9.似たようなものが、二つ以上並んでいると、比較したくなる。比較する側になるか、比較される側になるか。
トレードを言い出した女は、相手のチームの男を見渡した。
「あなた、あっちに行ってよ。」
とトレードを言い出した女は、ターゲットを絞り込んだようだ。
「お断りだ。どっか行け。」
言われた男は、女に視線を合わせない。
「あなたが、チームにいると、チームの勝率が下がるの。
弱いのよ、あなたは。」
とトレードを申し入れた女。
「お前よりマシだろ。」
と男。
「そうよ、あなたはしょせん、私よりマシな程度なの。
強い人と一緒にいないと勝てないのよ。
自分で分かっているんでしょ?
あなたがいても、戦力にはならないって。」
とトレードを申し入れた女。
「黙れ。他にもいるだろう!」
と男。
「他には?
こちらのチームには、いないんじゃないの。
私よりマシな程度に弱い男は。
あなたが、こちらのチームに固執するのは、あなた自身に勝つ力がないから。」
とトレードを申し入れた女。
「お前が、先に指名した女は、どうなんだ?」
と男。
「自分より弱いと分かっている女と、他の女を比較して安心したいの?
カッコ悪いわよ。」
とトレードを申し入れた女。
「お前、帰れ!」
と男。
「帰るかどうか、こちらのリーダーに聞かないと。私とあなたをトレードしたいと言うかもよ?」
とトレードを申し入れた女。
「俺は了承しない!」
と吐き捨てる男。
「別に、あなたの了承なんて、いらないの。チームメンバーを決めるのは、リーダーなんだから。
リーダーが、あなたを要らないと言えば、お払い箱よ?」
とトレードを申し入れた女。
「お前のところのリーダーは、同意を、と言っていたはずだ!」
と男。
「あっちのリーダーが、同意をもらってきたら、と言った?
それがどうしたの?
チームメンバーを決めるのは、各チームのリーダー。
決まっているのは、それだけ。
本人の同意?
そんなもの、誰が必要としているのよ?」
とトレードを申し入れた女は笑う。
「リーダーは、俺を交換なんかしない。」
と男。
「交換したいと思っているかもよ?」
とトレードを申し入れた女。
「いい加減なことを言うな!」
と男。
「私が最初に指名した女は一番弱そうだけど、リーダーが手放さないわよ。
あなたは、自分がトレードされたくないから、リーダーのお気に入りの一番弱そうな女をリーダーから引き離そうとしたってこと。
リーダーは、リーダーのお気に入りの女を守るだろうけど。
保身のために、リーダーのお気に入りの女を追いやろうとしたあなたは?」
とトレードを申し入れた女。
「どうする?トレードする?
うちは、若干強くなる。
そちらは、誤差の範囲。」
と女リーダーは、男リーダーに聞いている。
トレードされそうになっていた男は、行きたくない、と声をあげた。
「トレードはなしで。」
と男リーダー。
「なしだって。出戻れば。」
と女リーダーは、トレードを申し入れた女を呼び戻した。
「楽な勝馬に乗りそこねた。」
とトレードを申し入れた女。
「楽な勝馬に乗れるのは、一人しかいないんだから、その一人にならない限り、勝率は変わらないわ。」
と女リーダー。
「男女の仲にならないと死んじゃうんだからね。」
トレードを申し入れた女は軽く笑っている。
今までのやりとりは、なんだ?
女リーダーと、トレードを申し入れた女二人の茶番なのか?
女リーダーのチームは、女リーダーとトレードを申し入れた女の二人しか、喋っていない。
男リーダーのチームは、男リーダーを含めて、全員の緊張感が高まっているようにも見える。
「確認しておきたいんだけど。」
と声をあげたのは、リーダーとは離れて立っていた文学好きそうな女。
「あちらから指名されていた女の人とリーダーは、デキている?デキていない?どっち?
今、こちらには、女子二人しかいないわけだけど。
私はリーダーを頼りにしていいの?悪いの?
悪いのなら、私をあっちにトレードして。
女子二人しかいないのに、最初から扱いの差があるなら、あちらの方が、女子が多いし、扱いはマシだと思う。」
男リーダーのチームは、女リーダーチームのトレード女の発言を皮切りに、さざ波が立っている。
今のチームの状態で試合をしたら、ミスが続発しそうだ。
男リーダーのチームの方が男が多いから、チーム分けしてすぐに、スポーツをしていたら、問題なく勝っていただろう。
女リーダーは、男リーダーのチームに不協和音が生じることを見越して、トレードを申し入れた女を自由にさせていたのか?
いったい、今から何が始まるのか?
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