364.仕事は友達とはしない。俺が友達と過ごす時間は稼ぐ時間ではない。私情が入るような仕事には、最初から手を出さない。俺に金の匂いを嗅ぎつけるやつらとは、仕事しかしない。それが俺。
「支援団体に捕まる前にタケハヤプロジェクトに参加できて、意志を捻じ曲げられずに生き延びてきたのは。
ツカサ自身が舞台俳優として培った人と金の縁の賜物。」
とケンゴ。
「人の縁をありがたがれるような友人関係など、俺にはない。
俺と佐竹ハヤトは、独立した存在で、俺と佐竹ハヤトが向き合うときは、互いに一対一だった。」
「新人くんは、友達を激選していた。」
とケンゴ。
「互いに助け合える友達であることが、友人関係を築く上での俺の最低ライン。
俺と対等な友人関係を築けるのは、佐竹ハヤトだけだった。
俺は、俺と対等でいられる、たった一人の友達を失いたくなかった。」
俺の思いも虚しく。
たった一人の友達は、この世からいなくなった。
俺の知らぬ間に。
「稼ぐ目的と稼ぎの足並みが友達と揃っていない場合。
友達同士で、金銭が絡むトラブルに発展することはある。」
とメグたん。
「金の貸し借りが起きている人間関係で、貸した方が借りた方に殺される事例は少なくないよ。」
とケンゴ。
「個人間で、借りた金を返さずにいて、関係が悪化することはままあるね。
金遣いの荒さと収入が比例するとは限らないから。」
とツカサ。
「一緒に仕事をするなら、仕事で得た利益の取り分を友達と決めることになる。
単発の仕事なら、まだしも。
利益を分け合う関係を継続する場合。
友達との距離感や空気感が、永遠に変わらないか?」
俺の周りにいた、佐竹ハヤト以外は、最初から俺といることに利を見出すやつらだった。
時が経とうと、俺が人の本質に期待することはない。
「生きていたら、どんな人も変化するわ。」
とメグたん。
「変わらないのは、死者。
死んでしまったら、何もしようがない。」
とケンゴ。
死人に口なしとは、よく言ったものだ。
「金が必要だから融通してくれ、と一緒に仕事をする友達に頼まれることは、あったよ。」
とツカサ。
「今ある収入で、将来設計までしている場合。
自分の取り分を減らせば、自分の稼ぎが減り、生活を貧しくする。
稼いだ金を誰かと分け合って、減らすような仕事はしない。
相乗効果を生み出さないのなら。
その誰かとは、一緒に稼ぐ意味がない。」
「新人くんは、これまで、仕事で知り合った誰かと友情を築くことはしなかったのかい?」
とケンゴ。
「仕事をする上で重要なのは、仕事で成果を上げる能力だ。
仕事を通じて友情を築きたいと考えるなら。
相手に損をさせず、自分も損をしない状態で、相乗効果を出して仕事を終えられることが最低条件。」
「仕事相手の人間性や仕事にかける情熱。
こういうものは、気にならないのかい?」
とケンゴ。
「人間性も仕事にかける情熱は、本人の中で完結するものだ。
内面を切り売りしなければ、仕事をとれないような人物の仕事の出来は、内面を加味しないと評価の基準に達しない。」
「仕事に私情は挟まない、ということかい?」
とケンゴ。
「違う。私情が入るような仕事に、俺は最初から手を出さない。」
「友人関係で受けた仕事に、私情が入らないわけがない。
ショウタが、友人とは仕事をしないということを徹底している理由はそれなんだね。」
とツカサ。
「理解したか?」
「理解したとも。
仕事に友人関係を持ち込むことを拒否するショウタの信念。
金を稼ぐことと友情は、反りが合わない、という思いからきているんだね。」
とツカサ。
そんな面倒な話はしていない。
「友達と過ごす時間は、俺や友達が金を稼ぐ時間ではなく、互いに金を使う時間だ。」
「ショウタと同じ考え方をする人は、ショウタの周りにいなかった?」
とツカサ。
「俺に金の匂いを嗅ぎつけるやつらと繋がるなら、友情ではなく、仕事を通じて金を取るのが適している。」
「ショウタのやり方を採用すれば、やりがい搾取が防げるね。」
とツカサ。
「俺と金で繋がりたいやつらは、俺に見合う仕事と報酬を用意してきた。
両方揃えられないやつらは、揃えられない無能さを理解させて黙らせた。」
「ショウタが、正義が勝たないデスゲームのコメント入力の仕事を始めると決めた動機は?」
とメグたん。
正義が勝たないデスゲームに参加してから、初めてのことに、俺の心は弾む。
メグたんが、俺について尋ねている。
「他の仕事をするより、煩わしさのなさが圧倒的だったから。」
「正義が勝たないデスゲームを見てコメントする仕事をしても、他に活かせるような経験値は積めない。
履歴書に書けない仕事であってもかまわなかった?」
とメグたん。
「俺の仕事は、俺ありき。
履歴書を送って採用通知を待つ類の仕事には、苦労しかない。
楽に稼ぐことが、俺の人生の満足度を高くする。」
「自分には稼ぐ能力があるという自負。
それを裏切らない仕事をする能力。
両方揃っていたショウタだから、一匹狼をやってこられたんだね。」
とツカサ。
「人間性や社会性の点で、仕事先から干されることはなかった?」
とメグたん。
「新人くんの場合。
仕事に限定して発揮される社会性があった。」
とケンゴ。
「打ち合わせも挨拶も仕事だ。
仕事の一部である以上、俺は誰かとのやり取りを惜しまない。」
「新人くんは、社会人になって仕事を通じたやりとりを始めてからの方が、学生でいたときよりも、円滑な人間関係を築けていたよ。」
とケンゴ。
「公安のケンゴの方が、俺の家族よりも俺について正確に認識している。」
俺の家族と俺は、話し合っても平行線だった。
俺が皮肉ではなく、驚いていると。
「家族として、ショウタにはこうなってほしい、こうであってほしい、という思いが根底にある家族と、監視が仕事の公安は果たす役割が違うよ、新人くん。」
とケンゴ。
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