015 すぺしゃるすーぱー大作戦 Ⅱ
辺りが暗闇に包まれていく中、10分ぐらい経った。暇だったので、手に持っている弓を握りしめ、最後に試し打ちをしようと思ったからだ。ちなみに、この弓はセルの家にあったものらしい。ぜひ作った人と話してみたい。
そんな呑気なことを考える。しかし、3秒後にはそんな事を考える暇もなくなる。世界が変わったような感覚がした。張り詰めた空気、雲で隠れていた太陽が覆い隠され、暗くなっていく世界。
俺はこの瞬間、全神経が「下がれ!」と叫んでいる。俺は、弓を落とし、その声を信じて後ろに飛び跳ねた。
ヒュン(音)
そんなラケットを振り回したような音が耳元で聞こえた。俺は後ろに転がりそうなのを堪えきれず、思わずバック宙をする。そして、急いで飛んできた物体に目を向ける。
そこに居たのは、鳥でも、魔物でもない、軍服を来た女性だった。
「…君がこっちってことは魔女はあっちね」
そんなことを呟き、彼女は飛んで来た方向を向いた。その時、近くにあった岩が浮く。体積はちょうど彼女と同じくらいだ。俺はこの瞬間、彼女が逃げようとしてることに気付く。
「逃がすかよ!」
「Shoot」
彼女の体がふわりと浮き、岩に両足を添える。流れるような動作をしてから、彼女は脚に力を込める。
そして、岩はものすごい速度で飛び立つ。そのまま、街までひとっ飛び……することはなかった。
「!…なにこれ…」
飛び立ったはずなのに何かに引っ張られるように奴の方向に飛んでいく。気付けば、私は奴に受け止められていた。
よく見ると背中から魔力の線が出ている。それも高密度の切れずらい線だ。
「〈魔力弦〉こんなものまであるとは…」
「っ!」
奴の頭を狙って肘をぶつけようとする。しかし、当たる寸前で後ろに避けられる。
「もっと楽しもうぜ、まだまだ足止めは始まったばかりだぜ」
「…最悪」
彼の顔は笑っていた。昨日、逃げてた人とは別人みたいだ。こっちが素なのかは分からない。でも、こっちの方が魔族らしい。
「あなたみたいなイケメンは…この世に要らないわ…Arrow」
瞬く間に光の矢が生成される。1234…やばいな数え切れない。避け切れるか?
汗が頬をつたる。こんな感覚は初めてだ。殺されるかもしれない、でもそれがいい緊張感を出している。集中できる。この「新しい魔法」に!
矢を避ける、避ける、避ける。ただひたすらに避ける。矢が来る隙間を見つけて飛ぶ、というのを何回かする。10秒ほど経つと矢は生成を止める。
次はどう来る?
(あれ?あの女はどこだ?)
「単純だね…君は」
「っ!」
次の瞬間、とてつもない轟音が森全体に響き渡る。空気が振動し、葉は何枚か落ちてゆく。ただの蹴り、でも速度がおかしい。ジャックが本気を出してもあの速度は出ないだろう。
「こんな典型的な目眩しに引っかかるなんて、魔族以下ね」
「…だから…おれは魔族じゃねぇ」
「…!」
彼女の目が見開かれる。まるで信じられないものを見た時のように。
魔石をひとつ使ってしまった。そのおかげで、傷も痛みもなくなる。ほんとに便利な魔石だ。1家に1台は欲しいな。
「そんなものも持ってるんだ…」
「あんたを倒すためにな」
「ふーん…それは出来ないけどね…」
その瞬間、彼女の近くにあった小石がありえない速度で飛んでくる。顔にぶつかる寸前で右手で掴む。
「!」
手が熱い。煙が出ていて、小石は粉々になっている。
その様子を見た彼女は驚かずに、こちらに石を飛ばしてくる。もう1度掴むことは難しい、よって俺は全てを避ける。しかし、2.3個ほど、服を掠める。
猛攻が止まったと思ったら、でかい石が飛んでくる。避けることも掴むことも難しいから、殴ってぶち壊す。バリバリバリという、石が砕ける音が近くで聞こえる。
「来た!」
俺は、後ろにいるであろう彼女の服を掴む。狙いは的中!やっぱり目眩し…
「同じ手は通用しねーよ!」
彼女を遠くへ投げ飛ばそうとするが、彼女が阻止してくる。だから俺は彼女の右手を振りほどく。すると、左手を突き出してくる。それをいなす。衝撃をクッションのように受け止める。
右手、左手、右手、左手という感じで首や胸などを狙ってくる。それを全ていなす。
「がはっ!」
背中に衝撃が走る。どうやら、石が何かを飛ばしてきたのだろう。衝撃で動けなくなった一瞬で蹴り飛ばされる。
体が宙に浮く。空気がぶつかってきて痛い。何とか、首を曲げて軍服女の方向を見る。 その瞬間、俺の視界には軍服女が俺を蹴り落とそうとしているように見えた。
「はやっ!」
ドーン
垂直に地面に落下する。とても、人間から出る音ではなかった。俺は咄嗟に、魔石を割って傷を回復させる。そして、すぐその場から離れる。
それにしてもさっきの速さ…そうか!魔力弦を利用して、引っ張られたのか!
「また回復…あと何個かな?」
「教えねーよ!」
「そう…まぁ、100個あっても足りないわ、あなたの実力じゃ」
「どうかな…やってみないと分からないぜお姉さん?」
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「あっちはもう始まったようだね…さて、ボクも約束は守らないと」
今からボクがするのは魔石のコントロールの調整だ。実は魔石のひとつが割れてしまって魔力が漏れているようだ。ジャック…壊したな?
それはまぁ仕方ないか…異界人は魔法も戦闘も出来ないことが多い、それに比べれば凄いか。時々、魔物を見るだけで気絶するやつもいるし、彼は戦闘の才能があるのだろう。
「おっと!」
(あれは、人間?…てことはあの女の刺客か。めんどくさいな、魔力は使いたくないしなー)
セルは魔法でキャップをだす。ジャックが言っていたのはこんな感じだろうか?
これで顔を隠せば、ただの怪しい少女だ。我ながら良いアイデアだ。これなら気付かれずにあそこを通れる。人数は…4人。全員軍服を着ている。
(強さ的には、魔法使いが1人と体術がすごい…剣か槍を使うのか?そして、あの少年は…へー面白いな…出来れば戦いたくないな)
「この服、やっぱダサいんだけど」
「そんなこと言わないでよ…機能性は1番なんだから、それにこれは公共の任務だから」
「そうは言っても、いつもの服の方が好きだぜ、俺は」
「僕もです…」
そんな会話が聞こえる。この緊張感のなさ、ちょろそうだしいけるな。
「…ん?あれ誰だ?」
小さい方の剣士がボクの事に気づき、そんな言葉を呟く。その瞬間、空気が張り詰めたものへと変わる。そして、全員の視線がボクの方へ向く。
「誰だ?」
金髪の男の低い声が、耳に入ってくる。
「ボク…迷子になっちゃって街から出ちゃったの…入れてくれない?」
「…そうか、じゃあちょっとまっててくれ。確認する」
そう言って、魔石を通じて誰かと連絡をとる。その間、シーナは魔法で普通の少女の魔力線かを確認したりする。
魔力線、それは魔法を使う時に出てくる線だ。それのブレで熟練の魔法使いかが分かる。それに、強い魔法ほど線は濃くなる。
(まぁ、ボクぐらいになれば調整出来るんだけどね)
「んーこれは普通の人の魔線だなー、ダスト!この子は本当に迷子みたい。魔族でもないし、こんな可愛い子放置してられないよ、早く誰か呼んであげて!」
「あぁ、ちょっと待ってろ」
「それにしても綺麗なオッドアイだね」
「…ありがとう!」
これで多分大丈夫かな。良かった、バレてなくて。
「ねぇ、君…もう1回魔法出してくれる?」
「…うん」
そう言って、詠唱を初めて水を出す。もちろん、子供くらいのレベルにしている。ちょっと弱すぎるかな?子供なんて全然みてないから分かんないや。
「この魔法、おかしいです」
「えっなにが?」
魔法使いの女はなにがおかしいかわかってないようだ。ボクも分からないんだけど…
「ブレが一定すぎる…まるで自分で動かしてるようなブレ…」
「そんなの知らないよ…!」
キィィン
「やっばり、ブレないでできるじゃん……魔女!」
銀髪の少年が攻撃してきたから、咄嗟に〈防御魔法〉を展開してしまった。これじゃもうバレたようなもんだな。
「ありゃりゃーバレちゃった、これはもう戦うしかないかな!」
自然と口の端が持ち上がる。人間との戦闘は何年ぶりだろうか。まだ勘が無くなってなければいいが。
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彼女の目は輝いている。まるで戦闘がしたかったように。やっぱり魔女だ。というかこの時間に迷子の子がいるわけが無い。
「みんな、魔女だ!
ここで、僕達が止める!」




