414.北白川サナの父方の祖父だけが知っている北白川サナ。娘可愛さに間違えた父は亡くなり、不肖の息子を持つ父は、息子夫婦と対峙する。
「お義父さん、お客様の前です。」
と北白川サナの母。
「今だからだ。
金剛くん、聞いていきなさい。
金剛くんが、何もかもを背負わなくてもいいんだ。
今までのことも、これからのことも。」
と北白川サナの父方の祖父。
北白川サナの父方の祖父は、具体的なことは何も言わない。
ただ。
瞬時に、タケハヤプロジェクトと正義が勝たないデスゲーム、支援団体と公安。
この四つの単語が俺の頭の中で点滅した。
「お父さん、それ、今、言うことでは。」
と北白川サナの父。
北白川サナの父は、焦った様子を見せている。
「俺は、この家で一人だけ、北白川ではない。」
と北白川サナの父方の祖父。
北白川サナの遺族のうち、祖父以外の三人は沈黙した。
「技術や知識の話に忙しい北白川くんとも息子とも嫁とも、ろくに話をせずにきた。
俺も亡き妻も。
そんな俺と妻だったが、サナといて、困ったことだけは一度もないんだ。」
と北白川サナの父方の祖父。
「私達も困っていませんでした。」
と北白川サナの母。
北白川サナの母の語調がきつくなっている。
「両親が困らない代わりに、サナが困っていた。」
と北白川サナの父方の祖父。
「俺達といてサナが困っていた?
どうしてお父さんにそんなことが言える?」
と北白川サナの父。
北白川サナの父は、穏やかな話し方で父親に話している。
北白川サナの父方の祖父は、北白川サナの両親に対して臨戦態勢になっていないか?
「中学生まではそうでもなかったのに、高校生や大学生になってからのサナがたびたび私と妻に会いに来るようになった理由がお前達には分からないのか?」
と北白川サナの父方の祖父。
北白川サナの父方の祖父は、溜め込んだものを少しずつ小出しにしているのか。
「サナは、お祖父ちゃんお祖母ちゃん孝行な娘で。私の実家にも、小さいうちからよく顔を出していました。」
と北白川サナの母。
「小さいうちは北白川くんのところに行く頻度が高かっただろう。
サナが一人で出歩けるようになってからは、北白川くんのところでなく、私と妻のところに行く頻度があがったことにお前達は気付いていなかったのか?」
と北白川サナの祖父。
「孫娘がお祖母ちゃんお祖母ちゃんに会いにいっていたことが、お父さんは機嫌が悪くなるほど嫌だった?」
と北白川サナの父。
北白川サナの父方の祖父は、息子夫婦の呑気とも言える反応に苛立った様子を見せた。
「お前達は、サナをなんだと思っている?
親の機嫌取りをしたつもりではないだろうな。」
と北白川サナの祖父。
「お義父さんのところにサナが行っていたのは、サナ自身の意思です。
私達が行かせていたわけではありません。」
と北白川サナの母。
「サナが自分の意思で私と妻に会いに来ていたのは知っている。
高校生や大学生になった孫娘が、父方祖父母に一人で頻繁に会いに来るようになった。
そんなの、心配にもなるだろうが。」
と北白川サナの父方の祖父。
「私達は、お義父さんお義母さんのことを信頼していましたから。」
と北白川サナの母。
北白川サナの母は、表情を作った。
「娘が時間をやりくりしてでも、父方祖父母の家に来たがっている状況だったということが、お前達にはどういうことか分からなかったのか。」
と北白川サナの父方の祖父。
「サナと同じくらいのお年の金剛さんには分かりますか?」
と北白川サナの母方の祖母。
「サナさんは、親の目の届く場所にいたくなかったのではないでしょうか。」
「そうだ。同じ祖父母でも、サナは子どもの頃に頻繁に通いつめていた北白川くんのところに行かなかった。」
と北白川サナの父方の祖父。
「夫と娘は頻繁に連絡をとっていましたから、うちでは母親に筒抜けになると考えたのでしょうね。」
と北白川サナの母方の祖母。
「お義父さん、親の目から逃れたいなんて、本当にサナが言ったんですか?」
と北白川サナの母。
「うちのサナに反抗期はこなかった。」
と北白川サナの父。
「同年代と混ざるのではなく、行き来が少なかった祖父母の家に来たがり、帰りたがらないサナを見て。
おかしいと思わない方が不自然だろう。」
と北白川サナの父方の祖父。
「サナには、同年代の友達がいなかったから。」
と北白川サナの父。
「サナは、昔からお友達作りがうまくいかなくて。」
と北白川サナの母。
北白川サナの母は、頬に片手を添えて首を傾げる。
「いいか?サナの行動は、家庭に何かあるのではないかと疑いたくなる行動なんだ。」
と北白川サナの父方の祖父。
「お父さんは、この家に問題があると思っていた?」
と北白川サナの父。
北白川サナの母は、頬に手を添えた格好のまま、顔を引き攣らせている。
「住み慣れたはずの家にいたがらない理由は、どこにあるのかと考えないわけがない。
土地が嫌になったのか?
建物にお化けでも出るのか?
住んでいる人に問題があるのか?」
と北白川サナの父方の祖父。
「お父さん、いらぬ憶測は。」
と北白川サナの父。
「俺と妻がサナに尋ねると、サナは家にいたくないからと答えたんだ。」
と北白川サナの父方の祖父母。
「いつごろの話しでしたか?私が同居してからのことですか?」
と北白川サナの母方の祖母。
「話を聞いた頃は、北白川くんが忙しくしていなかった。」
と北白川サナの父方の祖父。
「サナさんが国のプロジェクトに参加する前ですか?」
「国のプロジェクトを北白川くんが息子夫婦に話して、息子夫婦が興味を持ったあたりからの話をサナからは聞いている。」
と北白川サナの父方の祖父。
「サナちゃんは、国のプロジェクトに参加したくないと話していたんでしょうか?」
と北白川サナの母方の祖母。
「お父さんもお母さんもサナが参加すると決めつけ、サナが今は行かないと遠回しに断っても、サナの話を聞かない。
サナが参加すると言って申し込みをするまでサナから目を離さないから、サナは申し込みをするしかなかった。
サナは、お前達のことをそう話していた。」
と北白川サナの父方の祖父。
「主人は、余計なことをしたのですね。」
と北白川サナの母方の祖母。
項垂れる北白川サナの母方の祖母。
「先に息子夫婦ではなく、サナに参加の意思を確認し、サナが興味を示なさなった段階で、息子夫婦に知らせないという選択をしていてくれたら、違ったとは思う。」
と北白川サナの父方の祖父。
「お父さん、お義母さんに言うことでは。」
と北白川サナの父。
「北白川くんのところには、国のプロジェクトの話が耳に入って、お前達夫婦のところにまで国のプロジェクトの話はおりてこなかっただろう。」
と北白川サナの父方の祖父。
「父がいたおかげなことはたくさんありました。」
と北白川サナの母。
「北白川くんに見合ったことが、お前達には見合っていなかったことくらい、俺は知っている。」
と北白川サナの父方の祖父。
「お父さん、そんな言い方はないだろう?」
と北白川サナの父。
「確かに、私達は、父を超えられませんでした。」
と北白川サナの母。
「北白川くんが話をしなかったら、お前達は今も国のプロジェクトなど知らずにいた。」
と北白川サナの父方の祖父。
「お父さん、いい加減にしてくれ。」
と北白川サナの父。
「お前達に国のプロジェクトの話が入ってこなかったのは、お前達に扱い切れる情報ではなかったからだ。」
と北白川サナの父方の祖父。
「父が国のプロジェクトの話を私達にしたことを、お義父さんは怒っていますか?」
と北白川サナの母。
「入ってくる情報の差が、お前達と北白川くんとの差だということぐらい、北白川くんも知っていただろう。」
と北白川サナの父方の祖父。
「主人のことにご理解を示してくださって。本当にありがとうございます。」
と北白川サナの母方の祖母。
「北白川くんがしたことは、娘可愛さゆえにだということくらい理解している。
俺も不肖な息子を持つ父親だ。」
と北白川サナの父方の祖父。
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