30.テニス経験者っぽい男は、デスゲーム内の秩序を壊しにきた?
俺は、画面を見ながら、我がことのように緊張した。
男リーダー、タツキは、デスゲーム内で、人を殺してこなかった。
男リーダー、タツキが、殺人に忌避意識を持っている人物だと仮定すると、俺の未来が、男リーダー、タツキの姿だ。
俺は、今まで、誰も殺したことがない。
俺は、デスゲームの中に入っても、殺されたくないし、誰も殺したくないんだ。
俺は、デスゲームから脱出することをめざしているから。
デスゲームから脱出して、社会に溶け込むときに、デスゲーム内で殺人を犯すことは、マイナスになるとしか考えられない。
デスゲーム内では、至るところにカメラがあり、完全犯罪など成立しない。
俺は、俺のために、人殺しになりたくない。
他人の命を、とか崇高な志は、崇高な人が満足するまで唱えていればいい。
俺は、自分一人が生きるのに精一杯だから、他人の命の結末なんて、最初から見る気もない。
「チョロい勝負に満足しているところが、人間としての厚みのなさを証明しているよ、リーダー。
リーダーには失望した。
もっと楽しませてくれても良かったのに。
今回に限り、見せ場じゃない、とは言わないでおくよ、俺は。
リーダー。
次回は、もっとちゃんした見せ場を用意してくるよね?」
とテニス経験者っぽい男。
ラキちゃんが、男リーダー、タツキより先に口を開いた。
「答えなくていい。見せ場がなかったら、死が早まるだけだから。」
とラキちゃん。
「ラキちゃんは、俺の癇に障る生き方が好きなんだね?
ねえ、ラキちゃん。
俺を苛々させて、長生きしようとするのは難しいよ?」
とテニス経験者っぽい男。
「リーダーをけしかけて、リーダーと私を両方潰そうとしておきながら、言い訳する?」
とラキちゃん。
テニス経験者っぽい男は、今日、言葉だけで、デスゲーム内にうっすらと存在していた秩序を破壊した。
男リーダー、タツキの元にまとまっていた体育会系の男は、タツキの指示を聞いて動いていた。
タツキの指示がない限り、無法な行いをしていなかったような気がする。
男リーダー、タツキは、ふーくんを尊い犠牲に選出し、ラキちゃんを見せしめに使った。
男リーダー、タツキが、何を目的に指示したか、は、誰の目にも、はっきりと分かりやすかった。
男リーダー、タツキが、生き延びるために、テニス経験者っぽい男のアドバイスを受け入れた。
タツキは、同じチームメンバーで、内野にいた、自分以外のメンバーに攻撃を加えた。
ドッジボールで、内野が内野を害さないというルールは、今日、有名無実化した。
テニス経験者っぽい男は、爽やかそうな見た目で、デスゲーム内にあった、ある種の均衡、平穏を無くした。
当事者が、そうとは分からないくらいに、自然に、男リーダーの立場を奪い取り、ラキちゃんというスケープゴートを仕立て上げる。
男リーダー、タツキの元には、もう、人は集まらないだろう。
男リーダー、タツキといると安全という神話は、テニス経験者っぽい男一人によって崩れた。
テニス経験者っぽい男は、リーダーの座を狙う発言はしていない。
テニス経験者っぽい男の発言からして、騙されて担ぎ上げられることもないだろう。
近づいてくる人を顎で使いそうな気はする。
テニス経験者っぽい男は、デスゲーム内を引っ掻き回すためにいるのか。
なんの目的で、引っ掻き回す?
秩序だったデスゲームでは面白みがないから、だとすると。
デスゲーム内の秩序を壊して、混沌とさせることで、テニス経験者っぽい男に、利点はあるのか?
テニス経験者っぽい男は、運営側だったりするのか?
もしかして、運営側が投入したとか?
なんで、今?
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