299.環境の再現。
正義が勝たないデスゲームを運用するAIについての対策を考えるのではなく、佐竹ハヤトの思考から対策を考えるか。
「生前の佐竹ハヤトは、正義が勝たないデスゲームについて、友達の俺に何の説明もしなかっただけでなく、正義が勝たないデスゲームという存在から俺を遠ざけていた。
俺が、正義が勝たないデスゲームについて気が付かないようにしていたような気さえするのは、気のせいではない。
佐竹ハヤトの死後、正義が勝たないデスゲームを運用するAIが、俺に仕事を寄越したのは、佐竹ハヤトがAIにそう指示していたからか。」
「佐竹ハヤトくんが、正義が勝たないデスゲームにした指示は。
佐竹ハヤトくん自身が正義が勝たないデスゲームに関わっている間は、金剛ショウタに正義が勝たないデスゲームに関与させない?」
とカガネ。
「もしくは、正義が勝たないデスゲームと関係あろうとなかろうと、佐竹ハヤトの死ぬと、俺に正義が勝たないデスゲームの存在を認識させるように指示していた、か。」
「佐竹ハヤトくんは、何を考えてそうした、と思う?」
とカガネ。
「俺は、正義が勝たないデスゲームに、お客様として参加している自覚がある。
正義が勝たないデスゲームへの参加で、佐竹ハヤトが俺に見せてこなかった世界を俺は知った。
俺と知り合う前の、夢と希望と熱意を持った高校生だった佐竹ハヤトが、その頭脳を活かそうと踏み出した社会で、何が起きていたのか。
それを俺に伝えたかった。」
「金剛ショウタには、刺激が強すぎた?
金剛ショウタの友達として、佐竹ハヤトくんは大きな割合を占めていたのではない?
案外、平気?」
とカガネ。
平気ではない。
「衝撃は受けた。
今は、事実として受け止めている。」
「平気なわけではないにしても、冷静ね。」
とカガネ。
「過ぎた時間に起きていたことには、手が出せない。」
佐竹ハヤトは生き返らない。
モエカは、苦しみながら死んでいった。
ラキちゃんは。
一人で動くことが困難な状態にされたラキちゃんは、もう。
俺を助けて死なせまいと動いていた北白川サナ。
タケハヤプロジェクトを離脱した学生の一人として。
正義が勝たないデスゲームの指示で、正義が勝たないデスゲームに与えられた仕事に従事するために、正義が勝たないデスゲームの参加者になった北白川サナ。
正義が勝たないデスゲーム内で死ぬつもりがなく参加者になった北白川サナは、サバイバルゲームを生きてクリアすることはないだろう。
無遠慮に殺されたりしたくないから、正義が勝たないデスゲームに参加したのに、正義が勝たないデスゲームを運用するAIに殺されそうだから、俺に賭けたと話すカガネ。
カガネは、生きていく意欲や生きたい動機を語っているが、全てを受け入れているかのようだ。
カガネ自身に自覚があるかは不明だが、カガネは、タケハヤプロジェクトとの関わりや、正義が勝たないデスゲームの事情について、無関係ではないはずなのに、当事者意識で話していない。
野村レオと俺は、正義が勝たないデスゲーム内で参加者同士になっていなかったら、互いに認識する機会もなかった。
知り合いになって、野村レオと話をした時間は短かったが、野村レオの人となりを十分理解した俺は。
野村レオに、正義が勝たないデスゲームの中で死ぬこと以外の未来がなかったことに憤りを覚えている。
俺と関わりのあった人物と、関わることになった人物が、俺や本人の意思によらないところで、人生の結末を決められている。
全くもって面白くない。
正義が勝たないデスゲームに参加した俺は、正義が勝たないデスゲームを生きて脱出した後にしたいことが山程できた。
俺がしたいことをするために、俺はどうしていくのがいいか、を考える。
「俺がすることは、過去と現在から、未来への道を切り開くことだ。
人生に哀愁を漂わせることや、悲嘆に暮れることは、時間に余裕が出来てからすればいい。
俺は、今、人生を終えるか、続けるかの岐路に立っている。
違うか?」
違わない、とカガネは笑う。
「冷静なのは、感情が表に出ないだけ?
それとも、感情のコントロールをしている?」
とカガネ。
「正義が勝たないデスゲームに参加する前の俺は、俺が関心のあるもの以外どうでもいいと思っていた。
友達も家族も、社会も、俺のやりたいようにやれない中で居場所を探そうなどという考えは、俺にはなかった。
俺と話が合わないやつらに俺が合わせても誰にも何の利点もない。
そのことを俺は、早くに理解していた。」
俺の話をふんふんと聞いているカガネは、笑みを消してから、尋ねた。
「正義が勝たないデスゲームに参加している金剛ショウタの状況が。
タケハヤプロジェクトに参加した佐竹ハヤトくんが亡くなるまでに置かれていた環境の再現だと、金剛ショウタは気づいた?」
とカガネ。
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