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72.蚊にさされまい、と粉塵を浴びていた男は喉を掻きむしる。壁から出てくるミスト。部屋のロックが開き、入ってきた人物は、足を引きずっていた。

バタン、と人が倒れる音がした。


音がした方を見ると。


俺と同じ壁にいて、蚊を寄せ付けないために、火薬の混じる粉塵を浴びていた男が倒れている。


喉を掻きむしっていたのか、喉が赤くなっていた。


喉に何かが詰まった人のように。


倒れてからも、なんとか息をしようと、鼻呼吸で足掻いてはいる。


喉の詰まりが良くならない上に、鼻呼吸もままならなくなった男は、火薬を含む粉塵にまみれて、動かなくなった。


部屋の中の全員の視線は、加地さんから、倒れた男へと移動していた。


「壁から、ミストが出てる」

と蚊にたかられていない一人が発見した。


「出ているね。」


「ミストのかかった蚊が、死んでいく!」


「殺虫効果があるのか!」


「遅すぎるけど、ないよりいい!」


蚊にたかられている人は、壁に張り付いて、全身にミストを浴びた。


ミストを浴びると、たかっていた蚊は死に、新しい蚊は近寄ってこなくなる。


殺虫効果が抜群。


蚊にたかられなくなった人は、難問が一つ解決して明るくなった。


全員が、ミストを浴びたかと思っていたら、加地さんと加地さんを裏切らなかった男は、ミストを浴びにいっていない。


床のめくれている部分は、元に戻り、新しい蚊は、湧かなくなった。


苦情を言うようにと加地さんに勧めた男は、加地さんを裏切らなかった男に、加地さんとミストを浴びてこいと言った。


せっかく蚊が死滅しようとしているのに、加地さんと加地さんを裏切らなかった男のせいで、また蚊に悩まされたくはない、ということだろう。


加地さんを裏切らなかった男は、何も言わずに、加地さんを担いだ。


加地さんは、一言も話さない男へ『裏切っていない。』と弁明している。


蚊が死滅した喜びに湧いていた部屋に、新しい動きがあった。


部屋のロックが解除された。


「やっとか!」


「待ちくたびれた!」


「遅すぎる!」


「文句を言ってやらないと。」


「賠償をぶんどらないと。」


部屋の中は、一気に活気づいた。


終わりのない大量の蚊の襲撃は、部屋の中にいる人の積極性を鬱々と陰にこもった攻撃性に変えた。


この部屋の中にいる人は、辛いときに、自分を責めたり、自信喪失して、自己肯定感を低下させるタイプは一人もいない。


辛いときは、辛い原因を探して、外に働きかけるタイプが揃っている。


部屋の中にいる人達は、加地さんへの興味を、なくした。


いつか使おう、と、とってあったクーポン券が、期限切れだと気づいて、ゴミ箱に捨てるときのように、あっさりと。


部屋の中は、デスゲーム運営が部屋に入ってきて、謝罪の言葉を言うのを、今か今かと待ち構えている空気一色になった。



デスゲーム運営が、デスゲームに顔を見せるか?


死ぬほどの文句を言って、土下座させてやる、と気炎をはく人と、同調する人。


部屋の中にいる人の喜びぶりが高まる程に、俺は懐疑的になった。


部屋の中にいる人は、責める理由がある、鬱憤晴らしができる対象が新しく現れることに、湧いている。


参加者二人、事故死のような死に方をしただけで、デスゲーム運営は良しとするか?


俺が、デスゲームを虚構だと考えていたときなら、救出が来たと喜んだだろう。


今の俺は、デスゲーム運営が、殺さない、という選択肢を用意していないと知っている。


俺達の部屋のロックが外れた瞬間。


足を引きずった人が一人、部屋に入ってきた。


「ずいぶん待たされました。


今は死滅しましたが、先程まで、蚊が大量発生していまして、我々はこの有り様です。


我々の待遇について、まず、お話の場をもうけたいと。」

苦情を言うようにと加地さんに勧めた男が、用意していた歓迎の言葉を吐く。


入ってきた人物は、何も言わない。


両腕を頭上より高くあげて、足をひきずりながら入ってきた人物は、部屋の中にいる人達を見てはいなかった。


部屋の中にいる人達は、責め立てる勢いを落とす。


入ってきた人物の見た目と行動は、部屋の中にいる人達の想定したものではなかった。


どうしてその人物が、部屋に入ってきたのか。


「お一人ですか?」

と問いかけられても、部屋に入ってきた人物は、返事をしなかった。


返事はできなかったのだろう。


歯を食いしばっていたから。


その人物が部屋の中に入った瞬間に、再び扉は閉まり、ロックがかかった。


意気揚々と謝罪待ちしていた人達は、入ってきた人物の顔にある殴られた痕と涙の痕が真新しいことに気づいた。


新しい生贄か?


顔はボコボコに殴られていたが、俺は、入ってきた人の顔に見覚えがあった。


ふーくんだった。


ドッジボールの最後で、殴られた顔をさらしながら、タツキの名前を呼んでいたふーくんが、部屋の中に入ってきた。

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