312.佐竹ハヤトの理解者。
メグたんと話すまで、佐竹ハヤトは独りで戦っていた、と俺は思っていたが。
タケハヤプロジェクトの参加者として、早くから佐竹ハヤトの近くにいたメグたんは。
佐竹ハヤトの一番理解者だったかもしれない。
タケハヤプロジェクトと正義が勝たないデスゲームを作り上げた佐竹ハヤトの人生に、佐竹ハヤトの味方はいなかったと思っていた俺は、肩の力が抜けた。
不本意ながら、正義が勝たないデスゲームに参加した俺は。
俺の知らない佐竹ハヤトの環境と佐竹ハヤトの身に起きた出来事を知って、憤りを感じただけでなく。
己の無知と己以外に無関心を貫いたために、俺が失ったものの大きさを突きつけられている。
後悔と無念さと寂寥感が、寄せては返す波のように、俺の心を揺らす。
俺が、正義が勝たないデスゲームに参加していなかったら。
苦しみの中でも諦めずに貫いた、佐竹ハヤトの誇りと配慮を知る日はこなかった。
何も知らないまま、連絡がとれなくなった友達を待ち続ける日が続いていたら?
俺はどうするだろうか?
俺の意思で探すだろうか?
何もせず、待ち続けるだろうか?
俺は、正義が勝たないデスゲームに参加して良かったと思う。
佐竹ハヤトの作りたかったものを知り、作り上げたものを体験して。
俺の知らない場所で佐竹ハヤトが足掻き、俺が見ようとしなかった世界を俺は知ることができた。
高校生だった佐竹ハヤトが、閃いて作りたかったものと作り上げたものは、同じではない。
枝葉がついて様相は変わった。
佐竹ハヤトの作りたかったものを知っていて、理解していたメグたん。
メグたんは、佐竹ハヤトの友達である俺に、佐竹ハヤトの実現しようとした芯の部分を伝えてきた。
「佐竹ハヤトには、メグたんという理解者がいた。」
メグたんは、フッと笑う。
佐竹ハヤトのしたかったことを知っていて、佐竹ハヤトのしてきたことを応援している人は、ゼロではなかった。
佐竹ハヤトに理解者がいたことを知れたのは、嬉しい。
佐竹ハヤトが亡くなった事実は変わらないが、理解者に恵まれずに孤独のまま亡くなったのではないことを知れた。
「メグたんの他のタケハヤプロジェクトの参加者も、佐竹ハヤトの理解者か?」
「ショウタ自身で確かめたら?」
とメグたん。
メグたんは、否定しなかった。
タケハヤプロジェクトの参加者が、正義が勝たないデスゲームを脱出した俺の協力者となるかは、俺次第か。
タケハヤプロジェクトを離脱した学生は、佐竹ハヤトと同じ時間を過ごしても、その思いを汲むことはなかった。
「タケハヤプロジェクトを離脱した学生ではなく、タケハヤプロジェクトの参加者になっていたメグたんは、タケハヤプロジェクトの会場から出られない。
佐竹ハヤトが、タケハヤプロジェクトの会場へ来たとき。
佐竹ハヤトが同じ建物内にいることに、メグたんは気づいたか?」
「私達は、部屋に待機だったわ。」
とメグたん。
「タケハヤプロジェクトの参加者は、部屋に待機か。」
「正義が勝たないデスゲーム開始前、タケハヤプロジェクトの参加者と、タケハヤプロジェクトの学生が接触する機会はなかったわね。」
とメグたん。
「メグたんに、佐竹ハヤトを助ける機会はなかった、か。」
今でこそ、タケハヤプロジェクトの参加者であるメグたんは、正義が勝たないデスゲームに参加しているが。
佐竹ハヤトが、タケハヤプロジェクトの建物内に入ってきたとき、正義が勝たないデスゲームはまだ開始されていなかった。
モエカや佐竹ハヤトをはじめとするタケハヤプロジェクトの学生がタケハヤプロジェクトの会場である建物内に入ってくるこては、タケハヤプロジェクトのプログラムに含まれていなかった。
モエカや佐竹ハヤトやその他のタケハヤプロジェクトの学生がタケハヤプロジェクトの建物内に足を踏み入れることになったのは、支援団体の思惑による結果。
メグたんは、タケハヤプロジェクトの建物内に足を踏み入れた佐竹ハヤトと接触できなかった。
佐竹ハヤトは、自らの死に際に、正義が勝たないデスゲームを開始している。
同じ建物内にいても、メグたんには、佐竹ハヤトの命を助ける機会がなかった。
佐竹ハヤトは亡くなったが、佐竹ハヤトのしたかったことをメグたんは忘れなかった。
佐竹ハヤトが語った夢や理想を覚えていたメグたんは、佐竹ハヤトが最初に思い描いた夢を俺に話して聞かせた。
タケハヤプロジェクトと正義が勝たないデスゲームは、何も知らずにいた佐竹ハヤトが思い描いた夢を現実に適応できるように落とし込んだものだ。
メグたんが聞いた限り、高校生だった佐竹ハヤトの思い描いた夢は、最初から殺伐としたものではなかった。
殺伐とした現実に合うように、夢の形を変えながら、佐竹ハヤトが完成させたものの中に俺はいる。
正義が勝たないデスゲームの参加者になった俺が経験してみて言えること。
それは。
正義が勝たないデスゲームの運営がAIによるものだったとしても。
正義が勝たないデスゲームの運用は、モエカの話していたような全自動ではない。
正義が勝たないデスゲームの参加者の目につかないところで、働いている人がいる。
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