296.佐竹ハヤトを殺したのは、支援団体。では、佐竹ハヤトを追い詰めたのは?
「自分から動かなくても与えられる環境に慣れた人間は、卑しく貪欲になる。
与えられる理由を理解する頭脳がないから、ではなくね。」
とカガネ。
カガネは、佐竹ハヤトの死を悼んでいる。
カガネは、佐竹ハヤトの自死を仕方ない、と片付けていない。
カガネと話していると、佐竹ハヤトが死んで悔しいという思うのが、俺一人ではない、と安心する。
正義が勝たないデスゲームに参加して初めて、佐竹ハヤトの死を知った俺の。
佐竹ハヤトの死についての感情を共感できるのは。
カガネだけだ。
正義が勝たないデスゲームの参加者の中には、佐竹ハヤトと無関係でない参加者が少なからずいたのに。
「与える側がどんな意図を含んでいても、与えられるものがあるなら受け取ることに躊躇しない。
与えられるものがあるなら、我先にと取り合い始める。
次の段階にいくと。
与えられるものに満足しなくなる。
もっと寄越せ、もっと貰っていいはずだ、と、さえずるようになる。
しまいには、与えられることは、当然の権利だから、と言い出し、与えられないことに対して怒りを覚え、与えてくれた人を恫喝したり、奪い取りにいく。
手をかけたり甘やかすと、与えられることが自分の価値だと思い込み、与えられている自分を特権階級だと誤認し始める。
これが、タケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族の現在地。」
とカガネ。
カガネの説明は、まるで、見てきたようだ。
佐竹ハヤトの遺産である正義が勝たないデスゲームに生かされてきたタケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族の変遷。
「金を配るだけでなく、金と仕事をセットにしても、クレクレになるのか。」
正義が勝たないデスゲームを脱出した後で、会うことになっても。
俺は、タケハヤプロジェクトの学生とその家族とは、分かり合えないと思う。
俺に何も差し出さないで俺を利用しようとするタイプと俺は仲良くしない。
言葉で殴り合いをするには、数が多そうだから、殴り合う気にもなれない。
無言でフェードアウトしたいが、難しいか。
俺を利用する頭しかないタケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族が、闇雲に俺を探しまわった挙げ句、ヘタうって俺を追い詰めてくる未来が、容易に想像できた。
「タケハヤプロジェクトの学生とその家族のように、他者に作られた安定した環境の中にいて、他者が作ったものを享受しているだけの状態が続くとね。」
とカガネ。
「タケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族みたいなのがはびこれば、文明衰退待ったなしか。」
「無遠慮に他者の働きの成果物を横取りして、他者の才能や努力にタダ乗りすることがまかり通れば、そうなる。」
とカガネ。
「真面目に頭を使って、働くほど損をするという理解が広まれば、働き手はいなくなる。
成果物として表に出した途端、成果物はタダ乗り勢に奪われるとなると。
狡くて、浅慮で、厚顔無恥な人が、一人勝ち、か。」
俺は、話しながら、あることについて、やっと合点がいった。
才能がある働き者の佐竹ハヤトが、才能を活かし続けることなく、自死を選ぶことになった原因。
「タケハヤプロジェクトを離脱した学生が、佐竹ハヤトを追い詰めた。」
「支援団体が佐竹ハヤトくんを殺した、とは言わないの?」
とカガネ。
「佐竹ハヤトを殺したのは、支援団体だ。
だが。
死を決意するまで、佐竹ハヤトを追い詰めたのは、タケハヤプロジェクトを離脱した学生だ。」
俺の中で、タケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族は、見たくないもの、触りたくないもの、ナンバーワンになった。
存在してほしくないもの、にリスト入りしていないのは。
タケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族が、正義が勝たないデスゲームの仕事に従事しているからだ。
正義が勝たないデスゲームは、佐竹ハヤトの遺産だから、正義が勝たないデスゲームが機能しなくならないように、タケハヤプロジェクトを離脱した学生とその家族の生存を脅かしたい、とまでは考えないでいる。
「タケハヤプロジェクトを離脱した学生が俺を利用する前に俺を死なせれば。
タケハヤプロジェクトの学生が夢見た下剋上は、頓挫する。
と、正義が勝たないデスゲームを運用するAIは計算したのか。」
はた迷惑な話だ。
俺が正義が勝たないデスゲームに参加して殺されそうになっているのは、完全に巻き込み事故ではないか?
「活路があるとすれば。」
正義が勝たないデスゲームを運用するAIが俺を殺す理由を取り除けば、俺は殺されない。
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