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503.死にたくないという気持ちになった弟。お父さんも同じ気持ちになる経験をしていた?お父さんが弟に語った話の裏付けをお父さん以外から。

「お父さんに何を聞く?」

と弟。


「お父さんお母さんは、似た者同士の夫婦だった。


お母さんからの話を聞けない状態でも、お父さんに話を聞けば分かることもあると思う。」


「兄ちゃんが何を聞こうとしているのか知りたいんだけど。」

と弟。


「顔を見て決める。」


「お父さんとお母さんの?」

と弟。


かすかな物音がした。


俺とカガネと弟だけが動いて喋っていた家の中で、俺達三人以外が動いている。


「準備が整ったか、待ちきれなくなったか。」


「向こうから動き出した。」

とカガネ。


「何の話?」

と弟。


「この家を舞台にして粗悪なデスゲームを企画したやつらがいる。」


「デスゲーム?誰がそんなことを?」

と弟。


「デスゲームの企画者はここにはいないと思います。」

とカガネ。


「俺は、誰かの思惑で死んでやる気などさらさらない。」


「俺も死にたくないよ!」

と弟。


「俺の実家を舞台にデスゲームをやろうなどと。」


「デスゲームのゲームの要素はないかもしれないわよ。」

とカガネ。


「純粋に殺しに来たか。」


弟が顔を引きつらせた。


「兄ちゃん達が、何を言っているのか分からないんだけど。」

と弟。


「自宅で行方知れずになりたいですか?」

とカガネ。


「怖いことをさらっと言わないでください。」

と弟。


「デスゲームは、生きるか死ぬかの世界。生きたかったら殺せ。殺さずに自分が生き延びられる方法を探そうとするな。」


「殺すって比喩だよね?」

と弟。


「ユキミは、自分を殺したがっているやつに殺されていいのか?」


「何で俺が殺されないといけないんだよ?」

と弟。


「狙われているからだが?」


「俺が狙われている意味からして、分からないんだけど。」

と弟。


「今の弟さんと同じ気持ちになる経験を、お父様もされていませんか?」

とカガネ。


「お父さんと俺が同じ気持ちに?」

と弟。


「お父さんは、なんで自分が美容整形手術を受けないといけないんだと思いながら受けた。


美容整形手術を受けた後も、納得がいっていないのではなかったか?」


「そうだけど、お父さんは生きている。」

と弟。


「生かされている。」


「生かされているって、いつでも殺せるから生かしているという意味だよね?」

と弟。


「お父様の取引先は、お父様の顔を変えたいと執着して、お父様の顔にメスを入れるまで執着した後。


周りの人間を使って、お母様自身がお母様の顔にメスを入れることを望むように仕向けたように、見受けられます。」

とカガネを


「美容整形手術の件なら、俺は既に断っています。」

と弟。


「お父様とお母様の顔にメスを入れて満足したなら、お父様の取引先とお父様との関係が今も続いていることが不思議でなりません。」

とカガネ。


「それは、お父さんとお父さんの取引先の間に約束があったから。」

と弟。


「道義的に問題のあることが明らかな約束をし、その約束を守り続ける理由が、お父様の取引先にありますか?」

とカガネ。


「お父さんの取引先と勤務先から持ちかけた話ですよ?」

と弟。


「お父さんが美容整形手術を受けたら、お父さんは取引先に気に入られて、勤務先での好待遇を約束されているという話の裏付けをお父さん以外からとったか?」


「とっていない。お父さんから聞いただけ。


でも、何も得るものがないのに、お父さんが美容整形を受ける理由なんて。」

と弟。


「ご家族が反対することが分かっていたからこそ、ご家族が納得する理由をお父様ご自身が用意されたのではありませんか?」

とカガネ。


「美容整形手術を受けたくないお父さんが自分で、お父さんが美容整形手術を受けることを反対する俺とお母さんが納得する理由を考えて、俺とお母さんに聞かせた?」

と弟。


何のために、と混乱する弟。


「お父さんの取引先と勤務先との間にあったという大型契約の話も、お父さんが美容整形手術から逃がれる方法はない、というお父さんの作り話の可能性はないか?」


弟は青ざめていた。


「俺は、お父さんから聞いた話の確認なんてとらなかった。


お父さんを疑ったことなんてない。


お父さんが嘘をついて俺を騙す?


そんなことは思いもしなかった。」

と弟。


なんでそんなことを、俺達は家族なのに、と弟は繰り返している。


「お父様が、ご家族に偽りを告げたのだとしたら。


お父様には、本当のことを家族に言えない理由があったのではありませんか?」

とカガネ。


「そうかも。」

と弟。


「お父さんの取引先の言いなりになったお父さんを取引先が優遇して、取引先にどんなうまみがあるのかを考えたことはあるか?」


「そんなこと考えるわけないだろう。そんな言い方をしたら、まるで、お父さんが。」

と弟。


弟は、まるでお父さんが、の続きを言わなかった。


「お父様は、取引先の手配による美容整形手術から逃げられないと悟ったときに、取引先に逆らえない、取引先から逃げられないということを家族に話すのではなく、別の理由をお話しになる選択をされたのかもしれません。」

とカガネ。


「まずは、お父さんに聞く。ユキミも一緒に聞け。」


うん、と弟は頷いた。


「俺、信じてよかったのか分からないものの中で生きてきたんだ。」

と弟。


弟は落ち込んでいる。


「信じていいか分からない嘘に気付かず、その嘘を信じていたからこそ、ユキミは今日まで生きてこられた。


ユキミが、これまでの人生を恥じる必要はないのではないか?」


「今の生活に疑いを持ったら、その瞬間に俺は殺されていたと言っていない?」

と弟。


「疑いを持って調べようとしていたら、人生をコースアウトしていたのではないか?」


「何も気付かずにいたから今日まで生きてこられたって、本気で言っている?」

と弟。


「今日、話ができているのは、ユキミが生きているからだ。」

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