32.死ぬ理由が思い当たらない? 生きている理由がないからだね。生かしておく理由がないんだよ。理由としては珍しくもなんともないね。
「そういうことだった。」
とラキちゃん。
ラキちゃんが何に納得したのか、俺には分からなかった。
「あなたが、余裕なわけが分かった。」
とラキちゃん。
ジリリ、ジリリ。
けたたましい目覚ましの音が響く。
「試合終了。お疲れ様でした。結果報告に移ります。」
と機械音声。
試合らしい、試合だったのか?
「ラキちゃん。結果発表、楽しみだね?」
とテニス経験者っぽい男。
「結果発表。失格者一名。」
と機械音声。
「選ばれし一人は、誰か、気になるね、ラキちゃん。」
とテニス経験者っぽい男。
「ならない。」
とラキちゃんの返事は素気ない。
「失格者は、オウカ。オウカは速やかに次のステージへ移動してください。」
と機械音声。
「嘘でしょ!なんで私よ!おかしいでしょ!私が選ばれるなんて!」
オーちゃん、と呼ばれていた紅一点が、叫んだ。
「おかしくないよ、オーちゃんしかいないよー。」
とテニス経験者っぽい男。
「私は安全な筈だったでしょ!嫌よ、嫌よ!私は死にたくない!私には死ぬ理由なんて当てはまらない!」
と取り乱す紅一点、オーちゃん。
「死ぬ理由が思い当たらないのに死ぬことなんて、珍しくないよ。
生きている理由がないからだと考えたら気が楽にならない?」
とテニス経験者っぽい男。
「生きている理由がない?私に?そんなことってある?」
と紅一点、オーちゃんは、テニス経験者っぽい男に詰め寄っている。
「オーちゃんは、映せる場面が少な過ぎたんだよ。
目立たないようにして、存在感を消して、忘れ去られてしまえば、細々と生きていけると思っていない?」
とテニス経験者っぽい男。
図星だったらしい。
テニス経験者っぽい男は、顔を引きつらせている紅一点、オーちゃんの耳元に声を落として囁いた。
「デスゲームにいくら注ぎ込まれているか、知らないわけじゃないのに、考えが足りなすぎ。
自分だけは安泰だと、あぐらをかいた結果だよ、オウカ。
存在感をアピールしなかったから、オウカにお金を落としてくれる人がいなくなった。
送別会の代わりにソロ出演が決まっているから、最後に花火を打ち上げたらいい。」
とテニス経験者っぽい男。
「あんたは、私の代わりに来たってこと?」
と確認する紅一点、オーちゃんは、歯の根が噛み合わない。
「企業秘密。
オーちゃんのお陰で、一度は使いたい四文字を初めて使った。」
とテニス経験者っぽい男。
「ドッジボールのしめに、皆で、オーちゃんを人生最後の舞台に送り出そう。」
とテニス経験者っぽい男。
「何を言って。」
とテニス経験者っぽい男から後退る、紅一点、オーちゃん。
「オーちゃんがいたドッジボールチームには、見せ場があまりなかった人が集まっていたから、オーちゃんに協力してもらって、見せ場を作ればいい。」
とテニス経験者っぽい男。
「何をさせる気?」
と紅一点、オーちゃん。
「オーちゃんは、何もしなくていいよ。甘えん坊には、自分で頑張らせるから。」
とテニス経験者っぽい男。
紅一点、オーちゃんは、テニス経験者っぽい男から離れて、体育館の出入り口に向かって走り出した。
「今回、見せ場を作れなかった全員にチャンスがある。」
とテニス経験者っぽい男。
ドッジボールのボールが天井から落ちてきたときみたいに、天井から勢いよく、何か硬そうなものが落ちてくる。
「避けないと危ないよ。」
とテニス経験者っぽい男。
ドス、ドス、ドス、ドス。
天井から、落ちてきたのは、複数のサバイバルナイフ。
刃先が収納されていたために、床に刺さりはしなかったが、落下の際に、跳ねて、床に散乱している。
「見せ場のなかった人には、特別に、今から、救済措置がある。
最低でも、一人一刺し。人数分あるから、一人一本持つこと。
使いまわしが禁止の理由は、使用前、使用後を分かりやすくしたいから。
必ず自分の持っている一本で、刺しにいくように。
刺す順番は、刺したい順。
刃先だけじゃなく、刃全体をオーちゃんの体にのめり込ませる。
今日のソロ出演は、オーちゃんだけど、明日のソロ出演は、未定だから、明日ソロ出演したくないなら、今日は今から本気を出そう。」
とテニス経験者っぽい男。
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