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62.痛いのは辛い。痒いのも辛い。ブーン、ブーンという羽音に気づいたときには、もう遅い。『やっと二人っきり。』と隣の女。

爆発した風呂椅子がない床がめくれあがり、そこから虫が湧いていた。


床下に虫が湧いている?


この部屋は、一階にある。


一軒家なら、床下で虫が湧いていた、ということもあるだろう。


俺がいるデスゲームの舞台になっている建物は、地下にも部屋がある。


デスゲーム用の虫が湧く場所が、建物内にあるとすれば。


この部屋は、床に虫を繁殖させるシステムを備えているということか。


俺と目元を前髪で隠している女の足元からも虫は湧いている。


なぜか、俺と女には虫は寄ってこない。


いっそうのこと、腕を触られ続けるのは、安全の代償だと割り切るか。


「蚊?」

と同じ壁にいた男が素っ頓狂な声をあげた。


同じ壁にいた男には、小さい羽虫が集まっている。


「くるな!」

男は、最初手を降ってはらっていたが、血を吸われ出したらしい。


パチン、パチンと蚊が止まっている箇所を自身で叩き始めた。


服を着ていない箇所、肌が出ている顔、耳、首、手、足首を中心に、蚊が集中攻撃している。


男は、叩いているが、叩いても間に合わない。


叩いている手の甲が血を吸う蚊で黒くなった。


「痒そう。」

俺は、痒みを想像して、ぶるっとした。


痛いのは辛い。


痒いのもつらい。


掻きむしっても痒さがおさまらず、血だらけになっても掻き続けることになりそうだ。


俺の声が聞こえたのか、蚊にたかられている男は、俺が蚊に襲われていないのに気づいて、叫んだ。


「なんで無事なんだ!

お前にいくはずの蚊が俺に来ているに違いない。」


男は、蚊をまとわりつかせたまま、俺に走り寄ってきた。


「あなたは、椅子を投げて当てなかったから、蚊にたかられている。

他の人もそう。」

と俺の腕を撫で回しながら、目元を前髪で隠している女は、ぽちゃ女が倒れている場所を指で示した。


「床で倒れている人に蚊はたかっていない。


あなたも、あちらにいけばいい。」


目元を前髪で隠している女とぽちゃ女を交互に見た、蚊にたかられている男は、蚊を叩きながら、ぽちゃ女目指して走っていく。


男の首の後ろも蚊で黒くなっている。


俺が、男の背中を見送っていると。


「やっと、二人っきりになれたです。」

と目元を前髪で隠している女が、俺の腕に、頭をもたせかけてきた。


二人っきり、という言葉が命を握ってやる、と聞こえるのは、副音声ではないと思いたい。


蚊にたかられている男は、風呂椅子が爆発した後に残る煙を浴びようとして歩き回った。


煙に当たっている箇所は蚊がいなくなるが、その分、他の箇所に集中する。


俺は、男の足首にたかる蚊が減ったことに気づいた。


男の足元は、歩き回っているうちに、粉まみれになっている。


蚊が忌避する成分が含まれた粉なのか?


男が歩いているうちに、粉塵が付着していったのか、男にたかる蚊の数は急激に減った。


俺は、同じ壁にいた男を観察していたけど、男は落ち着いてきた。


加地さんのいる壁は、悲鳴と怒号が飛び交っている。


人数がいるから、蚊が分散するかと思っていた。


人数が多いせいで、蚊にエサ場認識されているのだろう。


部屋にいる蚊のほとんどが、加地さんのいる壁に集結している。


一人一人を見てみると。


加地さんのいる壁に並んだ人も、蚊にたかられている人と、蚊にたかられていない人に分かれている。


加地さんのいる壁の中央は、蚊にたかられている人が多く、加地さんから距離があくほど、蚊にたかられている人の数は減る。


俺のいる壁でも、蚊にたかられていた男と、蚊にたかられない俺と目元を前髪で隠している女に、分かれた。


加地さんに関係しない、風呂椅子を奪い取り損ねた女は、蚊にたかられていない人に混じって、一人で蚊と格闘している。


顔や手を叩いて、叩いて。


皮膚が出ている場所をひたすら叩いている。


蚊にたかられていない人は、女が自分で自分を叩きまくる姿を他人事のように見ているだけ。


男二人と談笑していた可愛い女の子にも、一緒に談笑していた男二人にも、蚊はたかっていた。


俺は、蚊に襲われていないから、考える時間がある。


目元を前髪で隠している女は、風呂椅子を投げつけて当てたり当てられたりした人は、蚊に襲われていない、と俺の横で発言していた。


加地さんは、目元を前髪で隠している女に風呂椅子を投げつけられ、背中に当てられていた。


加地さんは、今、どうなっている?


目元を前髪で隠している女の言う通りなら、加地さんに蚊はたからない。


俺は、加地さんを目で探した。


顔が蚊にたかられて見えない人がいる中に、一人だけ、加地さんの顔は、よく見えた。


加地さんは、蚊にたかられていない。


加地さん以外にも蚊にたかられていない人は何人もいたが、全員、加地さんから離れた場所にいる。


目元を前髪で隠している女によれば、蚊にたかられないのは、風呂椅子を投げつけて当てたり当てられたりした人。


風呂椅子を投げつけて当てるという機械音声からの指示を聞いたとき。


加地さんに同調せずに、機械音声の指示に従っていた人が、蚊にたかられていない、ということになる。


加地さんに同調して、風呂椅子を投げつけて当てたり当てられたりしなかった人の中で。


加地さん唯一は、目元を前髪で隠している女に、風呂椅子を投げつけられて当てられている。


どれだけ、蚊にたかられている人の間にいても、加地さんにだけ、蚊が寄ってこない現象が起きている理由。


俺の横にいる目元を前髪で隠している女が加地さんにしたことが、原因ということになる。


新人歓迎会の部屋の中で。


加地さんに蚊がたからない理由を知っているのは、俺と、俺の隣にいる目元を前髪で隠している女の二人。


俺と同じ壁にいて、今は爆発後の粉塵を体にまとわせることで、蚊を寄せ付けないことに成功した男も、気づくかもしれない。


加地さんに右に倣えして、機械音声の指示を無視しないでいたら。


機械音声の指示に従い、風呂椅子を投げつけて当てたり当てられたりしていたら。


蚊に刺されまくる事態にはならなかったかもしれないということに。


加地さんや加地さんの周りが、もしかして、と気づいたとき。


加地さんの周りは、どう動く?

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