012 ぎゃあああぁあぁぁ!!
セルが家を飛び出してから1時間ほど経過した。
分かった事は、この家は特に何もないということだ。シーナの家にあったコンロのような物もなければ、遊び道具もない。言ってしまうと、家具が必要最低限しかないミニマリストの家だ。
しかし、良いところもある。それは、自然に囲まれていることだ。この世界もいつか、現代の地球のようにCO2とかの温室効果ガスが排出され続けて温暖化が進むんだー!…だから、こういう木のみの家は素晴らしい!
『謎の演説その①』
「ん?こっこれは?、弓?!」
置いてあった弓は、大きく弓道で使うような弓だった。ほとんどが木で作られており、それも弾性力の強いとてもいいのが使われている。それに、この弦…細い!
「この弓は大きさ的に七尺三寸か…そして、弦は…麻弦でサイズは1号、面白い…この弓!竹弓じゃないのに麻弦をつかってて、だけど、それがこの弓の良さを引き出しているな…弦の張りはちゃんとしてるな…やばい!試し打ちしたい!」
この弓は、地球でつくられた竹弓とは違う。竹と同じような材質だが、日本で作られた弓とはまるで違う。
言うならば、お菓子でいうきのこの山とたけのこの里だ。材料は同じだが形が違ったりして日本の弓とは違う。
多分これは作る人が違うからだろう。弓にも色んな工夫がされている。そして、工夫を凝らして作っていくと必ずクセがでる。それは、悪い事もあれば良いこともある。
特にクセが出るのは、持つ所の「握」と「鳥打」だ。カーブはどのくらい曲げるか、それは職人のさじ加減で決まる。この弓を作った人は日本というより、外国人が作った竹弓と言ったところだろうか。
ジャックは目を輝かせながら、部位ごとに一つ一つ解析していく。その様子は専門家のようでもあり、無邪気な子供のようであった。
「あいつ、まだ帰ってこないよな?…いやまあ一回だけ、一回だけだから別にしてもいいよね?試し打ち…よし、行くか!」
ジャックはセルの弓を持ち、玄関へとうきうきで向かう。もう、お腹が空いたことも忘れていた。そして、ドアに手をかけて扉を開ける。扉が軽々しい音を出しながら、外の景色が家のなかに入り込んでくる。
外は薄暗く、午後6時くらいだろうか?視界が少し悪いけど、一回打つだけだし大丈夫なはず…
ジャックは呪われた人のように「一回だけ…」と何回も呟きながら、弓をつがえやすい場所へと森を彷徨うのだった…
「ここでいいか…よし、Garento Kastam Earth!」
土の矢を生成する魔法の詠唱を行う。俺がいつも使ってる弓が合えば良いが…そんなことを考えながら弓に矢をつがえる。驚いたことに、矢は弓の大きさにピッタリと合う。
「すぅ〜」
深呼吸をして肺に空気を溜め込む。そして、少しずつ弦を引き、空気を吐き出していく。その動作は、手慣れていて見ているだけで誰もが「美しい」と感じるだろう。それほど専念された構えまでの動き。
しかし、ジャックとしては少しやりづらい。なぜなら、バグで作った弓は、糸を切れないようにしている。そして、これはただの弓、だから力をとても抑えている。それにしてもこの弓、全然壊れねーな。こんなに張りが強いのに…まぁ弓の素材がいいのか。心の中で勝手に納得する。
狙うは20mほど先にある木。いま聞こえるのは、隙間風のような音。夜の涼しい風は、暑さだけでなく、緊張感も和らげる。そして、風が止み、静寂がおとずれた瞬間、矢を放つ!
ヒュン、という風をきる音が静かな森に響き渡る。そして、矢が通った周辺に、遅れて風が吹く。
矢は、狙った木の矢に見事、命中する。矢は、木の奥まで刺さる。
「…いいな、この弓。クセがあるけどめっちゃ使いやすい!あとでセルにくれないか聞こうっと!」
ジャックはとてもご機嫌になる。こんないい弓、世界でもなかなかないぞ。きっとこれを作ったのはいくつもの弓を作った職人なのだろう。
「もう一回だけ打とうっと!」
上機嫌になったら、子供のように遊び続ける。それがジャックという生き物。
その後、3発ほど打つ。すべての矢が木に命中する。
「っ!」
その瞬間、頭に痛みが生じる。それは、ただの頭痛ではなく「バグ」を使ったときに起こる痛みとまったく同じだった。突然、痛みが生じ、だんだん修復されていく。その感覚があった。
ジャックは頭を両手で抑える。しかし、痛みは収まらない。言葉にならないうめき声を必死に抑えて呼吸をする。
「はぁ…はぁ…もう帰ろう…」
本当はもっと打っていたかったがそれどころではない。それに、セルが帰ってきてたら心配するだろう。「なんでいないの!?」って。
俺は優しいから、帰ろうとする。辺りは初めに来たときよりも少し薄暗い。そんな、幽霊でも出そうな森の中をとぼとぼと歩いていく。頭がイタイよ…
(なんでこの痛みがするんだよ!よりによって、初!異世界弓だったのに!)
今の心の中には、後悔と苛立ちしかない。結構痛みが引いてきたから、帰らなければよかった…という後悔。なんでこの痛みが来るんだよ!…という苛立ち。 そのようにジャックの頭の中は、負の感情で埋め尽くされていた。
しかし、もう家についてしまう。ここまで来たしもう帰るか…と思いながら、ドアに近づいてく。
そして、ドアを開けるとそこには人がいた。それは、セルよりも身長が高くて身体が緑がかったゾンビだった…
「ぎゃあああぁあぁぁ!!」
「…」
バタンッ
勢いよくドアを押して閉める。ジャックは怖さのあまり、思わず尻もちをつけてしまう。考えて見てほしい。扉を開けたら薄暗い部屋の中で人ならざるものがいる。怖すぎる!
ジャックはカタカタと肩を震わせながら、何も起こんないでくれ、と願う。しかし、その願いは現実にならなかった。
キィーと言う音を立てながら扉が少しずつ開いていく。あともう少しで扉の奥が見える!
ジャックは扉から逃げるように後ずさる。
そして…
「ジャジャーン!出てきたのはセルちゃんでしたー!」
「うわぁぁ……え?」
一気に肩の力が緩む。ゾンビが出てこなかった…まだよくわからないが、あのゾンビは夢だったのか?…いや、あれは夢じゃない。だって、セルの後ろにはゾンビが見えていたから。
ジャックは、震える手でドアの向こうにいるゾンビに指をさす。
「あ…あれは?」
「ボクの…使い魔、かな」
「ツ…ツカイマ…」
この世界では、ゾンビすら人間のペットなのか…
それよりもこのゾンビ怖すぎ!人間に似てるし身長高いし顔がこわい。あのギョロッとした目、夢に出るぞ…
「ところで、なんで出ていったのかな?」
「えっと…」
「あれ〜その弓、君のものかなー?」
「…!」
セルは相変わらず、いつもの笑みを浮かべている。あの笑み、何もかも知られてる感じで怖いんだよな…
(この顔は怒ってるのか?分かんねえ)
「いや〜いい弓があって…ちょっと触ったりして…」
「うんうん」
「…打ちたくて、打っちゃいました、ゴメンナサイ…」
「…まぁ別に怒ってないからいいんだけどね」
(怒ってないんかい!)
「はぁ…逃げたのかと思って心配しちゃったよ…」
「…ごめん、でももう俺は逃げねえよ」
「?」
セルの笑みが消えて、頭に疑問を浮かべる。そして、俺は口の端を持ち上げながら本音を言う。
「これまでの人生ゴミなんだ。だから、スリルのある楽しい人生送んないと損だろ?」
「……あははは!」
突然、腹を抱えて笑い出すセル。
「そういう考え方、ボク好きだよ」
「…俺の人生楽しくなるか?」
「もちろん…飽きの来ない楽しいライフをおくらせるよ」
俺は少しの会話をしただけなのに…ちょっとだけセルのことをしれたような気がした。
その後、俺達は少し笑い合いながらセルの家に入るのだった。




