324.人の強弱。俺は、俺が不快でなければ不満を覚えない。多くを欲しがらずに満足していた俺を変えたものは?
正義が勝たないデスゲーム内で、周りが見えずにやり過ぎたことを反省したとして、詩人が得られるものはあったか?
素直な疑問をそのまま口に出すことは躊躇われ、俺は言葉を探して言い換えた。
「反省したところで、命のカウントダウンは止まらない。
そのデスゲームでの死が確定であると知ったときの詩人は、詩人を殺そうとするツカサに何かを求めたか?」
「やり過ぎを反省して、反省した態度を示せば、殺されることはない。
最初のうちは、詩人は、そう考えていたよ。」
とツカサ。
「詩人は殊勝な言葉や態度で反省していることを示すことで、殺されることを回避しようとしていたか。」
「正義が勝たないデスゲームの外の法律は、そうだから。」
とツカサは笑う。
「罪を犯さなかった者の落ち度を探して、罪を犯した者よりも責め立てることを好む者ほど、騒ぎ立てるわね。」
とメグたん。
「泥棒に入られた家の鍵がかかっていなかった場合に、家の鍵をかけなかったからだ、と泥棒に入られた家主にも落ち度があったと主張するやつか。」
「泥棒が一番悪いのにもかかわらず、泥棒を責めずに、家主の落ち度を探してあげつらう者の数と、家主や家主と同じ家に住んでいて泥棒の被害にあった人の数のどちらが多いか。」
とメグたん。
「殺人事件や傷害事件の場合。
被害者の情報開示を妨げるものはなくても、加害者の情報開示にはストップがかかっていないか。」
「俺が加害者になった事件では、そうはならなかったよ。
なぜだろうね?」
とツカサ。
「加害者がツカサだからよ。」
とメグたん。
「ツカサに知名度があったからツカサはやり込められたのか?」
俺は、ツカサとメグたんのやり取りに違和感を覚えて口を挟んだ。
ツカサとメグたんの軽口は、本題に入る前の助走だ。
ツカサとメグたんは、俺に何を伝えようとしている?
「俺に加害者の法則が働かなかったのは、俺が加害者として最弱だったからだよ。
加害者としては最弱でも、被害者よりは強かったからね。
今もこうして元気に人が殺せるよ。」
とツカサ。
人の強弱についての話題か?
強きをくじき、弱きを守る物語は、最強の主人公が俺TSUEEEEするためのテンプレだと俺は思っている。
俺には、人の強弱など関係ないから無縁のストーリーだ。
誰かに見せつけなくても、俺が弱かったことは俺の人生では一度もない。
メグたんとツカサが、俺にはない視点を語るなら。
二人の会話には、聞く価値がある。
「被害者は、被害者になったとき、加害者よりも無関係な第三者よりも弱いと太鼓判を押されてしまうのよ。」
とメグたん。
メグたんの話は、加害者と被害者とそれ以外に接してきた刑事としての経験からくるものか?
「人間の社会的な強さの話か?
被害者が踏みにじられたことを確認した第三者が、何をしても噛みついてくる心配がない、と安心して、被害者に死体蹴りをすることについて話したいのか?」
俺の意見など話すまでもない。
死体蹴りをするやつは、死体蹴りする足を落とすか、足を残して上半身を無くすかすれば静かになる。
「第三者は、無関係であったりなかったりね。
加害者単体の強さより、どの集団に属しているかが問題よ。」
とメグたん。
メグたんのしたい話は、死体蹴りの話ではなかったか。
「ツカサの後ろにいる人物が支援団体より弱かったから、ツカサは加害者としては最弱の立ち位置だったのか。」
「口さがない者ほど、叩こうとする者の後ろの力が弱いことを確認してからでないと叩かない。
被害者をあげつらうことで、虚栄心を満たす前に、己の安全が確保されていなくてはね。」
とメグたん。
「メグたんが、支援団体の関連の人間の間引きをしていたのは、被害者と加害者、第三者の力の強弱の関係を理解していたからか。」
被害者は、加害者に勝てないだけではなく、被害者になる前には無関係だったやつらにも、被害者になったことで踏みにじられるようになる。
加害者を叩かないやつらの心の内には、加害者単体ではなく、加害者の所属する集団を刺激することで、身の安全を脅かされるという恐怖がある、ということか。
弱さを嗅ぎつけると弱い者を食い殺したくなるという本能のスイッチが常にオンになっている人間がいるのは、煩わしい。
「私個人はね、弱くはないのよ。
その証拠に、私は今も死んでいないわ。」
とメグたん。
「人間は、本能で、弱さ、強さを嗅ぎ分けるという話題か。
俺は、弱い者視点で物事を語らない。
なぜなら、俺が弱い者になったことは、俺の人生では一度もないからだ。」
「ショウタは、内面を見せる相手を選ばないと傲慢だとそしられるね。」
とツカサ。
「弱い者に寄り添えという妄言に耳を傾けて、弱い者を増やすよりも、弱い者の強さを引き出して強くあらせろという考え方をすれば、優しさがないと反発をくらったり、在り方を否定されたという思い込みから突き上げられることはある。」
俺が、俺と理解し合えない人との関わりに消極的なのは。
人生において、俺に寄り添う気が皆無なのに、自分達に寄り添い助けろと一方的な要求を突きつけるやつらと関わる時間が無駄だと見切りをつけたからだ。
老若男女を問わず、俺の人生を俺ではない誰かのために一方的に使うことを要求することを良しとする思考をするやつらが、多数派だったから、関わりを断った。
「ショウタは、自分以外は弱い者と認識して生きてきたんだね。
強さを自覚して、自ら聖人君子であろうとするのは、その人の意思だ。
ショウタに聖人君子を強いろうとする誰かは、ショウタが聖人君子でいることで恩恵を受ける弱い者。
ショウタは弱い者の集団に混ざるのを拒否し、栄光ある孤立を選んで今に至る、と。」
とツカサ。
「俺の場合は、俺の周りには俺と同等か、それ以下がいた。」
俺の同等と言えたのは、佐竹ハヤト一人。
俺は、多くを望まない。
佐竹ハヤトとは、俺のしたい話ができた。
佐竹ハヤトが生きて俺の目の前で元気にしていたなら、俺の人生に不満はなかった。
俺は、佐竹ハヤトとの友情が続くこと以外の全てに関心を持つことはなかった。
佐竹ハヤトの死が、欲しがらなかった俺を変えた。
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