79.北白川サナが、選んだ一人目は、風呂椅子が直撃した女。『死ぬ準備は済んだですか?』『あなたが私を殺すなら。』
北白川サナは、俺の手を繋いだまま、離さない。
俺は、見たくない、逃げ出したいという思いをひた隠して、北白川サナと並んでいる。
逃げられない。
逃さない。逃げてはいけない。
繋いでいる俺の手と北白川サナの手が、俺の葛藤を北白川サナに伝えて、北白川サナの手が答えを返してくるような錯覚に陥る。
「私はあなたにするです。」
と北白川サナは、女を見下ろして言った。
「こんな目にあうなんて、信じられない。」
と女。
声を出せたのか。
ダメージはあっても話はできるのか?
血を流しているものの、致命傷になっていないからか?
注目されなくなったときに逃げ出すつもりで、死んだフリをしていたのか?
「抵抗したければ、思いっきり暴れるといいです。
私がすることは変わらないです。」
と北白川サナ。
「動けたら、動いている。
あの女は、私が動けないことをいいことに、力いっぱい蹴りまくってきた。
あいつだけは許さない。」
と女。
「椅子を取り合いした女をどうにかしたくても、動けないあなたはここで死ぬです。」
と北白川サナの無慈悲な宣告。
「最悪。
今回は、やけに人数が多いと思っていた。
加地ツグミの関係者が、勢揃いしたことはなかったのに。
気づいたときに、逃げ出せば良かった。
加地ツグミの関係者を丸ごと消して、加地ツグミの存在の痕跡をなくすために、こんな大掛かりな仕掛けをする?
考えたやつは絶対に頭がおかしい。
あの女も、あいつらも。
のうのうと、能天気に息をしているやつらが憎い。」
と女。
「さあ、死ぬ準備は済んだですか?」
と北白川サナ。
「あなたが私を殺すなら、私が死ぬ前に、あの女の断末魔を聞かせてよ。
最後は気分良く死にたい。」
と女。
「あなたの苦しみが長引くのは織り込み済みです?」
と北白川サナ。
「殺される結末しかないのなら、どのみち死ぬ。
死ぬのは苦しい。
同じ苦しみを味わうなら、苦しみが長引いても、ざまあみろと嘲笑いながら死にたいじゃない。」
と女。
「あなたはいい女です。私のライバルになれました。ここで、死ななければ。」
と北白川サナ。
「最期にきく褒め言葉が、いい女なら、悪くはないわ。
あなたではなく、男に言われたかったけれど。」
と女。
「あげません。私達は仲良しです。」
と北白川サナ。
北白川サナは、握っている俺の手をブンブン振って仲良しアピールをしている。
「黄泉の国まで、男は持っていけないから、置いていくわ。
私は、旅の荷物を軽くしたい派なのよ。
置いていくから、あなたの隣の彼と、後で話をさせてよ。」
と女。
「嫌です。」
と北白川サナ。
「あなたは、私だけじゃ終われないから、その間、彼の暇つぶしになるわよ。
彼が見ている前では、できないこともあるわよね?」
と女。
「暇つぶし、したいですか?」
と北白川サナが俺に聞いてきた。
「話をするだけなら。」
北白川サナが殺して回るのを次々に見続けるよりは、北白川サナにやられた最初の一人が死ぬまで、見届ける方が、ましな気がする。
「私の仲良しです。分かっているですか?」
と北白川サナは、俺に念押ししてきた。
「分かった。」
俺と北白川サナの会話を聞いていた女は、俺と北白川サナについての関係についてコメントしなかった。
「加地さんが役に立たないのは、言うまでもなく。
野村レオは、加地さんの分も併せて殺して回るわね。
でも。あなたの分は手を付けずに残すわ。
あなたも、野村レオの助けなんかいらないから、平気よね。」
と女。
「あなたも、助けを必要としてなかったです。」
と北白川サナ。
「私は、野村レオを連れてきたやつとは別口の紹介だから、野村レオとは組まないわ。
裏切りには厳しいところなのよ?」
と女。
「暴露してよいですか?」
と北白川サナ。
「今回の案件をみつけてきたのは、珍しいことに、加地ツグミ本人だっていうじゃない?」
と女。
「そうです?」
と北白川サナ。
「加地ツグミが自分で見つけてくるにしては、案件が大きすぎると思っていたわよ。
加地ツグミが集められる情報から、今回の案件にたどり着けると本気で思っている?
ここを、加地ツグミに見つけさせた誰かがいる。」
と女。
「そうですか。」
と北白川サナは、聞き流しているかのような返事。
「何もできない加地ツグミにやる気を出させて、ここまで引っ張ってきた誰かがいるのよ。」
と女。
「そうですか。」
と北白川サナ。
「私は、その情報を掴んで死ぬことになる。
うちは、裏切り者には制裁を課すけど、報復もするのよ。
北白川サナ。あなたは、ここを出たら、一秒も気を抜けなくなる。」
と女。
「あなたは、気を抜いたら、死ぬというお手本です。」
と北白川サナ。
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