001 転生〜Error〜
団体戦、ベスト4をかけた大事な試合。
ゆっくりと弓を引く。いつもはそれだけで集中できる。だが今日は緊張のせいか集中できなかった。
心臓の音がうるさい、うるさい!
たった今、4セット目の6射目、点数は1点負けていて相手はもう6射撃っている。
(2点以上を取れば勝てる!)
「ふぅー」
ゆっくりと息を吹く。弓を持つ手が震えている。震えが抑えきれない。そのまま、ゆっくりと右手で顎まで弓を引く。そして、右手の力を抜く。
ビュンと音を立てて、矢が放たれて風をきる。しかし、その矢は的に当たらず下の的台に命中する。
会場にどよめきが起こる。矢を外した選手、慈矢駆は選手との握手をして逃げるように会場から出ていった。そのまま人気のない路地裏に、なくなった緊張と出てきた絶望を持ちながら向かって行く。
「ジャック、お前なに外してんだよ!」
追いかけてきたチームメイトの森岡が叱る。その声は怒りに満ちている。いわゆる、激怒と言うやつだ。
「…ごめん」
その瞬間、ドゴッという重い打撃音が路地裏に鳴り響いた。ジャックは「ヴッ」とうめき声をあげて殴られた鳩尾を抑える。
「俺にとって最後のオリンピックだぞ!信じられないミスをして、『ごめん』で許されると思ってんのか!お前のせいで負けたんだぞ!」
森岡の声はいままで聞いたことないほど低く、顔は鬼の形相である。ジャックは「ヒューヒュー」と苦しそうに息をしている。
「お前のせいで賞金がぁ...」
森岡は「こんなはずじゃなかったのに」と小声で言った。森岡は最近お金を欲しがるようになった。なんでかは分からないが森岡は変わってしまった。
そのためジャックは、何かあったのかと心配した。心配するのは森岡はジャックがアーチェリーを始めたきっかけの大切な人だからだ。
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「アーチェリーやんないか?」
それは10歳の出来事だった。森岡は同じクラスだった。でもジャックは運動神経があまりよくなかった。そんなジャックに声をかけてくれた森岡に思わず尋ねた。
「僕なんかでいいの?」
「お前がいいんだ。お前は根性があるからな」
「なんでそう思うの?」
「だってお前、できるまであきらめないじゃん」
「………」
自分は鉄棒など時間はかかるがあきらめたことはなかった。森岡は自分の事を見てくれてる。ジャックは親に5歳の時に捨てられ、自分のことをちゃんと見てくれる人が少なかったから嬉しかった。
「わかった、アーチェリー、やる!」
「おう!一緒にオリンピックで優勝しようぜ」
「うん!」
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昔のことを思い出していた時、森岡が言った。
「もういい。お前ら出てこい」
その言葉にジャックが困惑してると、人が5人ほど集まりジャックを囲んだ。
その人たちはジャックたちのチームのスポンサーだった。そして、1人の男が前に出て言う。
「俺はお前らのチームに金をたくさん使った。なぜならオリンピックでベスト4に入って賞金を手に入れると思っていたからだ。なのになんだこのざまは!」
男は怒り狂っていた。
「絶対勝てるはずだったのにお前が0点なんてとるから!」
そして森岡が衝撃の言葉を言う。
「実は俺とスポンサー、借金があるんだ」
「え...」
「だから優勝したかった。でももう大丈夫。返済できる方法があるから」
その言葉が聞こえてすぐに痛みが生じた。胸を刺されたのだ。ジャックは膝から崩れ落ちて、か細い声で「なん...で」と言う。そして、不気味に笑った森岡が言った。
「言ってなかったがお前が死んだ時、遺産はスポンサーに送られることになっている」
ジャックは理解した。スポンサーと森岡はグルで金が欲しいだけ、そのためだけに殺すのだと。ジャックはまた裏切られた。
そして、ジャックは悟った。人間は醜く欲に支配されてると。そのためならば、どんなことでもすると。
「じゃあな、ジャック」
その瞬間、ジャックは帰らぬ人となった。
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次に目を覚ましたのは真っ白な空間だった。ジャックは大きい布団の中で寝ていた。慌てて上半身を起こす。
「ここは?あれ、俺って刺されて死んだはずじゃ...」
「ここは天界です」
上の方から女性の声がしたので思わず上を向く。しかし、声がした方にはなにもない。「どういうことだ?」と思っているとまた声が聞こえる。
「ジャックさん。あなたは死んで、天界にいるのです。」
何もないところから声が聞こえる。咄嗟に思ったことを質問する。
「あなたは何者ですか?」
「私は神様です。今は忙しくて姿を表すことができないので声だけそちらに送っています」
声だけ送る?そんなことができるのかと疑いそうになったが神様だからと納得した。
そして、聞きたいことがいくつか浮かんできたので質問した。
「なんで天界に布団があるんですか?」
「私が休憩するためです」
「なんでこんなに大きいんですか?」
「羽根があるからです!」
「なんで柄が猫なんですか?」
「猫が好きだからです!!」
ふむふむ、神様は猫派と。んーさすがに少し真面目な話をした方がいいか。そう思い、質問した。
「僕はこれからどうなるのですか?」
そう聞くと神様はため息をして言った。
「ハァ〜〜ちょっと待っててください......えっとーあなたには『ガルタ』という異世界に転生してもらいます」
異世界!本でしか見たことない言葉だがほんとにあったんだと思っていると自分の体が光っていく事に気づいた。
「えっ!なんか体が光ってんだけど!」
「はい、転生準備が整いましたので体が光っています」
えっ、もう転生すんの?と思っていると神様が続けて言った。
「今すぐ転生はしないので安心してください。その前に説明をいたしますので」
「説明?」
「はい、まず人間には生まれつきガルタ人、キシヌ人、スタシア人という3つの人種があります。ガルタ人は身体能力が高く魔法特性が低い、キシヌ人は魔法特性が高く身体能力が低い、スタシア人は両方ともバランスがいいです。ちなみにジャックさんはガルタ人です。」
魔法、異世界にはやっぱりあるんだ!と興奮してると説明におかしな所があるのに気づいたので質問した。
「僕、身体能力良くないですよ」
「実は3つの人種は異世界に行かなくちゃ効果がないんです。そして、ガルタ人ならガルタへ行きます」
「もし他の異世界にいったらどうなるんですか?」
「分かりません、これまでそういうことは無かったので...ただ、転生という行為によって身体能力などが上がります。なのでもしも、違う異世界に言っても身体能力は上がると思います。」
信じられないけど僕はガルタ人で身体能力が良くなるらしい。
「ちなみに、ガルタ人はスタシア人、キシヌ人よりも弱い人種ですね」
「え…」
「弱いわけでは無いんですけど…身体能力が高すぎてバランスが悪いんです。身体能力が余分にありすぎるんですよ」
「そんなことあるか???」
その後も説明は続く。神様の説明はこうだ。
•記憶は引き継がれて、見た目も変わらないこと。
•文字や言語は神様の力で日本語になる事。
•ゲームの世界を元にしているからバグが起こることがあること…など
そして、長い説明が終わった。
「説明は終わりました。ということで転生を始めます。」
その時、白い空間が赤く染まった。体の光も赤くなっている。
”Error Error”という声の後に神様の声が聞こえた。
「エラー?これは...ジャックさんの転生先が変わってる⁈」
「えっ、それってやばいんじゃ」
「やばいです。しかも転生が始まってます!ええっと転生先は『スタシア』です!」
その言葉を聞いた瞬間、ぼくは転生した。
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気がつくと目の前には草原が広がっていた。
「わー〜」
そんな感動の声が自然に出ていた。緑が広がる平原、風に吹かれたく草、なによりも空気が美味しい。雨が降っていたからか、ところどころ光っている。
そうして、ふと地面を見る。水たまりがあった。それだけなら普通だがおかしなところがある。水たまりに写る自分の姿がおかしかったのだ。
「髪が緑色になってる!?それに服装も変わってるし!...でもそれ以外はあんま変わってないな」
ジャックは髪の色と服装だけが変わっていた。異世界に行った影響か?そんなことを考える。
そして、水たまりの方向の奥に建物があるのが目に入る。
「あれは…建物?」
考えことをしていると遠くに建物を見つけた。大体300mくらい先だろうか。
(まずはこの世界のことを知らないといけないな)
そう思い、建物の方向へ歩き始める。そうして、草原を見ながら思う。
(こんな草原で思いっきり走ったら気持ちいいだろうな〜ちょっと走ろっかな)
と呑気なことを考えて、歩く速度を上げていく。下り坂だからか、身体がいつもより軽くどんどんスピードが上がっていく。
そして、自分でも制御できない速度に僅か2秒でなった。
「はーやーすーぎーー!」
スピードが上がっていき、慌てて止めようと思ったが
(いきなり止まったら身体が壊れる気がする!少しずつ遅くしよう)
そう思い、徐々にスピードを落としていった。5秒ほどたって完全に止まった。そしてジャックは気づいた。さっきまで遠くにあった村がもう、すぐ近くにあることに。
「え?」
意味が分からなかった。ジャックはあまり身体能力が良くないので、こんなに速く走れるのはおかしい。
それに
「こんなに速く走れる身体能力、人間技じゃない。もしかして人間じゃないものに転生しちゃった?でも体は変わってないな。どういうことだ?」
その時、ジャックは神様の説明を思い出した。
"ガルタ人は身体能力が高く魔法特性が低い”
(身体能力が高いってこんなに高いのか。試しにちょっと飛んでみよっかな)
そう言って、ジャンプする。さっきの反省を活かして軽くジャンプした瞬間、真上に上昇して、約2m飛んだところで止まった。そして落ちる。思ったより高く飛んだが、地面に足がつく瞬間に膝を曲げてきれいに着地する。
「軽く飛んだだけでこの高さ。身体能力高くなりすぎだろ」
身体能力が上昇してることにちょっと喜んでいると、ジャックのお腹が「グーー」と鳴る。
(お腹空いてきたな、早く村に行こう)
そうして、ジャックは村の方向に歩み始めた。




