350.北白川サナが、北白川サナという名前で活躍する未来を失ったのは?
北白川サナを生かすための判断基準を知れば、正義が勝たないデスゲームに参加した北白川サナを生かさなかった理由にも見当がつく。
「タケハヤプロジェクトに参加していなければ、誰かに認められていたいという考えをサナは捨てなくても済んだ。」
とケンゴ。
何を言い出すのか、と思ったが、ケンゴが自発的に話す話は聞いておきたいと思い直す。
「北白川サナは、タケハヤプロジェクトの内側にいて、タケハヤプロジェクトの開発に関わっていた。
その北白川サナの軸になっていた、他者に認められたいという考え方を変えたきっかけは。
俺に死ねと言われたことだ。
考え方を変えなくても生きられる未来がサナにはあった、とケンゴは言うのか?」
後出しすぎないか?
「北白川サナという少女が、北白川サナという名前で日の目を見る機会を失ったのは、タケハヤプロジェクトに参加したからだ。」
とケンゴ。
ケンゴの説明は、合っているのか?
時系列がおかしくないか?
「タケハヤプロジェクトが、タケハヤプロジェクトになったから、北白川サナは、タケハヤプロジェクトの学生から軽視されていたのではないのか?」
北白川サナの話す、佐竹ハヤトやモエカをはじめとするタケハヤプロジェクトの学生との思い出からは、北白川サナの孤立がうかがえた。
栄光ある孤立ではなく、爪弾きによる孤立。
「サナを受け入れがたく感じるタケハヤプロジェクトという環境に、サナが身を置く必然は全くなかったんだよ、新人くん。」
とケンゴ。
ケンゴの台詞は、天才佐竹ハヤトがいるから、天才ではない北白川サナがタケハヤプロジェクトにいなくても良かった、という意味か?
「若手官僚の呼びかけに応じて応募してきた北白川サナに。
タケハヤプロジェクトではない環境など選べなかったのではないか?」
始まったのは、タケハヤプロジェクト。
タケハヤプロジェクト以外のプロジェクトは、始まらなかった。
タケハヤプロジェクトに参加しない選択肢など、北白川サナにあったか?
「サナがタケハヤプロジェクトに居続けたのは。
佐竹ハヤトくんの次は、サナの番が巡ってくるという打算が、サナに働いたからにほかならないよ、新人くん。」
とケンゴ。
北白川サナがタケハヤプロジェクトに参加することは、北白川サナのためにならないことだったとケンゴは言っている。
はたして、そうか?
「支援団体の妨害にあわずに、タケハヤプロジェクトが順調に完成していたとしても。
提案が取り上げられる順番は、北白川サナに回ってこないということが、最初から分かりきっていたのか?
北白川サナ以外には。」
引き際を間違えてズルズルとタケハヤプロジェクトに携わり続けたことが、北白川サナの失敗だとケンゴは言っていないか?
「予算も割ける人員も、佐竹ハヤトくんが提案して、若手官僚が推したタケハヤプロジェクトだから通ったんだよ。」
とケンゴ。
タケハヤプロジェクトには、完成までの予算と人員が割かれている。
ケンゴに指摘されるまで、俺の頭からもすっぽ抜けていた事実を改めて考える。
若手官僚の呼びかけに応じて集まった当時、高校生だった北白川サナ。
高校生が、予算をおさえることや稟議を通すなどを一人で思い至れるか?
佐竹ハヤトには、若手官僚が全面的な協力があった。
北白川サナが、佐竹ハヤトに全面協力している若手官僚の気を引ける提案書を独力で出せていたなら。
タケハヤプロジェクトは始まっていない。
北白川サナには、難しかっただろう。
「発案者が北白川サナだと、どんな提案をしても見向きもされなかった、か。」
天才と二番手の才能の差、か。
「佐竹ハヤトくんのタケハヤプロジェクトの成功の後に、サナの提案を実行することはない。」
とケンゴ。
「断言する理由は何か?」
「アイデアを集めて成功した人が二匹目に狙うのは、一匹目よりも小さいドジョウではない。
一匹目と変わらないドジョウを狙いたがる。」
とケンゴ。
「女子高生の北白川サナが、独自の何かの案を実現したいと、官僚相手に主張する場合。
タケハヤプロジェクトと同等のインパクトを狙える提案、かつ、佐竹ハヤトが示したような成功する見通しを立てて説明し、納得させるところまで、北白川サナが独力で成し遂げなければ。
二匹目のドジョウとして認められない、ということか。
二匹目のドジョウにならない北白川サナの提案を通し、予算と人員を回そうとする官僚は、現れない。」
官僚視点に納得できるのは、大人になった俺だからかもしれない。
「同じ場所に佐竹ハヤトくんがいると知った時点で、早々に違う戦場を移っていれば。
サナの望み通り、サナの可能性が注目され、称賛の中で長生きする未来もあっただろうね。」
とケンゴ。
「北白川サナが夢と希望を持って足を踏み入れたはずの場所は。
タケハヤプロジェクトが始まる前から、北白川サナの夢を叶える場所にはなり得なかった、ということか。」
「脇役が佐竹ハヤトくんという圧倒的優位者のいる舞台に上がって、価値を認めさせようとしたところで。
主演の佐竹ハヤトくん以外を観たがるかい?」
とケンゴ。
「脇役を観ないのなら、佐竹ハヤトの一人芝居を見にいくということになるが?」
「脇役に注目する目的がある観覧者は、別だよ。」
とケンゴ。
「最初から北白川サナに目をつけた支援団体のようなやつら、か。」
「佐竹ハヤトくんを見たい観覧者からすれば。
佐竹ハヤトくんの近くで存在感をアピールしてくる脇役など、佐竹ハヤトくんの周囲からいなくなれ、観覧者の視界から外れろと願われる。」
とケンゴ。
「北白川サナの存在が疎ましがられた理由は。
佐竹ハヤトのいる場所に北白川サナはいてほしくない、と思われていたから、か。」
北白川サナ自身が話していたタケハヤプロジェクト内の人間関係。
ケンゴが語る北白川サナの人間関係。
両者の相違が、北白川サナを追い詰める一因になった、か。
「佐竹ハヤトくんに続いて、同じ舞台で主演を演じようと順番待ちをしていても。
佐竹ハヤトくんの再演を希望する声の方が、二番手のサナの主演舞台を望む声より大きくなるというのが現実だよ。」
とケンゴ。
「北白川サナは、二番手を務めた功労者として佐竹ハヤトの後釜を狙っていた、ということか。
タケハヤプロジェクトに携わった関係者が、北白川サナを功労者として扱わなかった原因は、北白川サナ自身に問題があったから、か?」
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