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名無編 | 虚偽ノ反省

「なあ。お前らは一体何をしていたんだ?」


 教官が威圧気味に問う。


「あー……えーっと──」


 エルカが言い切る前に俺が言う。


「エルカ上位に喧嘩を売られて仕方なく……」


 自分より位が高いやつには“上位”という敬称を使わなきゃならない。癪だが、もうこれ以上教官をキレさせるのはごめんだ。


「ほう。じゃあカメラを確認させてもらおう」


 これはまずい……俺からふっかけたのがバレちまう。だが、運は俺の方に傾いた。

 カメラは破損していた。おそらくエルカの速光跳弾のせいだろう。魔力は数種類あるが、電子機器に影響するものも存在する。


「カメラが確認できん……!」


 教官が苦い顔をする。エルカは俺の方を睨みつけた気がしたが、ウィンクで返しておいた。


「仕方ない。今回は軽めの蹴り一回で許してやろう」


 俺は察した。絶対に軽くない。ぜっったいに軽くない。


「エルカ、お前からだ。前に出てこい」


 エルカは無抵抗に歩く。抵抗すれば更にひどいことになる。


「フンッ!」


 教官が膝蹴りをする。それはエルカの鳩尾にクリーンヒットする。教官も勇者の卵の上に立つ人間だ。並の人間の蹴りじゃない。


「ぐおっ……!」


 エルカが血を吐く。そのまま床に倒れ込んで、息を整えようとしている。


「今度はお前だ。ルーク」


 俺も前に出る。教官との距離は十分だ。教官が膝蹴りを入れようとすると同時、俺の輪郭が不確定になりその場の存在ごとぼやける。

 教官の蹴りは驚きもあったせいか鳩尾の下、左太ももに直撃する。


 俺が使ったのは舞脚術ぶきゃくじゅつ おぼろ。自身の輪郭をぼやかして攻撃を受けにくくする技だ。

 舞脚術ぶきゃくじゅつ ながれと同様に足の動きを一定のテンポで刻むことで体の輪郭を隠す。


 やつは蹴りを外したが、一回といった以上もう引き返せない。つまり俺だけ軽めで許されるということ!


 それから俺ら二人は解放となった。俺がアイファーを見つけたと同時にアイファーが駆け寄ってくる。


「ルークさん大丈夫でした!?」

「ああ、かすり傷で済んだよ」

「ほっ……」


 多分アイファーが俺の傷を見たら驚くだろう。流石にあの技を使ったとはいえ一部皮が剥がれた。エルカはあのあと泡を吹いていたらしく、今はここと提携している病院にいるらしい。


「それよりアイファーはどうする?」

「え……? 何がですか?」

「今季の勇者決定戦」


 勇者決定戦は文字通り魔王との戦闘に旅立つ勇者を決定するための戦いだ。つまり、俺等みたいなレベルの低い人間たちは一瞬でボコボコにされてしまいだということ。

 今季の勇者決定戦はもう目前だ。


「あー……まあ出るしか無いんじゃないですかね?」

「だよなー……」




──それは、やらなかった。出来なかった。ウィールスのせいで。

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