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341.手榴弾の使いどき。

ラキちゃんが男二人に嬲られる状態を作って無傷で見ていた北白川サナのしたことを。


極限状態に置かれた北白川サナが、自分だけ助かるためにラキちゃんを犠牲にしたことは仕方がないことだと。


俺は考えない。


北白川サナが、ラキちゃんと同じ目にあえばいいとまでは言わない。


ラキちゃんが元気なラキちゃんのままで、北白川サナがボロボロだったら、俺は北白川サナを哀れに思った。


ボロボロにされた北白川サナを見て怒りは湧いたか?


怒りに関しては、どうだろうか。


手足を折られて、俺のではない白濁のものと匂いがこびりついているラキちゃんの全身。


殴れたり掴まれたりして色が変わり破けた皮膚に、乾きかけの血と動くたびに開く傷口から流れる血で彩られいるラキちゃんの姿を見て、声を聞くと。


死にかけるのは、ラキちゃんでなくても良かったのに、という考えが頭から離れない。


無事な北白川サナを見て、ラキちゃんを見ると、その思いは強まる。


「俺はサバイバルゲームをクリアするから、三人は今すぐ死ね。」


「私も?」

とカガネ。


カガネは、確認するかのように聞いてきた。


「カガネは死体になったら、連れて出してやる。」


サバイバルゲームが開始してからそのつもりでいたかのように、カガネは、俺を見る瞳を細めるのみ。


「そう。さようなら、ショウタ。さようなら、キノ。」

とカガネは、口元を綻ばせた。


カガネの挨拶を皮切りに。


三方から、悲鳴があがる。


「いやだ、助けて、カガネ。


私は生きたい、死にたくない。


私とカガネの仲で、カガネが私を殺すなんて。」

とキノ。


「ツカサ、私を離すです。


ツカサなんか、嫌いです。


ツカサも、ショウタも、モエカも、ハヤトも。


私を殺してもいいと考える人は全員大嫌い、です。


死ねばいい、です。」

と北白川サナ。


キノと北白川サナは、全力で抵抗しながら、声をあげている。


「サナは、どんどん抵抗したらいい。


正義が勝たないデスゲームの参加者は、死にたくないときが、最高の死にどきだから。」

とツカサ。


ツカサの美声があたりに響く。


ツカサは、舞台に立っているかのような発声に切替えて離している。


北白川サナは、目潰しをしようとした手を捕まえられたり、金的しようとした足を踏まれたりして、ツカサに動けなくされた。


「私は、私ではない誰かが楽になるために、私が苦しい思いをする人生で終わらせたくない、です。


ショウタ、ショウタ。


私を生かす、です!


私をツカサに殺させないようにする、です!」

と北白川サナ。


「北白川サナを生かすのは、北白川サナだけだ。


ツカサと俺は、北白川サナを生かさない。」


俺に縋る北白川サナの表情と声。


助けを求める北白川サナを拒絶した俺自身の声。


俺は、俺に手を伸ばして俺を掴もうとする北白川サナの手を躱す俺の動きも含めて、今日のことは忘れないでおく。


どれだけ声を張り上げても、キノと北白川サナをやっぱり生かそうという参加者は、ここにいない。


「カガネも殺されようとしているんだから、私を殺そうとしないで、私と一緒に生き延びよう。」

とキノ。


「私はキノより先に死なないと決めている。


キノが先に死ぬのを見届けるには、私がキノを殺すのが確実。


キノは痛い痛いと言い続けながら死ぬのと、早く楽になるのとどちらを希望する?」

とカガネ。


「本物の最後のお願いなどしたくない!」

とキノ。


キノも、カガネも、二人だけで会話している。


ラキちゃんの側に跪いたメグたんの手が、ラキちゃんの首へ伸びる。


俺は、メグたん、ツカサ、カガネの目と背中の位置を今一度確認した。


今だ、今のタイミングだ。


このタイミングを逃さない。


俺は、確信を持って、部屋の出入り口を背に立つ。


サバイバルゲームの最中にツカサに渡され、今まで俺が持ち歩いていた手榴弾。


俺は、掌の手榴弾をぐるりと回してみる。


改めて見ると。


ツカサに渡された手榴弾の形はと、俺がサバイバルゲームの部屋を調べているときに見つけた手榴弾と違う形をしていることに気付いた。


ツカサが俺に使わせるために、サバイバルゲームの中で俺に渡してきたということは。


誰が手にとってもいいようにと、サバイバルゲームの部屋の中に最初から仕込まれていた手榴弾の用途が、ツカサが俺に手渡ししてきた手榴弾とは異なっていた、ということだ。


サバイバルゲームで既に使用された手榴弾は、ピンを引き抜いて投げた場所から爆散して四方八方に飛び散った。


使用された手榴弾は、敵味方関係なく殺すために設計された武器だった。


俺は、部屋の中を見回す。


今俺が見ている景色は、これから俺が終わらせる世界だ。


俺が温めてきた手榴弾ともここでお別れだ。


ようやく使いどきがきた。


俺は、何も言わずに、手榴弾のピンを引き抜くと、部屋の中央へ向かって投げた。


爆音と爆発と熱風に煽られる中。


つんざくような悲鳴が二つ。


事切れる気配が一つ。


火が舐めるように部屋中に広がり、部屋の温度を急上昇させる。


空気の熱さで火傷しそうだ。


閉じられない鼻の穴の粘膜が熱で切れて、鼻血が出てきた。


俺は、火の広がり具合から目をそらさない。


熱と火で溶けていく、作り物の世界。


木々も岩も。


水気のない部屋の中は。


燃え移るままに、延焼していく。


唯一の水分は、人体。


動けなくなっても、まだ息があった参加者から断末魔や苦痛を訴える声があがる。


助からないと助けを求めるのを止めて、これまでの人生に対する不満を述べ続ける大声。


痛みで覚醒した参加者の、熱い熱い、痛い、という悲鳴と金切り声。


部屋中の自然物ではないものが燃えているせいか。


密室で空気がこもっているせいか。


人体の燃える匂いと人工物を燃やす火で、部屋の空気の密度が高い。


部屋中に広がる火の海と熱、屍となっていないのに、生きながら燃えて命の灯火を消される参加者。


忘れるな。


これは、俺が作った地獄だ。


俺が生き抜くために。


俺は、サバイバルゲームの部屋に火を放った。


まだ息がある人は、これから肉体が焼けていく生きながら肉体が焼けていく他の参加者の匂いを嗅


俺の人生を切り開くために、俺が弑した命があることを俺は、覚えて正義が勝たないデスゲームを脱出する。


火の広がりは最高潮。


カメラワークを駆使しても、火がついていない出入り口は撮り切れない。


背にしていた出入り口の扉が開いていく。


背中側から、新鮮な冷たい空気が流れ込んでくる。


「サバイバルゲーム、クリア。」

と正義が勝たないデスゲームに参加し初めて、何度目も聞き、聞き慣れた機械音声。


殺される予定の参加者が生きているうちは、クリアすることが出来ない。


これが、正義が勝たないデスゲームの特徴だ。


サバイバルしたいなら、いつ決断を下すか。


サバイバルゲームの主旨は、殺す予定の参加者を見極めてサバイバルに失敗させること。


俺は、迷いを振り切った。


背中から新鮮な空気が入ってきたせいか、麻痺していた嗅覚が復活した。


サバイバルゲームの部屋中に充満している人体の焼けた匂いが俺の鼻腔を焼く。


俺達は、誰も一言も話さずに、静かにサバイバルゲームの部屋を出た。


部屋の外が熱風に焼かれる前に、出入り口が閉じていった。


一人一台持たされているスマホが、俺のポケットの中で震える。


俺は、鼻血をおさえるために、片手で鼻をつまみ、空いた手でスマホを確認する。


サバイバルゲームをクリアした俺達の行き先は、全員同じだった。


アスレチックゲームでメグたんに連れられてツカサに会った部屋とは、別の部屋の前に俺達は立っている。


内側から扉が開く。


「揃っているなら、部屋に入って、まず喉を潤したら?」

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