名無編 | 無象ト有象 - Ⅰ
今日も始まる。トレーニングが。
「ルークさん!」
「ああ、アイファーか」
「探したんですよ! ここ結構広いから!」
「そら勇者を育成する場所だからな」
「トレーニング施設にゃ力いれるだろうよ」
「……やだなぁ」
俺も正直、練習とかそういうコツコツ進めるものはそんなに好きじゃない。
「同感。だが逃げたところで、どうせ教官にボコボコにされるだけだ」
このXSAHは6,7割は小さい頃からそういう存在を目指した、夢見がちな人間たちだ。残りの3,4割は捨て子とか孤児だったりと、親と関わりの少ない子どもがよく選ばれる。
機構は表向きには「かわいそうな子どもを守る優しい機関」と免罪符を打つらしいが結局のところそういう子どものほうが死んだりなんやかんやの際も資料や手続きが楽だと。
通常の親ならまあ、そう簡単に勇者を目指していない我が子を奪われるのは嫌がるだろうが、ネグレクトだったり、そういうクズは邪魔者がいなくなる上にガッポリと金も入る。簡単に受け渡すのだ。
俺も、アイファーも3割の人間だ。だから憧れもなければ努力する理由もない。故に弱い。努力しようと、夢のある人間には勝つことは難しい。更に言ってしまえば努力した先にあるものは命を賭した仕事と、少しばかりの栄光。残念ながら俺はそういう事に興味はない。
「おい。なあゴミども」
しらない声が俺等二人を呼び止める。悲しいかな、綺麗な行いをするはずの仕事を目指す場所という場所なのに下衆な人間も存在する。
「なんか用すか? 勇者志望のお兄さん?」
「そろそろ昼だし腹減ったな」
「そっすね」
そういって黄色髪のそいつはルークに金を差し出した。
「おごってくれるんすか?」
ルークもそうではないとわかっていた。ただ、相手を挑発するためだけにそう聞いた。案の定相手はその言葉に乗ってきた。
「は?」
「ん? どうかしたんすか?」
「ちょっ……ルークさん……」
「その人第21位のエルカ・ホグラスですよ……!」
アイファーが囁く。それはルークの耳に入っていた。だが、ルークはそれを無視した。
「オメェバカにしてるだろ?」
「してるっすね」
「そうか。じゃあ二度とその口きけないようにしてやるよ」
そう言いながらエルカは得物を懐から取り出す。刃渡り15cm程度の鈍い銀色の光が目に入る。
──それに対して、ルークは構えを取った。




