016 すぺしゃるすーぱー大作戦 Ⅲ
「やってみないと分からないぜお姉さん?」
その瞬間、巨大な殺気と共に一本の木が浮き上がり、こちらに向かって飛んできた。動きはさっきの小石よりも遅く、容易に避けられた。しかし、空気が遅れて木を追った事で風が身体に打ち付けられる。
「っ!」
「〈移動魔法〉」
詠唱が唱えられると同時に地面が揺れ始める。ぐらぐらぐらという音が響き渡り、震度は更に上昇してゆく。
ピキピキピキ
地面に亀裂が走っていく。ちょうどジャックの両脚の間を通り、ピタリと止まった。
この状況、もしかして怒らせちゃったか?ちょっと挑発しすぎてしまったかもしれない。それに、この地震のまま戦うのは厳しい、でもそれはアイツも同じはず。このまま避け続ければセルが来るから大丈夫。
そんな事を考えていると、予想外な事が起きる。なんと、亀裂が入った所で地面が勢いよくふたつに別れ、地面が二つに割れる。そのため、渓谷のようになった亀裂にジャックは為す術なく落ちてしまう。
「え…?」
渓谷に落ちてしまった。まずい、と思った頃にはすでに地上から3mほど深い所にいた。
落ちている事に気付くと、身体が勝手に両手両足で落ちないように固定されていた。
しかし、安心したのも束の間、グラグラという轟音と共に渓谷が閉じて行く。
「ちょまてまてまてって!」
両手両足の筋肉を硬直させる。すると、渓谷は閉じるのを止める…ことはなかった。両手両足が震え、頭に土の崖が触れる。このままいくと潰されてぺっちゃんこになってしまう。
死にたくない、というジャックの気持ちに反してゆっくりとまるで自動ドアのように渓谷は閉まっていく。こんな所で終わるのか…そんな時だった。セルのある一言を思い出す。
「"魔法はね…不可能を可能にするものだ"」
「Garento Kastam Earth!」
目を瞑る。
俺の体よりも硬い土を作る想像をする。薄い土を固め、その硬い土を固め、その硬い硬い土を…それを連続して、ありえないほど硬い土を作る。その土を棒状に加工する。
詠唱して1秒後、土の棒が右手に握られていた。今まで作った物のどれよりも硬く、色も相まって石の棒のようだった。
棒を渓谷に突っ張り棒の要領で閉じるのを止める。だがそれも余り持たないだろう。
だから俺は、突っ張り棒を踏み、空へと跳び上がる。渓谷から出た瞬間、土と土が勢いよくぶつかる。とてつもない音と振動が身体を震わせる。
そんな轟音が鳴り響くのと同時にもうひとつ何かを蹴る音が聞こえた。振り向くと、そこには軍服女がいた。
「っ!」
手に持っているのは〈生成魔法〉で創られた剣だ。白色に光り輝いている。
間一髪の所で一発目をかわす。剣先が見えない神速の刃。空気を斬った時、時間が遅くなるような感覚がする。
避けた直後に細かいステップで何時でも動けるように後ろに下がってゆく。軍服女は追撃するのを諦め、こちらをジーと見つめてくる。
「…あなたは人を殺した事はある?」
「…ない…お前が勘違いしてるだけだ。おれは魔族でもなんでもないし、おれは人間だ」
「……」
再び、沈黙が辺りを支配する。軍服女は攻撃姿勢を完全にやめ、ずっと無表情でこちらに頭を向けている。
その瞬間、彼女の雰囲気が変わった。何か、魔法を使った訳でもない、体をものすごく動かした訳でもない。ただ、威圧感が増した…それだけだったけれど俺の心臓の鼓動はフルスピードで脈打っていた。
「貴方は、私が貴方を人間のように扱うと言ったら、あの女を裏切る事はできる?」
「…!人間のようにって殺さないって言うことか?」
「ええ…貴方を人間として、殺さず保護するわ」
そんな…そんな事有り得るのか?さっきまで殺しに来てた奴が急に見逃すって…
俺は少し考えてから、答えを軍服女に伝える。
「確かに、そうしたいが…あいつを裏切る事は出来ない…お前たちに着いて行ったらダメって俺の勘が叫んでるんだ、だから俺はここで時間を稼ぐ」
「…やっぱり、貴方は…」
軍服女は何かを言おうとしてその言葉を飲み込んだ。そして、彼女は剣を強く握った。
「哀れな魔物よ…帝国先鋭部隊第6隊員シャルゼ・ミルドレットが貴方を清らかに冥府の門へと潜らせましょう…」
「何を言っ…!」
彼女は身を屈めたその瞬間、彼女はとてつもない威力で地を蹴り、瞬発的に音速を超える。
「Shoot!」
数え切れないほどの魔力の線が彼女の身体から取り出される。魔線の先には青い光が球体のように輝いている。光に魔力がとぎ込まれ、青い光から圧縮された明るい青の光がジャックの元へと一直線に向かってゆく。
(当たったらまずい!)
そう思い、光を間一髪で避ける。服が光にかすれて、服は燃えて散り散りになっていた。その後も2、3発を目で見て避ける。
彼女が近づき、2人の距離がおよそ10mほどになった時、青の光は一斉に輝く。
光の向かう向きは地上だけでは避けれない事が理解できる。そのため、バックステップで下がろうとした時、少し大きい石に突っかかって転びそうになる。後ろに倒れ込みそうなのを、無理やりジャンプして後ろに跳ぶ。その間も彼女の剣から目は離さないようにする。
「〈跳躍魔法〉」
(来た!)
彼女が3m程、跳躍する。目に追えるがとても速い。手に力を入れているのが分かる。空中、彼女が天で俺が地。超至近距離のガチ恋距離だ。
「〈界を断絶する刃〉」
彼女の透き通った声が聴こえた瞬間、刃が青白く輝く。暗闇が晴れて世界が剣を中心に創り変えられる。 たった1秒、それだけで俺の目は奪われていた。青白い刃はまるで新しい太陽のようで…俺には禍々しく見えた。
俺は今日の特訓で集中すれば魔力線というのが見えるようになった。それは魔法を使う上で魔力を魔法に与えるというとても重要な線だ。気体を通って自分が魔法を作りたい場所に作ることが出来る。
その魔力線が剣に集まってゆく。それも1本じゃない、数え切れない程の線が1点に集まってゆく。
剣が遂に振るわれる。その構えや動きはブレがなく、とても綺麗だった。剣先がジャックの髪の毛に触れた瞬間、周辺が青に染まる。
とてつもない量の光が発せられ、思わず目を細めてしまう。彼女は光を見ても動じずにジャックの事を観ている。
そして、青白い光ごと文字通り一刀両断する。斬られた空気や地面は真っ黒に、酸素も原子ごと斬られる。
世界が創られ、壊される。壊された世界の暗闇に光が舞い込み、真空になった所に空気が飛び込んでくる。刃の輝きは機能を失い、剣は砂のようにボロボロになる。
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「ちょっとやりすぎたかも…」
大地はふたつに割れ、木の葉は乱雑に地面に横たわっている。やっぱりこの"恤"は魔力の消費も激しい。多分魔力の約5分の1を使ってしまった。
「これから魔女との戦闘があるのに…」
魔法で小さい小刀を右手に出現させる。魔力弦を切るためには、色々な工程が必要になる。火に弱い弦もあれば水に弱い弦もある。そんな弱点を探さなくては絶対に切ることは出来ない。めんどくさい…
小刀に火を灯す。火が弱点の弦が1番作りやすいしまずは確認しないといけないエネルギーだ。
「…?……!」
(この弦、動いてる?!)
その時だった、私の身体は近くの森へと引っ張られる。まるで糸で引っ張られるように。
空中に投げ出され、目で周りの状況を瞬時に把握する。葉がとれた木々、葉が散らばっている地面、そして人影。
受け身を取り、〈生成魔法〉で剣を右手に出現させる。剣を握り、矛先を魔物に向ける。
「瞬間移動…信じられない」
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「…はぁ…はぁ…」
(体のバグ発生まで5分くらいか?…バグを使えるのはあと3回くらいが限度かな…魔石を使うのは体のバグの後にしないと…てことは、それまで無傷が必須…)
ヤバいと思ってバグを使ったが正解だったな。何故か、いつ来るか分かるようになってるし…
魔石があるかどうかポケットの上をさりげなく触り確認する。少しでかい塊がある…多分魔石だ。
だから後はセルが来るまで足止めするだけだ。
(早く来てくれ…セル!)
彼女の方を見ていると、おかしな事が起こる。彼女がゆっくりと前に倒れていく。地面から90度…60度…30度ともう地面に胸がつく所まで行く。
その瞬間だった、彼女の身体が消え、気付けば目の前に居た。剣を右手に持ち、流れるように首を狙ってくる。
「…!ぐっ…」
手から血が出ている。慌てて両手で剣を受け止めたせいだ。首まで数センチ…少しでも力を緩めると殺られる。それに剣は力を入れても折れない、硬すぎる。
彼女は受け止められた事に驚きながら、剣を消滅させる。力を入れていたから当然、ジャックは隙ができる。そこにすかさず、右足で蹴りを入れられる。
ジャックは空へと投げ出される。腹を蹴られ、吐血をしてしまう。口からは血が垂れ続けている。
(よし!このまま森に行けば!)
「…」
後もう少しで暗闇に包まれた森に着くという瞬間に後ろから魔の手が忍び寄る。
「Shoot」
彼女の持っている、刀がものすごい速度でジャックの頭を照準に飛んで来る。ヒュンと風を切る音が聞こえる。咄嗟に頭を傾けることで、頬を掠めたが致命傷にはならなかった。
「っ!」
そのまま、ジャックとシャルゼの距離は縮まりながら地面に着地する。着地の時差、それがあったおかげでジャックはシャルゼの一撃目を避ける事ができた。
続いて二撃目、狙ってくるのは左横腹。頭のように関節がなく動かすことが出来ない。ジャックは無理だと判断し、あるバグを使う。その影響で、速度は上昇し体にノイズが身体をかすかに覆う。
今使ったバグは(思考を2倍速にするバグ)だ。なんとなく、頭の回転を2倍速にしてガルタ人の身体能力で無理やり動かすことで速度を上昇させている。
ちなみにこのバグはゾンビが襲来してきた時にも使った。でもその時より、状況は苦しい。あの時はゾンビが止まっているように遅かったのだが、今はやっと普通ぐらいの速度の人と戦っているぐらいの速さだ。
(クソ、考えすぎて頭がいてぇ…)
左、右、右、右、左と木々を勢いよく避けていく。前から迫ってくるような木を見極めて、身体に脳から一つ一つ信号を出す。切り傷は増えてきているが魔石の効果で痛みが引いてきている。どうやら1度使うと継続的に回復するようだ。
(左足は踏み込んで、右足を前へ、左手を前へ、右手を後ろに引き下げる!)
このような事をすることで思考が2倍速になっているため、有り得ないほどスピードが出る。
しかし、彼女は瞬発的な速さが異次元であり、ジャックの速度についてくる所かジャックよりも速い。セルが言った通り、避け続けなければいけない状況になっている。
彼女の攻撃パターンは主に3つだ。
一つは剣での攻撃。1番避けにくく、1番してくる攻撃方法だ。〈飛翔魔法〉からの斬り、たびたび来る謎の超速度から繰り出される攻撃。どれも何処を狙っているのかが分からずよく切られてしまう。
二つ目は魔法での攻撃だ。魔法の弾を背後や頭の上などの死角から攻撃してきたり、剣先を伸ばす魔法などの剣に細工をしたりする物もある。特に足を止めた時に打ってくる十の魔法弾は追尾性能が備えられていて避けるのがこんなんだ。なので足を止める事を拒否される。
三つ目、魔法が何かでの地面を操ったり、木を操る魔法。魔線が見えなく、何処から来るのかが分からないので不意に当たってしまう。
(あと4分……フェーズ2に突入しよう……)
そうして、俺は左手を強く握った。




