81.最期に話をする相手を選べないと嘆く女は、俺の知りたい情報をくれるという。『デスゲームの舞台となる建物は、どこにある?』
俺は、女が話しかけてきたことに驚いた。
「喋れるのか。痛くないのか?
最初から死にかけていたのは、フリか?」
「フリじゃないわよ。
体を動かすことができないのよ。
痛いに決まっているわ。
私がなんのために痛い思いをしたと思っているのよ。
せっかく体力温存していたのに、結局はこのザマ。」
と女。
「なんのため?
男と話してから死にたかったから、と話していなかったか?
悪いけど、女の喜びそうな気の利いた台詞を、俺は知らない。」
北白川サナが、聞き耳を立てていた場合、俺の喉や舌が危ない。
太ももを凝視しただけで、俺には危険信号がともると承知の上で、女を喜ばせて、北白川サナから舌切りすずめにされたくはない。
「救いようのないバカなの?」
と女。
女は、うつ伏せになっていて、表情は見えないが、馬鹿にされたのは、声のトーンで分かった。
「なんだって?」
いきなり失礼すぎないか?
「男云々は口実よ。あなたと話すための。」
と女。
「俺に何を話してくれるんだ?」
個人情報流出のニュース並みに、ろくな話はしてこない気がする。
「北白川サナのお気に入りのあなたにしかできないこと。」
と女。
一気に女の話を聞く気が失せた。
最初に釘をさしておく。
「俺は、危ない橋は渡らない。俺の命だけが大事だ。
何も頼むなよ。」
巻き添えで命を脅かされるのは、嫌だ。
「清々しいわ。」
と女。
「当たり前だ。
俺は、自分のためにしか、頑張らない。
頑張らないで、根を詰めないで生きていく努力をしてきた俺の生き方は、今さら変わらない。」
「加地ツグミの代わりに、あなたの知りたがっていた情報をあげる。」
と女。
女は、俺についての情報をスルーした。
「くれるならもらうが、何も頼むなよ。」
「情報はもらうのね?」
と女。
「俺の知りたい情報をもらう方が、他の情報をもらうより有意義な時間になるだろう?」
「あっそ。
とある地方のゴーストタウンの一角よ。」
と女。
「都市伝説はいらない。」
「自分で調べたわよ。」
と女。
「漠然とし過ぎて、聞く価値があるのか、ないのか判断に困る。
ゴーストタウンだから、何かしていても、発覚しないといいたいのか。」
俺が、善意で解釈してやると。
「馬鹿は、なぜ失敗するのか?
結論を急ぐからよ。」
と女。
「話に付き合っている俺を罵倒したいだけなら、他を当たれ。」
「最期の話し相手を選べない私が気の毒すぎる、と自分で自分を慰めているところなんだから、あなたは我慢して。」
と女。
「理不尽すぎるだろう。」
「人生には、理不尽な時間もあるわよ。」
と女。
「今が、俺にとっての理不尽な時間と言いたいのか。」
「そういうことね。
住人の高齢化と転出が相次いでゴーストタウン化した町のいくつかに変化が起き始めたのが、五年前。
いくつかのゴーストタウン化した町で、不定期な人口の流入と流出が起こり始めた。
この建物がある町も、人口の流入と流出が小刻みに起きているわ。
五年前から、人口は横ばい。
増減はあれど、一定数を維持しているのよ。」
と女。
女の話を聞いて、合点がいった。
加地さんは、五年前から、デスゲームを運営する会社が、というような話をしていた。
デスゲームを運営している会社は、デスゲームのチャンネル、食人チャンネルなど、いくつかのチャンネルを持っていて、事業開始時点から、多角化経営をしてきた、ということか。
「この建物内に入った人数が、ゴーストタウンを抱えている市町村に人口の流入としてカウントされ、この建物から出ていった人数は、市町村からの流出としてカウントされている、と言いたいのか?」
デスゲームの舞台がある建物の建つ市町村は、デスゲーム参加者を市町村民としてカウントしているなら。
デスゲーム参加者は、自宅から姿を消していても、旅行中や、失踪中の扱いにはならないということだ。
住所を変えて、引っ越ししたことになっている。
デスゲームの舞台である建物へ転居したことになっている。
デスゲームの参加者は、デスゲームに参加している時点で、どこに住んでいるかが明白。
デスゲーム参加者は、デスゲームの舞台となる建物が建っている市町村の住民になっているということは。
デスゲーム参加者が、デスゲームと無関係な第三者に発見され、助けを求めても。
誘拐されて行方不明になっていたけど、逃げてきた、という事実を説明できないことになる。
俺は、頭の中で忙しく考えていた。
デスゲームから脱出して、デスゲームの建物が建っている敷地を出ることができた場合。
その先は?
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