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361.先人の失敗を知ったなら、同じ轍を踏まないように振る舞え。ハコさんは正義が勝たないデスゲームを脱出できなかった。

俺の真向かいに座るケンゴの腹の中にあるのは。


警察という組織に属する仲間を無残に殺されたことへの憤り。


声を荒げることはなく。


態度も変えてはいない。


憤りを含ませながら、姿勢にも仕草にも変化をつけないケンゴは。


俺の目の前で話すだけで、その腹の中を俺によませてきた。


悔しいことに。


俺は、ケンゴから出された例題をケンゴの前で解かされている。


これは、ケンゴの施す俺への新人教育か?


と考えてみても、今一つしっくりとこない。


自身の腹の中が伝わる振る舞いをケンゴが俺の前でしているのは。


新人教育うんぬんではなく、相手が俺だから、ということはないか?


ケンゴの向かい。


メグたんとツカサの間。


今、俺は、そこに座っている。


俺が座っている場所に座っているのが、ハコさんだったなら。


ケンゴは、ハコさんに腹の中を悟らせるような振る舞いをしたか?


俺が口を動かさずに頭を働かせるのは、ハコさんの二の舞を踏むことを避けたいからだ。


ハコさんに、同僚に疑いの目を向けることを厭う感情があったとしても。


その感情を辞令を拒否する理由として、ケンゴの前で口に出さなければ。


同僚を疑わなくてはいけない状況であることを辞令から汲み取って、感情は心の中でおさめておくという判断がハコさんにできていれば。


正義が勝たないデスゲームを脱出するための機会をハコさん自身で潰す結果にはならなかった。


ハコさんとケンゴとの面談で、ハコさんを正義が勝たないデスゲームから脱出させないという結論が出るまでの時間は、そうかかっていない。


ケンゴの話しでは、ハコさんは辞令を聞いて、脊髄反射で辞令を拒否している。


俺の人生とハコさんの人生は、交わる機会がなかった。


ハコさんは、俺を知らない。


俺は、一方的に、ハコさんの一部分を見聞きしてきただけ。


ラキちゃんにとっての良き先輩だったハコさん。


俺は他人なのに、正義が勝たないデスゲームに参加することで、ハコさんの人となりを知る機会に恵まれた。


同じ状況が、正義が勝たないデスゲームの外でのことだったなら。


俺は、ハコさんについて興味深く考えようとはしなかった。


他人のヘマや不幸話を知るのに、人の口を介する必要はない。


ネットにアクセスできる環境があればいい。


正義が勝たないデスゲームに参加した俺が、中途半端に知ることになったハコさんについて、何も考えずにいることは、俺にとってはリスクになる。


正義が勝たないデスゲームは、佐竹ハヤトの作り上げたAIが、人の意思を介在させずに運用している。


警察は正義が勝たないデスゲームを都合良く利用しているが、運営に関与はしていない。


正義が勝たないデスゲームの運用に偶然はない。


正義が勝たないデスゲームでの出会いと別れは、必然と計算され尽くされた手配で用意されている。


正義が勝たないデスゲームを一つ観察し、三つクリアした俺は、正義が勝たないデスゲームがどういうものかを肌で知った。


正義が勝たないデスゲームで、俺がその存在を知ることになったハコさんの在り方を掘り下げることは、俺のリスク回避に繋がってくる、と俺は確信している。


正義が勝たないデスゲームの中で、ハコさんの辿った変遷に、原因のないものではない。


現役の刑事だったハコさんの刑事としての能力は、高かった。


ケンゴが今のように振る舞ったなら。


ケンゴの憤りにハコさんが気付かないという事態は起きたか?


一見すると荒々しく見えないケンゴの中にある激情をハコさんが見つけていたら?


同僚を疑うなど嫌だ、という理由で辞令を拒否するほど考えなしな回答をしたか?


ハコさんの人となりを語れるほどには、俺はハコさんのことを知らない。


生きることを最後まで諦めずに足掻いて足掻いて、水死したハコさんの姿を画面越しに見た俺が、ハコさんについて言えることは。


己の正義感を命と引き換えにするような人には見えなかった、ということだ。


ハコさんが水死した部屋にいたのは、ハコさん自身のためだ。


俺は、何食わぬ顔を保ちながら、思考を働かせている。


ケンゴは、俺に胸の内の憤りをよませたが、俺はケンゴに計算している脳内をよませたくない。


考えることに制限はない。


ただ。


行動は、人に見られるものだ。


何を口に出して、何を口に出さないか。


今の俺には、慎重さが必要だ。


口に出す言葉には熟慮を重ねたい。


ハコさんは、おそらく、今の俺と同じ場所に座っていた。


ハコさんが何を思って、この席に座っていたかは、推測するしかない。


だが。


正義が勝たないデスゲームの脱出前の面談に挑んでいたハコさんの向かいに座っていたであろうケンゴ。


俺の両隣にいるメグたんとツカサ。


部屋の外の廊下に座っているカガネ。


四人とハコさんが、この部屋で膝を突き合わせた結果。


ハコさんは、正義が勝たないデスゲームの脱出に失敗している。


ハコさんが正義が勝たないデスゲームを脱出しなかったのは、四人のうち、所属が警察と公安である三人の総意があったからではないか?

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