勇者
「豊本ドクター、それは良いアイディアだよ!」
塚本ドクターは傷口が開きそうな勢いで大声を出した。
周りの患者達も「何ごとか」と身を起こした。
「だが、人選が重要になるな」
塚本ドクターは顎に手を当てて考え始めた。
「いきなり我々が行っても良くて門前払い、悪くて——まあアレだ」
塚本ドクターは言い淀んだが、俺も同じ考えだった。
「もよもと〜」
「もょもと〜」
「もよもとぉ」
三度目の呼び掛けで、ようやく俺が呼ばれているのだと理解した。
塚本ドクターは大笑いしている。
振り向くと子ゴブリンが数匹——数人立っていた。
何か用かと思い話を聞こうとしたが、彼らが話せるのはまだ名前だけのようだ。
(それも言えていないが)
「遊びたいんじゃないかな、もよもとドクター」
塚本ドクターは未だに可笑しそうに肩を揺らしていた。
縫い合わせた革のボール。
中身は綿とかだろうか?
ハンドボールとバレーボールの中間くらいのボールだ。
「ドッジボ、ドッジボ」
なるほど、塚本ドクターが教えたのだろう。
「ようし、分かった。掛かってこい」
両手を広げた俺の頬の横を、何かが空気を押し退けて行った。
ひりつく頬に指を当てた。
「っ痛!」
指先に微かに血が付いていた。
背中でバシぃっと音がした。
「待て待て待て待て!!!!」
言った時にはもう外野が、投球終えていた。
ボールが脇腹を掠めた。
負圧で服が吸い寄せられて裂けた。
「ひぃ」
目を閉じた——
ドッジボールで死を覚悟したその時だった。
「グギャギャガガシャギャギャー」と獣の叫び声が聞こえた。
子ゴブリンたちの動きが止まった。
恐る恐る目を開けるとエドが子ゴブリンたちを怒鳴りつけていた。
「もよもとせんせい、ダイジョブ?ダイジョブ?」
心配そうなエドと、泣きそうな顔の子ゴブリンたち。
俺は立ち上がると「大丈夫、ありがとう」と言って、子ゴブリンのひとりを抱きかかえた。
高い高いをした。
なんとなくだが、それが正解のような気がした。
キャッキャ笑う子ゴブリンを下ろすと、次から次へと高い高いをせがまれた。
いつの間にか俺の周りには人だかりというか、ゴブだかりが出来て賑わっていた。
「いやぁ、えらい目に遭いました」
そう言って左手右肩を揉むと「もよもとドクターは人気者になったな」と塚本ドクターが笑った。
「そうだ、塚本ドクター。どうしてそんなに笑うんですか?子ゴブリンたちが上手く言えないだけなのに」
俺がさっきから感じていた疑問というか違和感を口にした。
「そうか、キミは若いから。私が子供頃のゲームの裏ワザでな——」
塚本ドクターは、RPGの裏ワザで出てくるキャラクターの名前が【もょもと】だったと教えてくれた。
「キミは現世から来た本当の勇者なのかもしれないな」
そう言って彼はまた笑った。




