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6.アプリからの質問に、ほのかな思い出がよみがえる。ずっと聞いていたかった声の主は、デスゲームの中の住人になっていた。

「あなたは、現在、恋をしていますか?」


恋をしていると答えたところで、家に帰してはくれないだろう。


恋をしていたのは、いつだったか、もう忘れた。


正義が勝たないデスゲームを見ていて、思い出したんだ。


恋していた頃の感情を。


だから、目が離せなかった。


目が離せなくなっていた。


デスゲームを見ながら、思い出すなんて、あり得ないと自分でも思ったけど。


俺の横に並んでいたときの前を向いている彼女の横顔は、いつも綺麗だった。


彼女は、俺の友達の彼女になりそうな女の子だった。


俺が見ているのは、彼女の横顔。


彼女の顔を正面から見ているのは、俺の友達。


男女の仲は、うまくいきそうで、いかないものらしく。


ある日を境に、彼女が、俺の横に並ぶことはなくなった。


俺の友達も、彼女の話をしなくなった。


俺と彼女は、それっきりの間柄。


俺達の間には、何もない。


何も生まれていないし、何かが生まれる余地は、俺と彼女にはなかった。


気づいたのは。


彼女が、違う誰かと並んでいるのを見るようになってからだ。


どこにいても、彼女の声は、聞き分けられた。


姿が見えなくても。


彼女の声には、耳を傾けてしまう。


話しかけることもできないのに。


俺は、彼女が誰かに話す声を聞いていた。


彼女の横顔を思い浮かべながら。


彼女の声を聞くことがなくなったときに、彼女の時間は終わったと思っていた。


忘れていたのに。


耳に飛び込んできた声が、呼び覚ました。


ふらふらと、声の出どころを探して、デスゲームが流れているスマホを確認した。


そこに、彼女はいた。


画面の中の彼女が、喋っていた。


誰かに。


俺じゃない、誰かに話している彼女がいた。


どうして、こんなデスゲームに。


役者志望だったのか?


画面越しに見つけた彼女が話す声を聞き漏らさないために、俺は、他の動画を見るのは止めた。


浮気したくない、とか、そういう感情はない。


彼女の声を聞いていたかった。


アプリで流れていくデスゲームの動画の中では。


横顔しか見れなかった彼女の正面からのアップや、全身や、脚線美も満遍なく見れた。


もう一度、会えた、と思った。


一方的に、俺が見ているだけだが。


彼女に、また会えたのが、嬉しかった。


だが。

デスゲームが本物だと知ったときに。


俺は、奥底で、ほのかにくすぶり始めた火を鎮火させた。


俺は、彼女のことを見なかったことにしようと思った。


彼女のしたことも含めて、知らなかったことにしようと思った。


デスゲームに、彼女はいなかった、彼女によく似た人にがいた、そう思い込んで忘れるつもりだった。


人の生き死にを目撃して、自分が汚れるのは嫌だという思いが勝った。


胸糞悪い思いをしてまで、動画を見てコメントして、彼女を見続ける。


その行為は、何を生み出すか?


俺の、彼女を見続けたいという願いは、もう、恋、と呼べるものではなくなっている。


彼女は、俺が見ていることなど知らない。


知るはずもない。


なりふり構わず生きようとする彼女を、俺が、興味本位にじっくりと見ることは、彼女を汚しているように感じた。


脱出できずに亡くなった男女は、コメントを辞めるきっかけ。


コメントを辞める動機は、かつての自分の恋心を自分自身で汚いものに塗り替えたくなかったからだ。


きっとそうだ。


彼女がいるデスゲーム。


思い出を美しいままにしておきたい俺には、本物のデスゲームと彼女の組み合わせを受け入れたくなかった。


だから。

俺の答えは、決まっている。

「恋はしていない。」

楽しんでいただけましたら、下の☆で応援してくださると嬉しいです。

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