42.オーちゃんが、許せなかったのは、何か?
「都市伝説が、なんだっていうんだ。」
と、割り込まれた男は騒ぐ。
「デスゲーム内で、死にたくないと発言したら、発言者は必ず死ぬ。発言から二日以内に。」
とラキちゃん。
「なんでだよお。」
と割り込まれた男。
ラキちゃんと話す割り込まれた男は、興奮のあまり、背後への注意が疎かになっている。
ラキちゃんは、特に表情も変えず、淡々としたまま。
「私は、敢えて、死にに来た、という言葉を使うことにしている。
デスゲームの参加者に、死以外の解放がないことを思えば、外れていない。」
とラキちゃん。
紅一点、オーちゃんは、男の背後から近づいてくると、男の後ろから、素早くナイフを持った手を回して、男の喉にナイフの刃を押しあてた。
「殺されるううう。」
と男が騒げば。
「どうぞ。あなたが殺されたら、都市伝説はやっぱり本物だと思うことにする。」
とラキちゃん。
ラキちゃんは、オーちゃんが、ナイフを喉に押しあてている男の前から、どいた。
「ラキちゃん、一人で、逃げるな。
ラキちゃんは、俺を助けて、俺のために戦え。
あんたは戦えるんだ。
戦えるやつは、戦えないやつを助けて生きるのが、嬉しいんだろう?
あんたは戦いが好きなんだろう?
俺とは違って。
俺は、戦いなんてできない。
そういうのは、適材適所で、やりたいやつがやればいいんだよ。」
と男は、喉に突きつけられているナイフの刃に慄きながらも、ラキちゃんに命令し続けていたが、途中で途切れた。
「それが、本音。騙した。」
というボソッとした声と共に。
紅一点、オーちゃんは、男の喉元に押し付けていた刃を瞬間的に浮かした。
そして。
男の首を押さえ込むように持つと、オーちゃんは、ナイフで男の喉を掻っ切った。
男が、悲鳴を上げる前に、オーちゃんの全ての動作が終了していた。
オーちゃんは、喉から血と空気を漏らす男の頭から手を離し、その背を押した。
首を掻っ切っられた男は、まだ事切れていない。
だが、誰も助けないから、助からない。
致命傷を負ったら、死ぬ、と俺は、改めて理解した。
他人事みたいに考えていたが、他人事ではない。
怪我しても、誰も助けてくれない。
デスゲームは、命を失わせる場所だから。
救命措置なんてものは、ない。
自分の怪我も命も、自己責任か。
俺は、思わず止めていた息を吐き出す。
オーちゃんに、両目を切られた男リーダー、タツキは、見えていない。
声は聞こえているだろうが、痛みと衝撃の最中に、聞こえてくる会話を理解できているだろうか。
オーちゃんに指を切られた二人組は、指の痛みを訴えながら、チームメンバーの二人が、オーちゃんに致命傷を負わされるのを見ていた。
「俺達も、殺されるのか?」
とチームメンバーで一番大きい体躯の男。
この男は、オーちゃんの両肩を押さえていた。
「殺さなかったら、殺される。」
と返事をしたのは、野球をしていそうな男。
野球をしてそうな男は、オーちゃんの腕の片方を掴んでいた男。
二人は、近くにあったナイフを、一本ずつ、掌で拾い上げる。
「殺られて終わるなんて聞いていない。」
と野球をしてそうな男はブツブツ。
「今、なんか言った?」
と体躯の大きい男。
「いや、死にたくないなって。」
と野球してそうな男は、返事を誤魔化した。
二人は、相談し始めた。
「どうする?どう殺る?」
「俺達は、指のせいでナイフがうまく持てない。
動けなくして、突き刺すしかない。
動けなくするのは、俺がする。
指が使えなくても、なんとかなる。
お前は、その隙に刺して、もっと動けなくしろ。
そうすれば、俺も刺す。」
と体躯の大きい男。
野球してそうな男は、体躯の大きい男の提案に乗った。
会話だけで判断すると、野球してそうな男と、体躯の大きい男の関係は、チームメンバー同士といえど、対等とは言い難いのかもしれない。
テニス経験者っぽい男と野球してそうな男は、呼応していた。
テニス経験者っぽい男は、体躯の大きい男ではなく、野球してそうな男を懐柔して、何かをさせていた?
今日に関係する何か。
例えば、今日のドッジボールに男リーダー、タツキのチームメンバーが参加するように、男リーダー、タツキに働きかけること、とか。
オーちゃんは、今日のデスゲームの裏も表も知っている。
だから、か?
だから、オーちゃんは、今日、消されるのか?
オーちゃんは、知りすぎた上に、運営の意図の逆を選んでいるから。
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