353.ルールを守るから、娯楽は娯楽として成り立つ。ラキちゃんが正義が勝たないデスゲームに参加することの表の目的と裏の目的。
最初から、変わらない事実がある。
それは、正義が勝たないデスゲームが、どういうものか、だ。
「正義が勝たないデスゲームは、有料会員が、人の死に様を鑑賞するための有償コンテンツ。」
正義が勝たないデスゲームを知らずに生きている間、正義が勝たないデスゲームは無害だ。
正義が勝たないデスゲームの参加者になったなら。
正義が勝たないデスゲームは、正義が勝たないデスゲームを墓場とするまで、誰を殺し誰を殺さないことで、一日でも長く生き延びることを考えながら生活する場になる。
正義が勝たないデスゲームの外から正義が勝たないデスゲームを楽しむ有料会員は、秘密を守り金を払うことで、人生に最適な娯楽を加えられる。
「娯楽を価値のある娯楽として成り立たせる秘訣は、運営をはじめとする参加者がルールを破らないことだよ。」
とケンゴ。
タケハヤプロジェクトの参加者であり、公安に所属しているケンゴは、運営側の視点を持っていた。
運営側の視点は、今までの俺にはない。
だが。
正義が勝たないデスゲームを脱出する俺には、運営視点が必要になってくる。
運営側に立つケンゴの見解には、聞く価値がある。
「娯楽を楽しむ人と娯楽の提供者、娯楽の参加者の三者がルールを守るからこそ、娯楽は楽しめるという見解には同意する。」
ドッジボールで、ラキちゃんにとどめを刺されたオウカ。
オウカは、自身がタケハヤプロジェクトの参加者で、正義が勝たないデスゲームの参加者のルールがオウカに適用されないことを悪用した。
正義が勝たないデスゲーム参加者にすぎないタツキ達に、正義が勝たないデスゲーム参加者としての参加者ルールを破らせたオウカは。
オウカ自身の命とオウカが守ってきたタツキ達の命で、責任をとっている。
「正義が勝たないデスゲームは、参加者が刑事の場合に限り参加者ルールを適用しない、とはなっていない。」
とケンゴ。
佐竹ハヤトが正義が勝たないデスゲームを作った経緯から考えて。
正義が勝たないデスゲームに特例をもうけなかったことは理解できる。
特例は、人の判断が入る余地を正義が勝たないデスゲームに作ってしまうからだ。
佐竹ハヤトがタケハヤプロジェクトを作り上げるにあたり。
佐竹ハヤトと佐竹ハヤトを助けていたモエカは、タケハヤプロジェクトを乗っ取ろうとする人との戦いの最前線にいた。
正義が勝たないデスゲームには、人の判断が入る余地を無くすことを徹底させた。
モエカが生前に語った内容を確かめる術は、一参加者にすぎない今の俺にはない。
確かめるのは、俺が正義が勝たないデスゲームを脱出してからになる。
「正義が勝たないデスゲームのルールに則り、ドッジボールでオウカに手をかけたときに、ラキちゃんは、一生正義が勝たないデスゲームから脱出できないことが確定し、生きている間に、潜入捜査を終わらせられなくなった。」
「潜入捜査は、一筋縄ではいかないものだよ、新人くん。
人のすることを人が調べに行くのだからね。」
とケンゴ。
「ラキちゃんが、正義が勝たないデスゲームの参加者になったのは、正義が勝たないデスゲーム内にラキちゃんを長くとどめるため、か。」
「ラキが正義が勝たないデスゲームに長くとどまることを警察は画策した、と新人くんは考えるのかい?」
とケンゴ。
「警察が、ラキちゃんを正義が勝たないデスゲームに参加させた表の目的は、社会からラキちゃんを隔離してラキちゃんの身柄が支援団体に渡らないようにすること。
裏の目的は。
刑事のラキちゃんが、刑事として正義が勝たないデスゲームに参加していることを視聴者に見せること。」
ケンゴは、目を細める。
ラキちゃんの話していたケンゴの特徴であるカラコンを装着しているケンゴの目からは、一切の感情が漏れてこない。
「表の目的は、ともかく。
裏の目的は、何のためにだい?」
とケンゴ。
「ラキちゃんという現役の刑事が、正義が勝たないデスゲームに参加していることで、公安から参加しているカガネへの注目をそらす効果がある。」
「警察がラキを正義が勝たないデスゲームに参加させたのは、カガネが、公安だと注目されないようにするため。
そんな風に聞こえるよ、新人くん。」
とケンゴ。
ケンゴは、からかうように軽く話してくる。
「北白川サナが、支援団体と警察の二重スパイが誰だか分かるような証言を支援団体にする前であったとしても。
北白川サナと関わった可能性があるタケハヤプロジェクトの関係者を洗うだけで、カガネの存在にいきつかないか?」
「支援団体に何を喋って、何を喋らなかったかをサナに聞こうにも。
もう、サナは何も話さない。」
とケンゴ。
北白川サナが、サバイバルゲームを脱出しなかった理由は、北白川サナが知っていることを話す機会を永遠に失わせるため。
ケンゴは、暗にそう告げていた。
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