正義のために
「弁慶、敵を引きつけろ!」
「おうよ!」
頼もしい声と共に、低く構えた弁慶から赤い闘気が登った。
知能の低い魔物どもが弁慶に群がるが、ビクともしない。
そこに花蓮が放つ爆炎の魔法が炸裂した。
爆散した魔物達の千切れた四肢の中心で、弁慶は何事も無かったように闘気を放ち続けていた。
「風の精霊シルフよ、貴方の清浄なる風で勇者玲司を護って」
乃愛の遣わした精霊が俺の身体の周りに風を起こした。
輪郭が緑色に光り始めた。
「サンキュー、乃愛!あとは逃げ遅れた住民を誘導してやってくれ」
俺は弁慶の闘気に惑わされない、名前付に狙いを絞って瓦礫の戦場を駆けた。
境界に近い街が、魔王軍の襲撃を受けたと早馬が来た。
俺たちが駆け付けた時にはもう、街は瓦礫に呑まれていた。
自警団と守備隊の犠牲により護られた僅かな生存者たち。
俺が——
俺たちが必ず助ける。
命に報いるために。
三人の子供たちを庇いながら剣を振るう守備隊隊長がいた。
「うぉぉぉぉぉ」
俺は雄叫びをあげて斬りこんだ。
魔物の一撃が振るわれた所に割入り、その太刀を受けた。
金属音が響き火花が散った。
俺はそのままの体勢から魔物の腹部に蹴りを放った。
「早く、子供たちを連れて逃げるんだ」
俺の言葉に隊長は頷くと、子供たちと駆け出した。
俺は切っ先を魔物に向けた。
「良いことを教えてやる。今からお前を殺すのは勇者だ。地獄で自慢するといい」
「良いことを教えてやる。今から勇者を嬲り殺すのは、このギュニウス様だ。自慢させてやりたいが、魂ごと喰らい尽くしてやるから無理だな」
そう言うと牙だらけの——
ノコギリのような歯を見せて汚く笑った。
「言わせておけば!」
俺は牽制のファイアボールをギュニウスの右足へ撃ち込んだ。
横にかわした所へ左側面、脇腹へ剣を叩き込んだ。
ギュニウスはそれを 腰の鞘から半分ほど抜いた剣で受けると俺の腹を蹴った。
疾く重たい前蹴りが内蔵を潰すように撃ち込まれた。
(なんだこれは)
その衝撃に驚く間もなく、ギュニウスは繰り出した右脚を支点に跳んだ。
身体を捻り反転させると、剣を抜いた勢いを加えてバックハンドで俺の首を薙ぎに来た。
俺は上体を逸らして剣の切っ先をかわした。
しかし僅かにかわしきれ無かった切っ先。
喉から薄く血が滲んだ。
乃愛の加護が無ければ、声を失っていたかもしれない。
ヒリつく喉仏にそう思った。
ギュニウスの回転は反転したところで勢いを失い、背を向けて止まった。
俺は臆することなく、剣の柄を握り突きに行った。
次の瞬間——
ギュニウスの右脇腹が光った。
正確には右脇腹の横に光が見えた。
ライトニングボルト!
気付いた時にはかわせない距離にあった。
「アンチマジック」
花蓮の静かな声が聞こえた。
俺の前に光の盾が姿を表し、ライトニングボルトを八方へ散らした。
今度は俺の切っ先がギュニウスを捉えた。
剣を押し返すような体内からの圧力。
それも一瞬のことだ。
俺の一撃で、背中から剣が貫通した。
血を吐いて倒れたギュニウスの身体から勢いよく剣を引き抜くと、更に大量に喀血した。
丁度その頃、王国軍の攻勢が始まった。
あちこちで敗走する魔物たちの姿が見られた。
俺も瀕死のギュニウスを捨て置いて、つぎに向かった。
とどめは刺さない。
せいぜい苦しんで死ねばいい。
それがお前出来うる贖罪だ。




