神様降臨
小説初挑戦です。
温かい目で見守っていただければと思います。
山の民の子サクヤは、御神体である赤犬山の麓、山間にある赤犬の里に住む薬屋の一人娘であった。
母は腕の良い薬師であったが、父親は誰だかわからない。
里の因習で、18歳の成人までに特定の相手がいない者は、成人の儀の夜に集められ、所謂「乱交」を催し、子供を作る。特定の父親がいない代わりに、里の子供は大人全員で分け隔てなく育てられ、里の収入は原則として公平に分配された。
サクヤの母は薬屋と呼ばれたが、薬屋を生業として生計をたてるのではなく、里の薬師という役割を与えられていると言えた。
薬屋に限らず、里の者の仕事は例外なく里全体の事業の一部で、給金を与えられてるようなものである。
「サクヤは今日も山に入るのか?」
サクヤの幼馴染で(といっても里の子供は皆幼馴染であるが)、同い年の小平太は、サクヤの斜め後ろを如何にも退屈そうな顔でついてくる。
「うん。やっと母様に薬の作り方を教えてもらえるようになったからね。自分で作る薬の材料は自分で採りに行かないと。」
「サクヤは巫女になりたくないのか?」
里の子供は10歳になる年に、赤犬の社の宮守か巫女になるための試験を受けなければならない。宮守とは社の運営者や自警兵等の総称で、巫女は兵にならないだけで、ほぼ同義である。
「う〜ん、特になりたいわけじゃないかなぁ。母様のような薬師になれればいいなぁって思うけど。」
「前は巫女舞の舞手になりたいって言ってなかったか?」
「それはちっちゃい頃の話でしょ?里の子供は皆一度は舞手に憧れるものじゃない。」
「まぁ、確かに皆神楽の真似して遊んでたもんな。」
神楽や巫女舞も社に務める者の仕事のひとつであり、子供達の憧れの的だ。又、年に2回、春と秋に催される神楽と巫女舞は、里の唯一と言っていい娯楽であり、これらの名手は、里のアイドルの様なものであった。
「でも、御力があったら、嫌でも巫女にならなきゃならないじゃないか。」
「そうなったら舞手より楽(ガク:笛や太鼓等の演奏者)の方がいいかなぁ。」
「サクヤなら舞手の方が向いてるんじゃないか?…器量もいいし…」ボソボソ
「ん?何か言った?…って何!」
ドンっという衝撃音が山道の上前方から響くと共に、ハッキリは見えないが前方の山道に大きな獣の様な影が落ちた。
「狼!?…いや、違う異形の獣のように見える。モノノケかっ!」
山道に落ちた狼のような獣は、半身を起こそうとしているが、怪我をしたのか思うように動けないでいた。
「ただのモノノケなら、邪な心がなければ問題ないけど、妖魔ならまずい。大人を呼びに戻るぞ!ついて来い!」
小平太は、すぐさま里に向け走り始めた。サクヤも後を追おうと走り出したが、倒れている獣に鹿のような異形の獣が襲いかかろうとしているのが目に入り、思わず足を止めて見入ってしまう。
小平太はそんなサクヤに気付かぬまま里を目指す。
異形の鹿は異形の狼に角を突きつけようとしたが、すんででかわした狼は鹿の首に喰らいつき、そのまま山道の下に投げ捨てた。
それを見届けた狼は、安心したのか、そのまま山道にへたり込んだ。
(ちっ!鹿ごときに遅れをとるとは。油断が過ぎたか。まぁ、この程度の怪我であればすぐに回復するであろう。)
異形の狼はごちる。
(あの狼のような獣、怪我してる。)
サクヤはモノノケに対する恐れよりも、薬屋の娘としての使命感か、怪我をしているものを助けなくてはならないという思いが先に立っていた。
(む。里の子供か?何故逃げずにこっちにくるのだ?)
異形の狼は訝しむ。
恐る恐る狼に近づいたサクヤは、狼の傷に目をやる。
「やっぱり怪我してる。ちょっと待ってね。今薬を作るから。」
サクヤは籠から薬草を取り出すと、おもむろに揉み始める。
(この間教わったばかりだけど、適当な分量でも効果はあるはず。母様も『心を込めて』作るのが1番大事だって言ってたし。)
(この小娘が薬を調合するのか?)
戸惑いながら様子をみていたが、使っている薬草に問題はなさそうだったので黙って見守ることにした。
(何やらブツブツ言ってるが…。そんなに雑でいいのか?)
「よし!できた。今塗るからね。」
サクヤは手で揉んでペースト状になった薬を、狼の左前脚の付根の出血部に塗り込んだ。
「早く良くなれ…早く良くなれ…。」
サクヤは必死で念じながら薬を塗り込む。
(そのような薬で直ぐに治るようなら、神などいらぬな。)
呆れつつもされるがままになっていたが、すぐに異変に気付いた。
(この小娘、里の者ではないのか?まさか、治療の力を持っているとは!)
サクヤが患部から手を離すと、傷は塞がっていた。
「やっぱり母様の処方だ。あっという間に治るわね。」
(そんな薬があってたまるか!此奴、己の力に気づいておらぬのか。)
「娘、里の者だな。何故そのような過ぎたる力を持っている?」
「狼が喋った!」
「狼ではない!山犬だ。」
「喋るモノノケ…。そう言えばモノノケも神様の御加護を賜れば、妖になって人と話せるって聞いたような…。」
「モノノケや妖などと一緒にするでない。我はこの山の神、アカイヌヌシである。」
「か、神様!なっ…かっ…えぇ!」
「落ち着け。ひとまず傷を癒してもらったこと、礼を言っておこう。しかし其方、里の者で間違いはないか?」
「は、は、は、はい!里の薬屋の娘、サクヤと申します。」
「薬屋の娘…。まぁよい。サクヤと言ったか。其方が持つ力は、本来里の者が持つものではない。其方は両親共に里の者か?」
「だと思いますが、父様は誰かわかりません。」
(あぁ、里の因習か…。人間は妙なことをする…。となると、父親は里の者ではあるまい。恐らくはアチラの者か…。)
アカイヌヌシは少し考え込んだ後、ちらりとサクヤを見たが、ちょこんと正座したまま固まっている。
「その力に気づいておらぬということは、他の誰にも知られてはおらぬようだな。其方は幾つになる?」
「9歳です。」
「ならばもうじき『御力量りの儀』を受けるのだな。それだけの力量があるなら、間違いなく巫女に選ばれよう。だが、その力を知られれば面倒なことになろうなぁ。」
「面倒なことですか?」
「うむ。其方の力は里の者が持てるようなものではない。日輪の神の御力だ。其方の父親が何者かは知らぬが、恐らく里の者ではあるまい。その力を里の者に知られれば、母御も含め里におれぬようになるやもしれぬ。」
「そんな…。でも、御力量りの儀だったっけ?その時にわかっちゃうんじゃないでしょうか?」
「そこよな。量りの儀では力が何かまではわからぬでも、力量はあるゆえ何かしら偽装はせねば、その内知られような。うむ、傷を癒やしてもらった礼も兼ね、別の力を授けてやろう。其方はちと不用心でオツムが足りなさそうゆえ、先見の力でも授けてやろうか。我の仮初が山犬であることからもわかるように、ちと鼻が利くのでな。其方は力の器も大きそうゆえ、力量も増やしておいてやろう。」
(鼻が利く?鼻が良くなるのかな?あまり役に立ちそうにないけど、誤魔化すための力だからいいのかな?)
キョトンとしたまま固まっているサクヤの額にアカイヌヌシは鼻を近づけた。
「では始めるぞ。」
(鼻先は冷たいのに、なんだか暖かくなってきた…。)
「キュエエエエ!」
(なっ!あの鹿か!まだ生きておったか。)
背後から疾走してきた異形の鹿に、アカイヌヌシは思わず力む。
「あっ…しまった。」
加護を与える途中で力んでしまったため、予定より多くの力が流れてしまう。
サクヤはその場に倒れ込むがそれどころではない。
即座に態勢を整えると、鹿の突撃を反らし、組み伏せて喉笛を噛みちぎった。息の根を止めたことを確認して、アカイヌヌシはサクヤの方を振り返る。
(気を失ったか?まさか死んではおらぬだろう…死んでないよね?)
恐る恐るサクヤに近づいたアカイヌヌシは、サクヤの呼吸を確認する。
「息はあるな…。危ないところであったわ。」
とはいえ、意識のないサクヤを前に、どうしたものかと考える。そこに里の方向から人の気配を感じた。
(奴らに任せておけばよいか…。)
異形の鹿が塵となって消えていることを確認して、山犬は森の奥へと姿を消した。
「サクヤ!大丈夫か!」
宮守の大人数人と、里から駆けてきた小平太は、すぐさまサクヤの上体を起こす。
「サクヤ!しっかりしろ!」
「息はある。妖魔ではなかったようだな。モノノケに驚いて気を失ったか、妖に化かさたかだろう。」
宮守はそう結論付けると、サクヤを背負い里への帰路についた。
取り敢えず、最初の10話程度は毎日投稿する予定です。
宜しくお願いします。




