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321.ツカサの矜持。ツカサが、舞台俳優として活躍していたときの自主トレを続けているのは、未練ではなく?以前、詩人と呼ばれた参加者がいた。

朗々と、まるで舞台に出て歌い上げるような話し方だった。


「ツカサは舞台俳優だったときのトレーニングを続けているのか。」


「完全な自主トレでも、体が動いて、頭がはっきりしている間は続ける。」

とツカサ。


「日課になっているのか?」

というツカサへの質問に込めた意味はなかった。


「俺が俺であるために、俺は続けている。」

とツカサ。


「ツカサのアイデンティティーのためにか?」


「舞台俳優として生きる矜持を無くしたら、俺は何になる?」

とツカサ。


俺は、言葉に詰まった。


「タケハヤプロジェクトの参加者にならず、正義が勝たないデスゲームに参加していなければ。


舞台俳優を廃業しても、他で食べていく道はあったわ。」

とメグたん。


「ああ、確かに。」


俺は、タケハヤプロジェクトに参加しなかった場合のツカサの未来がどういうものだったか、を予想してみた。


支援団体とキノの目論見通りに、キノと夫婦になって俳優を続けることになっていたと思う。


ツカサが自主トレを続けるのは、舞台俳優への未練か?


「タケハヤプロジェクトに参加したことについての後悔はないよ。」

とツカサ。


「俺は役者をやるために、俳優を志した。


誰かの手駒になって、役者未満として売られるくらいなら、俺は役者を仕事にしない。


タケハヤプロジェクトに参加していなければ、俺は支援団体に人生を蹂躙されていた。」

とツカサ。


「ツカサの場合。


タケハヤプロジェクトに参加していなかったら。


支援団体の指示に従わないと生きていけなくなり、支援団体の思惑通りに動いても、舞台俳優の仕事が出来たかは不明な状態が一生続いたわね。」

とメグたん。


「ツカサは、俳優に未練があるか?」


支援団体とキノによって、断ち切られたツカサの未来。


「ショウタ、俺は舞台俳優であることを辞めてはいない。


タケハヤプロジェクトの参加者として正義が勝たないデスゲームに参加している俺を見る視聴者が見たい俺は。


何もかもを失わされ、何者でもなくなった、ただ人を殺すだけの男ではない。


視聴者は、正義が勝たないデスゲームの外で役者をしていた舞台俳優ツカサの続きを見ようとしている。」

とツカサ。


ツカサには、矜持がある。


支援団体に迫害されてもなお、舞台俳優として生きる矜持をツカサは失わなかった。


ツカサが、志した道を閉ざされても腐らずに生きてきたのは。


ツカサが、死ぬまで舞台俳優としてあり続けようとしているからだ。


正義が勝たないデスゲームの中にいて、ツカサを見ている観客がいるなら、観客の期待する以上の芸術を見せて観客を満足させる。


ツカサは、過去にしがみついてもいなければ、いつかの未来を夢見ていない。


今を生きている。


ツカサは、一人のプロの役者として生きることを選んだ。


正義が勝たないデスゲームという舞台で。


俺は、ツカサの覚悟を聞いた。


自分自身が人間として生きるために、他人に手をかけることを良しとするタケハヤプロジェクトに参加したツカサの覚悟だ。


ツカサが俺に話した覚悟は、今の俺に聞かせたい話だったんだろう。


「俺達が詩人と呼んでいた参加者がいた。」

とツカサ。


「ツカサが歌い上げた詩だか、長台詞についての話を始めるのか?」


「ショウタが参加するもっと前の時期。


詩人は、参加者を捕まえては、同じ詩を繰り返し聞かせていた。」

とツカサ。


ツカサは、詩人と呼ばれていた参加者の自作の詩を暗唱したということか?


繰り返し聞いて覚えたのを思い出して、諳んじたのか?


なぜ、今、諳んじようとツカサは考えたのか?


「同じ詩を繰り返し聞かされたら嫌気がささないか?」


「捕まえられる参加者は、毎回違っていたよ。」

とツカサ。


「一人の参加者の自作の詩を聞いてくれるような参加者が、そんなにいたのか。」


「聞きたくて聞いていたというより、聞かされていただけだよ。


全員、詩人に捕まえられていたからね。」

とツカサ。


「誰も断らなかったのか?」


「捕まえた相手には、詩を聞かせたくなるみたいだったよ。」

とツカサ。


「詩が好き過ぎる参加者だったのか。」


「正義が勝たないデスゲームの外では、誰にも相手にされなくなり、誰とも話しをしなくなっていたから、人と会話する能力が欠落してしまったがゆえの奇行だったわ。」

とメグたん。


「正義が勝たないデスゲームに参加する前に、人との会話を成り立たせることはできなくなっていたのか?


詩を作るだけの語彙はあっても。」


言葉を知っているのに、会話の仕方が分からなくなったから、会話ができなくなったのなら。


詩人と呼ばれた参加者の胸の内に渦巻く感情は、溜め込まれて膨らむばかりだったのではないか。

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