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魔物のお医者さん  作者: 浅見カフカ


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6/7

天啓

塚本誠司。

彼はそう名乗った。

目を離せば診療と治療を始めようとする。

俺とエドで止めるのが日課になった。

ポーションの効果があるとはいえ、まだ一週間も経っていない。

しばらくはベッドの上からアドバイザーとしての活動をお願いしている。

なんせ俺は獣医師の卵。

人間も魔物も専門外だ。

いや、専門の動物だってまだ分からないことだらけの元学生。

エドが伝書鳩のように往復するので、休まる暇も無いかもしれないが。


診療所の外がにわかに騒がしくなった。

捜索隊が、瓦礫の下から子供を発見して担ぎこんで来た。

子供は親が覆い被さる形で、柱に押しつぶされずに助かったそうだ。

もちろんゴブリンの子供だ。


診察の結果、脱水症状がみられた。

他に外傷も無かったのだが、彼には笑顔も無かった。

きっと、父親の命が徐々に失われていく様子を見ていたのだろう。

人間の子供だって同じだ。

精神的なケアを必要とするだろう。

だが子供の救助と生還は、全体の沈んだ空気を払拭するニュースだった。

きっと塚本ドクターも喜ぶだろう。

こういった希望は、患者たちの予後に良い効果をもたらすことが多い。


——人間と何が違うのだろうか。


この数日で疑念はどんどん膨らんでいった。



夕刻、塚本ドクターに俺はこの疑念をぶつけた。

「臆病なんだ、我々は」

塚本ドクターは静かにそう言った。

「違いを容認出来ない。それは姿形だったり、思想だったり、宗教だったり......」

続けてそう言うと、深く息を吐いた。

でもそれは諦めのため息では無い。

塚本ドクターの目は力を失っていなかった。

「豊本ドクター、この医療キャンプを両軍に認めさせよう!」

塚本ドクターはそう言って俺の手を取った。



あの時は勢いで「はい」と言ってしまったが、魔王が我々の謁見を認めるだろうか?

国王軍だってそうだ。

ともすればこの医療キャンプが両軍の共通の敵となるかもしれない。

唾を飲み込んだ。

体温が下がっていくのが分かる。

おそらく理想だけを掲げて乗り込んだところで、その場で処刑だろう。

両軍にメリットを提示出来なくてはダメだ。


答えの出ない思索にふけっている最中も、エドは診療所を駆け回ってくれていた。

「すまない、エド。すっかり任せっきりだった」

俺が仕事を代わろうと診察室を出ると「デキるコト、スル」と言って、別な仕事をしに奥へと消えて行った。

俺はその背中を目で追う途中で、天啓を得たように目の前が開けた。


俺は塚本ドクターのベッドへと走った


「ドクター、医療デモをやりましょう。魔王の前で治療のデモンストレーションをするんです」

俺の大声に驚いたのか、アイディアに感嘆したのか——

見開かれた目の理由が早く知りたかった。


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