527.固定電話のコンセントを入れたのは?デスゲームだから、で済ませたくない弟。犯罪が犯罪にならない場合とは?物証と状況証拠と警察と。
「タイミング的に、固定電話の引っこ抜いたコンセント差し込んだのは、お母さんの成り代わりだよね?」
と弟。
「固定電話に一番近い場所にいたのは、お母さんの成り代わりだ。」
「固定電話にコンセントを差し込んで留守電機能を復活させ、弟さんのお友達の声がけが弟さんに届くようにしたのでしょう。」
とカガネ。
「ユキミが部活仲間に誘き出される事態になっているのは、お母さんの成り代わりによる階段下からの銃撃が失敗し、無傷なユキミが洗面所に立て籠もったからか。」
「お母さんの成り代わりが五発も撃つ前に弟さんが銃弾に倒れていたら、銃弾に倒れた弟さんを家から運び出していたでしょう。」
とカガネ。
「俺の状況は、俺を狙っているやつに筒抜け?」
と弟。
「デスゲームですから。」
とカガネ。
弟は、カガネがさらっと言った台詞を聞いて眉を寄せている。
「ゲームで済ませられませんよね。俺を傷つける意図があって、発砲しているんだから犯罪です。」
と弟。
デスゲームはゲームであり、弟の銃撃はおフザケで済ませられる話じゃない、と弟は主張している。
正義が勝たないデスゲームを経験する前だったら、俺も同じことを言っていたと思う。
正義が勝たないデスゲームを経験して、脱出後に正義が勝たないデスゲームの外を見て思った。
どんな俗悪も、知らないで生きてこられたなら、その人にとってはないこと。
きっかけがない限り知る機会がないのなら、そう簡単に知る機会は巡ってこない。
きっかけがあって知ったのなら、その人の中でなかったことにはならない。
正義が勝たないデスゲームに慣れて感覚が麻痺した、とかではなく、知らなかった仕組みを知った程度のことだ。
「この家の中で起きていることは、まだ事件になっていません。」
とカガネ。
穏やかに説明するカガネ。
「俺は、殺されそうになっていますよ?」
と弟。
弟は、やや気色ばんでみせた。
「この家でのデスゲームを仕掛けたやつは、デスゲームを犯罪にせずに終わらせるつもりで仕掛けてきている。」
「犯罪を犯罪として処理しないって、どういう意味だよ?」
と弟。
弟は、怪訝そうにしている。
「表に出すには、犯罪が起きたということが形として残らないことには困難です。」
とカガネ。
弟の表情を見れば納得していないのが分かる。
「警察が動くためには、確かに犯罪が起きたという証拠がいる。」
「証拠があっても、証拠を提出した人の思惑通りに警察が動くとは限りません。」
とカガネ。
「証拠の扱いを実際に捜査する警察に委ねるとなると、こちらがしてほしい捜査が行われるとは限らないか。」
モエカの知り合いの政治家の事務所に車が突っ込んで、事務所にいた政治家の親戚が亡くなった件が、車を使った殺人事件ではなく、事故として処理された話を頭において話す。
「犯罪が起きたと訴えるからには、第三者が見ても分かる、形で残る証拠があるといいでしょう。」
とカガネ。
「犯罪の方向性を明示する証拠がないと、犯罪が起きたという訴えの信憑性を疑われる、か。」
「行方不明者が行方不明になったときではなく、白骨死体が発見されたら、殺人事件としての捜査が始まるという話?」
と弟。
「行方不明者の捜査よりも、調査に使える骨が揃っている分が、警察も手を付けやすいのではないか?」
「物証なら、使用された拳銃が家の中にあるよ。
撃ってきた本人も家の中にいるんだし。」
と弟。
「拳銃が使用されている現場にいたのは、俺達三人と使用者自身。」
「目撃者が、狙われた俺一人より多いよ。」
と弟。
「ユキミが狙われたという訴えの裏付けが、ユキミの身内の証言しかない。」
「犯行現場が、家の中なんだから仕方なくない?」
と弟。
「この件で、銃撃者の弟さんへの殺意を証明するのは難しいのではないでしょうか。」
とカガネ。
「美容整形手術をしたお母さんに成り代わり、我が家に身を潜めて機会を待つほど計画的に動いていた人物が、自首して、拳銃を使ってユキミを殺そうとしました、と自白する動機をユキミは思いつくか?」
「自首するように指示されて、指示に従い自首後自白という見方はできるわよ?」
とカガネ。
自首を指示されたら、か。
「指示されて自首した場合、勾留中に死亡の発表がなされると俺は思う。」
それもそう、とカガネは同意した。
「銃撃犯を自首させることが目的なら、自首後、余計なことを言う前に口を塞ぐことがないとは言えないわ。」
とカガネ。
「身代わりで出頭したら、そのまま消される事例があるのか。」
「身代わりであろうとなかろうと、捕まった後の安全が保障されない人が人間らしい生活を送るために設計されたプログラムがあるくらいだから。」
とカガネ。
舞台俳優のツカサがタケハヤプロジェクトに参加した理由か。
警察に捕まるよりも、タケハヤプロジェクトの参加者になる方が、自分の意思を殺さない生活が出来ると保障されたから、ツカサはタケハヤプロジェクトの参加者になった。
ツカサが、正義が勝たないデスゲームに参加していたのは、タケハヤプロジェクトの参加者の身分で、正義が勝たないデスゲームでのゲームメーカーの役割を果たすため。
「自首しないで逮捕されるより、自首した方が心象が良くなって刑罰を軽くしてもらえるイメージ、ありませんか?」
と弟。
「事件によります。事件を起こすのも、求刑するのも、裁くのも、人ですから、人によるとも言えます。」
とカガネ。
「被告人の弁護士は、被告人の刑を軽くするのが仕事ですよね。」
と弟。
「裁判では、そうです。
今日の件を裁判所で裁く日がくるかは。」
とカガネ。
「美容整形手術で顔を変えて、別人の名前で生活しながら、標的を撃つために標的と同じ家で暮らすような人物だ。
裁判中も含めて身の安全が保証されていなければ、自ら自首を選ばないと思うが。」
「自首する前に消されるような立場にいる人が、減刑を狙った、というのは自首する動機として不十分?」
と弟。
「ユキミ。お母さんに成り代わり発砲してきた人物にとって、自首する利点をあげていけ。」
「自首して捕まったら、誰かに追われることはなくなるよ。」
と弟。
「捕まったら追われなくなるが、いつ消されるかも分からなくなる。」
「警察が捕まえるんだよ?」
と弟。
「拘留中に亡くなったり、捕まった後に逃げ出した話は聞かないか?」
「聞いたことはあるけれど。」
と弟。
「役に立たないと判断されたら、事件や事故になる前に、誰にも気にされない形で行方不明ということもあります。」
とカガネ。
「お母さんに成り代わっていた人物は、ユキミを撃って動けなくすることに失敗している。
役に立つという評価はされないのではないか。」
「俺達は失敗されて助かったのに。兄ちゃんは辛辣だね。」
と弟。
「お母さんの成り代わりが、目的がなく、自首して自白することはないと思う。
お母さんの成り代わりが自首して自白するとしたら、俺やユキミやお父さんお母さんを巻き込む嘘を警察で吐くためではないか。」
「自首しておきながら、警察で俺達を巻き込む嘘をつく意味、ある?」
と弟。
「警察を俺達に張り付かせるためだと思う。」
「警察が張り付くなら、俺達は安全になるよね?
警察の目があったら、俺を銃で撃とう、とはならないよ。」
と弟。
警察というものに絶対的な信頼を寄せられる弟を楽天的だとは思わない。
警察がいたら安全だと安心できる人生こそは幸せだったと思う。
「警察が、殺されそうになったというユキミの主張に寄り添った捜査をするとは限らない。」
「実際に殺されかけているのに?人命第一だよね?」
と弟。
「ユキミを狙った人物が警察に自首しにいったら。
俺とユキミは、警察の事情聴取に付き合うことにならないか?」
「なるけれど。何もおかしくないよ。
俺と兄ちゃんが警察の事情聴取を受けることは捜査の一貫だろ?」
と弟。
「拳銃を発砲した本人が、俺やユキミから拳銃を渡されたとでも、自供してみろ。
俺やユキミは、拳銃の入手先や入手方法について警察からの取り調べを受けることになる。」
警察とは友好関係一択だからこそ、関わり合いにならないに越したことはない。
「そんな事実はないんだから、大丈夫だよ。」
と弟。
「事実がないことの証明を警察に任せることになるが?」
「捜査するのは警察なんだから、警察に任せたらいいよね?」
と弟。
警察という組織の中に、入り込んでいる人物や裏切っている人物がいる想像は、弟の中にはない。
「拳銃の現物を持ち込んで自首してきた人物に、硝煙反応が出ているとなれば、その人物が拳銃を使用したことが分かる。
自首する準備が今日までにこの家の中でなされていた場合。
警察の捜査は、俺やユキミの無実を前提とするものになるか?」
「無実を証明しない状況証拠の方が揃うわよ。」
とカガネ。
「俺を撃つのに使われた拳銃を持ち込んだのが、俺達だと疑われる展開は嫌すぎる。」
と弟。
「俺達の心当たりを捏造されたものが証拠として警察へ差し出されたときに。
狙われたのはユキミで俺達は無実という主張が、警察の欲した証拠として採用されるかの確信が持てない、俺は。」
「警察に提供された情報があった場合、その情報が証拠にならないことを当事者が証明する難易度は高いです。
当事者に事情聴取や捜査協力のお願いすることはあっても、警察がどんな情報を得たかを当事者に話すことはしませんから。」
とカガネ。
「俺は、今、疑わしいという状況証拠を積まれて、家に帰れないパターンを想定した。」
「どこにいても、何をしていても、疑いなど、かけられないにこしたことはないわよ。」
とカガネ。
「兄ちゃんって、警察不信?」
と弟。
俺の脳裏に、何人かの顔が浮かぶ。
ラキちゃん。
メグたん。
野村レオ。
水死する前の如月ハコさん。
「警察不信ではない。
警察は組織だと認識しているだけだ。」
「兄ちゃんと警察の間で何かあったのかと心配になったよ。」
と弟。
「家の中と市役所に入り込んでるやつらを俺は警戒している。」
警察にも入り込んでいる、とは言わなかった。
「兄ちゃんは、市役所と警察を同じに考えている?」
と弟。
「公務員は、人だ。」
「採用するのも、採用されるのも人だね。」
と弟。
「市役所でも警察でも、俺の見方は変わらない。
俺達が信用した誰かが俺達を裏切ったり、最初から敵だった、と判明したときに、俺達が負けないことを第一に考えている。」
「警察と市役所は違うよ。大丈夫だって。」
と弟。
職場の後輩と上司を思い浮かべたらしく、弟は顔の前で軽く手を振った。
「警察全体が侵食済みとは俺も思っていない。
ただ、どんな組織にも危険人物はいる。」
市役所にも警察にも。
お父さんの勤務先にもいるのかもしれない。
「用心するに越したことはないよね。」
と弟。
「用心といえば。
私達を狙っているのは、扉の外の二人だけではありません。
私達三人が誘拐されていなくなるなどの口封じにあえば、今この家で起きていることは事件化しません。」
とカガネ。
「俺達が三人とも姿を消すなんて、さすがに。」
と弟。
身動ぎする弟の顔は、引きつっている。
「ユキミに発砲してきた人物がお母さんに成り代わって潜んでいたのは、今日のためではないのか?」
弟の危機感が薄れたり濃くなったりするのは、地獄を抜け出すまでに何周も地獄巡りをする、という実感がまだないからか?
「お母様の成り代わりが自首するかについては、一旦、おきます。
目的を果たしたお母様の成り代わりが、行方をくらませるか、雇い主のところに帰っていく可能性についても検討しましょう。」
とカガネ。
「発砲音が、家の外に聞こえないなんてことはありません。
さすがに、誰かが通報しています。
何もなかったかのように家を出ていくことなんて出来ませんよ。」
と弟。
「パトカーのサイレンは、聞こえません。」
とカガネ。
「発砲音が聞こえたという通報がないので、パトカーは来ないということですか?」
と弟。
「一階で発砲音がしたなら、二階にいるお父さんが通報するのが一番早いが。」
一階にユキミがいることに気付いていないのでなければ、二階の自室にいるお父さんは自らは通報しないことを選んだのではないか。
洗面所に立て籠もっている現状では、お父さんが今何をしているのかなど分からない。
俺の見えないところで、我が子のためになるような何かをしている可能性もなくはないが。
「お父さんが通報したら、さすがに警察も来るよね?」
と弟。
弟の頭の中の通報していてもおかしくないのに通報していない人達の中に、お父さんは入っていなかったのか。
今の状況でも、お父さんは助けてくれると信じている弟のお父さんへの信頼は、お父さんと弟との関係の中で出来上がったもの。
俺は、頼れるお父さんと頼りたい息子いう関係性をお父さんとの間に構築出来なかった。
「そもそもの話、デスゲーム中の家に、警察が駆けつけて来ない可能性は十分にあります。」
とカガネ。
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