35.ふーくん、タツキくんといると、長生きできないよ、ラキちゃんにしときなよ、という囁やき。紅一点、オーちゃんへの一刺し、一番手は?
俺は、ビクッとなったふーくんの気持ちが分かる。
テニス経験者っぽい男に微笑まれながら話しかけられたら、ろくでもないことを聞かされる、としか思えない。
「いいやられっぷりだったよ。」
テニス経験者っぽい男は、床に転がされたままのふーくんに優しく声をかける。
「褒められるとは、思わなかった。」
と素直なふーくん。
ふーくんは、他の参加者よりスレていなくて、荒んでいない。
考える部分を放棄して、男リーダー、タツキに任せていたせいか?
「ふーくんの仲良しタツキくんは、先が長くない。
ふーくんは、タツキくんよりラキちゃんと仲良くしたら?」
とテニス経験者っぽい男。
「タツキは、ずっと友達だった。」
と迷うふーくんに、テニス経験者っぽい男は、始まったよ、と人の塊を指さした。
出遅れていたタツキが、人の塊に、もうすぐ追いつきそうだ。
カメラが切り替わる。
サバイバルナイフを手にした、男リーダーチームのチームメンバーが、紅一点、オーちゃんを取り囲んでいる。
ラキちゃんとメグたんは、取り囲んでいる集団の一歩外に仲良く並んでいた。
「始まるよ。ふーくん。
ふーくんが今までいたデスゲームが、デスゲームという名前を語った詐欺だと認識を改めないと、ふーくんは、リーダーよりも長生きできない。」
とテニス経験者っぽい男の親切な助言が響く。
切り替わったカメラでは、ナイフを手に、じりじりと囲んでいながら、刺すための一歩が踏み出せない様子が映っている。
一番手が動かないと、後が続かないのは、リンチと同じ構図だからか。
顔見知りで、意識がある相手だから、やり辛い?
様子見の輪から、一人、一歩、二歩、と前に出た。
彼女だ。
「あんたは、関係ないでしょ!」
と紅一点、オーちゃんが、彼女に向かって叫んでいる。
「誰に関係ないとか、関係なく、一刺し、刺さないといけないの。」
と彼女は、最短距離で、オーちゃんへ。
「今は、変な割り切りを発揮するところじゃないでしょ!」
と紅一点、オーちゃん。
紅一点、オーちゃんは、真正面から来た彼女を避けようと、向かって右にズレた。
「逃げられると、刺しにくい。じっとしていて。」
と彼女は、ナイフをオーちゃんに突き出す動作を繰り返す。
彼女は、オーちゃんへとナイフの刃先を向ける。
彼女は、オーちゃんを刺すと決めて、動いているというのが、いやでも分かる。
デスゲームと縁がなかったころの彼女は、ナイフなんて持ち慣れていなかった。
バーベキューで、包丁で切るのは得意じゃない、刃先が怖い、と、彼女が話しているのを俺は聞いている。
彼女は、変わった。
デスゲームが彼女を変えたのか?
それとも、元から、か?
俺が見ていた彼女は、もう彼女の中に欠片も残っていないのか?
「嫌よ。なんで私が!あんた達、どきなさいよ!」
と紅一点、オーちゃんは、彼女のナイフを避けながら、ドッジボールチームのチームメンバーの元へ移動した。
「私のお陰で、どれだけ楽できてきたか忘れていないでしょ?
どきなさいって。」
と紅一点、オーちゃん。
「逃さないで。」
と彼女。
ドッジボールチームのチームメンバーは、どうしよう、どうしたら、というムードで、互いに顔を見合わせている。
紅一点、オーちゃんと仲良くなり、うまくやってきただけに、急に、敵に回るのは、抵抗があるのか。
人殺しに加担することに、恐怖を感じているのか。
紅一点、オーちゃんからのもう一声で、動揺から輪が崩れて、オーちゃんは、逃げ出せそうだ。
「なんで、私がこんな目にあわなくてはいけないのよ!」
と紅一点、オーちゃん。
「楽をしてきたということが、ズルをしてきたということだから。
デスゲームを真面目にやっているときに、ズルして、楽している人は、見たくない。
早く死んでほしい。」
と彼女は、表情を変えずに話す。
俺は、彼女の内面が変わっていなかったのを知った。
彼女は、真面目に、人と向き合っていた。
今、思えば、真面目で不器用だったのかもしれない。
俺の友達とうまくいきそうでいかなかった彼女は、俺の友達と、男友達、女友達の関係になることを選択しなかった。
好きな気持ちがあるなら、今はうまくいかなくても、機会が来るかも、という未練は残さなかった。
デスゲームの中にいても、彼女の心の持ちようは、変わっていない。
俺は、彼女の何者でもないのに、彼女の変わっていないところが嬉しいと思った。
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