同じ距離の的を2本に1本は命中させているのを見た小平太の顔は、悲壮感にみちていた。

 他の子供達も同様だったが、まともに弓を使ったこともない安澄と伊都は、諦めムードであった。


 案の定、誰も的に当てることができず、辛うじて距離だけは届いていたのは小平太と省吾だけだった。


(う〜ん、このくらいなら問題ないだろうけど、普通にやったら何を言われるかわからないしなぁ。)


 サクヤだけ別次元の悩みを抱えていたが、ふとコノハの言葉を思い出した。


(そういえば、弓の技術を御力によるものと勘違いさせるようにって言ってたっけ。それなら『普通』にやればいいんだ。)


 不安を払拭したサクヤは、意気揚々と弓を構える。そしてやらかす。


((嘘だろ、おい!))


 弥九郎と藤十郎だけでなく、離れた場所から見ていた弓兵達も開いた口が塞がらなかった。


 子供達に至っては、目の前に妖魔が現れたような顔をしている。

 ただし、小平太と竹蔵だけは、呆れ顔で額を押さえていた。


 サクヤは続けざまに5本の矢を放つと、例によって縦1列に並べ、最後の1本で的を真っ二つにした。


(あの距離でも威力が変わらないのか。やっぱり妖だな、サクヤは。)


 小平太は自分の言葉が間違っていない事を確信した。


(いやいや、あの大猪の眉間を射抜いたとは聞いていたが、目の当たりにすると凄まじいな。この子は弓の御力があるに違いない。前例はなくても、是非山兵に入れなくてはな。)


 驚愕の光景を目の当たりにした弥九郎は、そう決意した。



 体力測定を終え、社務所に戻る一行にあって、サクヤの周りには不自然な距離があったのは言うまでもない。

 藤十郎までもが距離をとり、話しかけることもできなくなっていた。

 そして、小平太と喧嘩中であることを、この時ばかりは後悔したサクヤであった。



第一部完結の目処がついたので、明日以降も3話程度づつ投稿していく予定です。

評価、感想を宜しくお願いします。

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