5.どうしようもない状況に陥ったとき、パニックを通り越して冷静になる。俺は、ゲートが開く瞬間を待つ競走馬か?いや、屠殺場へ送られる豚か?
俺が転がされていたソファのある部屋は、壁がモニターになる。
デスゲーム参加者への説明用の部屋。
新しい参加者は、必ずこの部屋からスタートする。
デスゲームの舞台として、セットには見覚えがある。
出入り口は、一つ。
扉は、窓がある壁と反対側、建物内に通じるもののみ。
窓は、嵌め込みで開かない仕様。
建物の外には出られない。
俺は、いつ運び込まれて、いつからこの部屋にいたのか。
部屋には時計がない。
俺は、腕時計をしていない。
スマホを見ないと時間が分からない。
それにしても、俺のスマホは、どこだ?
尻ポケットに固い感触は、貸与されていたスマホのみ。
電源を入れたら、時間が分かるんだろうけれど、GPSが仕込まれていそうだから、使いたくない。
俺は、スマホなしでも、生きていけなくはない。
俺は、スマホ中毒じゃない。
娯楽と生活がスマホで完結するから、スマホを持ち歩いているだけ。
暇つぶしがいるような暇な時間は、俺にはない。
楽に稼ぐためなら、稼ぐための時間を、どれだけかけてもいいことにしている。
それにしても。
デスゲームに参加させられるか。
俺は、元々、デスゲームに興味なんて持っていなかった。
デスゲームに関われてラッキーと思ったことは、一度もない。
気がついたら、目を離せなくなっていただけ。
デスゲーム参加者の生きようと足掻く姿が、俺の中に惰性に包まれて眠っていた意欲に火をつけた。
俺にとって、デスゲームにコメントすることは、金を稼ぐ手段の一つだったに過ぎなかったはずなのに。
いつの間にか、目が離せなくなっていた。
俺がデスゲームに魅入られていたのを、デスゲームの運営に見抜かれたのか?
画面越しに?
どうやって分かったんだ?
俺自身では、気づけなかったことを。
把握されていた?
俺の動向を。
いつ、どうやって?
スマホか。
スマホに仕込みがあったのか。
アプリでデスゲームを見てコメントする以外の仕掛けが仕込まれていた?
アプリを開けたままにしているから、仕込まれている何かのプログラムが、裏ではしっていても、分からない。
何かを抜かれていても。
個人情報が抜ける世の中だったら、そのくらい、あり得るか。
俺が、気づかなかったのは、気づけないようにしてあったから。
気づくか気づかないか、ではなく、想定していなかったところが、俺の落ち度。
今、逃げ出せないなら、生き延びて、逃げ出す方法を探す。
失敗にとらわれていても、どうにもならない。
考えを切り替えよう。
俺は、周りを観察した。
窓の外は、暗くはないけれど、晴天の昼間のような明るさもない。
窓は、スモークがかった、すりガラスが入っていて、外の景色は、明暗しか判別不可。
デスゲームのコメントをしていたときに、画面越しに見ていた光景の中に、俺はいる。
説明用の部屋だけど、説明が始まるまで、何の情報も与える気はないようだ。
パンフレットみたいな、人の手の入ったものは、何一つ置いていない。
運営からの説明が始まる前に、予備知識を仕入れたかった。
持たされたスマホが震えている。
俺の様子を観察しているのか。
今なら、俺がスマホを触ると。
オレは、何もしないことにした。
遠隔操作で、スマホの電源が入れられた。
スマホが震えていたのは、電源が入ったタイミングだったからか。
一つしか入っていないアプリは、俺が開く前に、勝手に開いた。
「『正義が勝たない』デスゲームへようこそ。
我々はあなたを歓迎します。
参加者として登録しました。
以下のアンケートに直感で回答してください。
時間切れになりますと、次の質問が始まります。
では、一問目。」
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