表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/472

52.風呂椅子に土のうを詰め込んで、お手製の鈍器が一丁あがり。切らないけれど、殴りつけるのに最適な凶器の使い道。

「私の椅子と交換しませんか?」

とぽちゃ女は、ニコニコしながら言うが、足元に置いた椅子を見せてこない。


「どっかいけ。」

俺は、秒で断った。

「壊れている椅子があったのは、確認済みだ。」


ニコニコしていた、ぽちゃ女は、舌打ちして、足元に隠していた椅子だっものを置いて、足早にいなくなった。


俺が、ぽちゃ女を追い払ってから、見渡すと。


風呂椅子を手にすることができなかった人が、奪えそうな人に近づいていく光景が広がっていた。


近づかれた方は警戒して、顔を伏せたり、威嚇したり。


諦めて逃げだした人もいれば。


じゃんけんをしようと持ちかけて、じゃんけんに勝ったから、寄越せと恫喝している人と、抵抗している人もいる。


ぽちゃ女は、誰かの風呂椅子を奪取したのか、堂々と座っている。


ドッジボールのときも、最初、凶器はなかった。


ただのスポーツだった。


椅子取りゲームは、スポーツか?


スキップはした。


スキップは、運動だから、スポーツか。


椅子取りゲームの敗者が決まるまで、まだ時間がかかりそうだ。


落下してきた風呂椅子の数でも数えよう。


座っている人の分も合わせて数えてみた。


落下してきた風呂椅子は、俺達の人数より一個少ない。


ただ。


明らかに破損している椅子が一つ。


破損していない風呂椅子の数は、部屋の人数より二個少ない。


大浴場でもないのに、風呂椅子争奪戦。


部屋の端で、女二人が、風呂椅子を引っ張り合っている。


風呂椅子には持ち手がない。


一人は、左右に手を回し、もう一人は上下に手を回している。


一方が、腹の前に風呂椅子を抱え込んだ。


もう一方は背の高さを活かし、抱え込まれている風呂椅子の上下に腕を押し込んで、風呂椅子を揺さぶり始めた。


背の高い方は、最初座っていたのを見たから、ぽちゃ女に、風呂椅子を奪われたんだろう。


風呂椅子に直撃された人はしゃがんで、痛い、痛い、と言っていた。


風呂椅子争奪戦を見て、顔をしかめながら、直撃してきた風呂椅子に、しゃがんだまま手を伸ばしている。


風呂椅子が直撃した人に、声をかける人はいなかったけれど、その人に直撃した風呂椅子を取りにいく人もいなかった。


風呂椅子に直撃されたのに、風呂椅子をとったらだめだろう、みたいな空気があった。


今までは。


運営に向けて声を上げた女は、座っていた風呂椅子を確認した後、立ち上がると直撃された人が手を伸ばしている風呂椅子に向かって走っていく。


痛がっていた人は、風呂椅子を取られまい、と転がっている風呂椅子の上に体で覆いかぶさった。


走り寄ってきた女は、走ってきた勢いのまま、風呂椅子に覆いかぶさっている人を蹴る。


壊れている椅子は、一つ追加。


俺は、傍観に徹している。


俺は、椅子取りゲームに勝っているから、椅子の奪い合いには関係ない。


俺の他にも、風呂椅子を確保した人は、傍観一択。


のんびりしていると。


「音楽が始まったら、手元にある椅子を、自分以外の誰かに投げつけて当ててください。


投げるだけでは無効です。


必ず当ててください。


当てたら、別の椅子に代えて、別の椅子でも投げて当てる、を繰り返してください。


音楽を流します。」

と機械音声。


スポーツには、音楽が必要なのか?


バッハのメヌエットが流れてきた。


メヌエットは、舞踏会で踊る音楽だったと思う。


土のうが詰まっている風呂椅子を投げつける舞踏会。


誰に向かって投げるか、が問題だ。


椅子取りゲームである以上。


投げた後、椅子に座ってください、という指示が来たときに、座る椅子がないのは困る。


椅子を持っているもの同士で投げ合うのが確実。


相手は、俺と同じ考え方で、誰にも押し切られない人。


とは、思うが。


人となりが分からなすぎて、相手を選ぶ決め手がない。


ふいに、椅子を取り合っていた二人組が動いた。


二人組は、ぽちゃ女のところへ小走りでいくと、二人で、ぽちゃ女の顔に、土のう入りの風呂椅子を叩き付けた。


ぽちゃ女は、顔を押さえてうめいている。


もう一度、二人は、仲良く、ぽちゃ女の側頭部に風呂椅子を叩きつける。


二人分だから、二回か。


ぽちゃ女は、ふらついて椅子から落ちた。


空いた椅子を手にしたのは、背の高い方。


二人は、キャハハと笑いながら、ハイタッチ。


思い切りがいいのか、暴力をふるうことに抵抗がないのか。


満面の笑みを浮かべる二人に、俺はぞっとした。


土のうが詰まった風呂椅子で顔面と側頭部を殴られたぽちゃ女は、椅子から落ちたときから、動かない。


トップバッターが動いたので、他の参加者も、風呂椅子を投げるか、と動き出す。


さて、俺も動かないと。


俺は、風呂椅子を抱えた。


座るのではなく、抱えてみると、重くて固い。


プラスチック製の風呂椅子を胸に抱きしめる日が来るとは。


土のうが詰まっている風呂椅子を頭に叩きつけられたぽちゃ女は、もう起き上がらないかもしれない。


意識がなさそうに見える。


俺は、腕の中の風呂椅子を見る。


お前は、鈍器か?


『イエス、アイム、鈍器。


リーズナブルに人を殺せちゃうよ。


再利用も可能だよ。』


空耳が聞こえたかもしれない。


風呂椅子は、お手製の鈍器だった。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ