87.皆でやれば怖くない、のお時間。『皆で襲いかかれば、怖いものなし。各組団員は、自分の組以外の代表に襲いかかろう。』加地さんと野村レオが?
加地さんの説明要求に対して、野村レオは一言も発さない。
野村レオが何をしたいのかが、俺には分からない。
加地さんを否定する発言を一切していないのは、野村レオだけ。
加地さんが、野村レオの言い分に耳を貸すようには思えないが。
野村レオは、加地さんを否定しないために、無視しているのか?
「ここからは、皆でやれば怖くない、の時間になります。
各組一丸となって、他の組の代表を討ち取ります。
平組員は、各組の代表を狙います。
ペナルティーが終わっていない代表は、ペナルティーを終わらせます。」
と機械音声。
平組員?
ヒラ?
俺のことか。
俺は、加地さんか野村レオを襲いにいくことになる。
野村レオの白組の組員がどう動くか、見てから動いた方がいい。
俺と白組の組員の間には、どんな関係も成立していない。
赤の他人。
協力関係が築ける相手だとは思わない。
協力したいとも思わない。
両太ももをざっくりと北白川サナに切られた女は、新人歓迎会が行われている部屋の中に、加地さんの関係者が勢揃いしていると言った。
デスゲーム運営は、加地さんの関係者を勢揃いさせて、加地さんと一緒にデスゲームの参加者にしている。
北白川サナに両太ももを切られた女のヨミは正しい。
この部屋に集められた人のうち、加地さんと加地さんの関係者は、新人歓迎会のデスゲームで確実に死ぬ。
加地さんと、野村レオを別々の組の代表にして、平組員に、自分の組以外の組の代表を襲わせる時間を作ったのは、加地さんと野村レオを物理的に分断するためか。
新人歓迎会の部屋にいるという条件なら、俺も該当する。
俺は、自分が死なないように周りを見ながら立ち回らないと。
俺の生死の鍵を握るのは、北白川サナ。
デスゲーム運営から送り出されてきた北白川サナは、運営の意図を汲んで動いている。
北白川サナに合わせておけば、運営の意図を邪魔しない。
とりあえずは、生き延びられる。
両太ももを北白川サナに切られた女の話は、もういい。
これ以上は、何も出てこない。
俺は、周囲の動きに気を配る。
現在の状況を整理する。
ペナルティーが終わったのは、黒組、北白川サナのみ。
ペナルティーが終わっていないのは、加地さん。
白組の野村レオは、一人目を手にかけたから、ペナルティー終了か?
野村レオの白組の平組員は、北白川サナと加地さんのどちらに襲いにいく?
分散して両方へ?
俺が、注視していると。
一番最初に、加地さんを無言でガリガリと引っ掻いていた女が、集団から離れた。
両手で鎌を握りしめて、加地さんに向かって、最短距離で進む。
加地さんの関心は、野村レオに一極集中。
加地さんは、誰かが害意を持って、自身に近づいてきていると思っていないのか。
野村レオの返事を待つことにしか関心がないのか。
野村レオは、無言で引っ掻く女が、集団を抜け、加地さんを一心に見つめながら近づいてくることに気づいている。
野村レオは、加地さんの問いかけには答えなかった。
野村レオは、加地さんに害意を持って近づく女から、二人目の標的へと視線を変えている。
「ツグミは、生きてきた分の恨みを引き受けて死ぬことを恐ろしいと思うか?」
と野村レオ。
「恨みが、嫉妬によるものなら、お門違いだと切り捨てる。
恨みの根拠が、確かにあるなら別。」
と加地さん。
「ツグミが、そう考えているなら、アイツに付き合ってやれ。」
両手で鎌を握りしめて加地さんを一心不乱に見つめながら、加地さんに向かってくる女のことを、野村レオは、アイツと呼んだ。
「レオ。私は、あの人に恨まれることをした覚えはない。
あの人が私を恨んでいるなら、それはお門違いの方。」
と加地さん。
「ツグミは、覚えていないのか。
いつものこと過ぎて、ツグミの記憶には残らなかったのか。」
と野村レオは、呟いた。
「アイツがツグミに恨みを抱く理由を作ったのは、ツグミのいつものことがアイツの事情に直撃したから。」
と野村レオ。
「私のいつものことなら、私のせいとするのはおかしい。」
ムッとする加地さん。
「ツグミのいつものことは、いつも、する必要がないのに、していたことだ。」
野村レオは、言葉を区切って強調した。
「アイツが、納得せずにツグミを恨む理由を話しておく。
ツグミがした、いつものことで、ツグミは何を得ることもなく、損もしなかった。
アイツとアイツの関係者は、ツグミのいつものことに振り回され、損した。
ツグミは、アイツが損したことに気づいていないが、気づくチャンスはあった。
ツグミに気づかせようと教えていたやつは、俺も含めて何人かいた。
あの人の問題は私の問題ではない、というツグミには、アイツの問題を作った責任がある。
人生を変えるくらいの損をしたアイツに、一度は向き合ってやれ。」
野村レオは、言うだけ言うと、加地さんのいる場所から離れていく。
加地さんは、立ち上がり、無言でガリガリしてきた女に向き直った。
「私が、何をした?」
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