魔物のお医者さん
目を覚ますとベッドの上だった。
帆布の天井と壁。
隣のベッドには医者が眠っていた。
俺が身体を起こすとエドが走って来た。
「オマエ、寝る。ヤスム」
「大丈夫、患者さんを寝かしてくれ」
俺はそう言ってベッドから身体を起こすと、外に出た。
太陽が眩しい。
手で庇を作って見回すと——酷いものだった。
黄色い札を手首に付けた患者の多くが、その症状を悪化させていた。
「俺はどれくらい寝ていた?」
エドに尋ねると「まる一日」と教えてくれた。
24時間の間、誰も治療を施す者が居なかった。
これは言葉通り致命的だった。
赤い札の患者の多くは、命を落としたと聞かされた。
俺は膝を付いて叫んだ。
肺の空気の全てを吐き出すように叫んだ。
叫びに最後は咳き込んで終わった。
俺が気を失っている間に、助かる命が失われてしまった。
この世界に転生して以来、異なる価値観に触れることはなかった。
魔物は全て悪逆非道で、国王軍は人類の存亡を賭けて魔王軍と戦っている。
だから——いや、だからは間違いだ。
俺は盲目的に疑うこともせずに、魔物を殺す手伝いをしてきた。
パーティーが魔物の潜む洞窟を攻略した時は、いぶす為の生木を集めて回った。
重傷の魔物が倒れている横で、弁慶さんの擦り傷に手当てをしたこともあった。
玲司の打撲の手当が終わる頃には、魔物はこと切れていた。
今回と同じように集落を焼いたこともあった。
魔物は存在してはいけない悪だから。
これは崇高な絶滅戦争だ。
そう思い込んで悪逆非道な行為をしてきた。
その価値観が反転した。
彼はこの世界のアンリ・デュナンだ。
敵も味方も関係なく救う。
あの医者の前では皆が等しく命だった。
俺も救いたい。
現世ではその為に学んでいた。
だが、救えなかった。
救わなかった。
——殺してきた。
玲司も、弁慶さんも、花蓮さんも、乃愛さんも手を汚して来た。
覚悟を持って。
俺は常に輪の外で無関係を装って、積極的に加担してきた。
そう、救いようのない卑怯者だ。
ゴブリンは悪だから仕方ない。
オークは悪だから仕方ない。
コボルトはオーガは——
俺はどんな顔をしていたんだろうな。
人間は悪だから......
俺の顔を見た魔物たちは、きっとそう思っただろうな。
——俺も魔物だ。
「エド、俺はキミ達の同胞を大勢殺してきた」
俺の後ろに立つエドは、黙って聞いていた。
「あの人のように救う側になりたいと言ったら、キミは、キミの仲間は、俺が殺してきた相手はなんて言うだろう」
エドの手が肩に置かれた。
「ミルファ、オマエ守った。ソレが答え」
ミルファ——
あの小さなゴブリンは、ミルファと言うのか。
玲司から俺を庇って、命を落としたゴブリン。
「ミルファ......」
俺はその名を呟いた 。
エドは頷くと聴診器を差し出した。
俺はそれを受け取り立ち上がると「赤札から順にだ」と言った。




