251.野良女優キノと台本。女優として認められたいキノのアドリブ。キノが女優として認められようとして捨てたもの。
「用意周到だ。キノに計画性があったとは。」
俺が驚いていると。
「キノは、計画を実行しただけ。」
とドッジボールの女リーダー。
ドッジボールの女リーダーの台詞の意味をつかめず、俺は首を傾げて考えた。
「騒動を起こしたキノとは別の人物が、騒動を計画したのか?」
舞台女優を引退したキノ。
とりたてて褒めるほどの演技力ではない、と評価されていたキノ。
目を引く容姿をしていないキノ。
キノは、キノを見て、キノだと騒ぎになる心配がない元舞台女優。
「ツカサとキノの騒動には、誰かが書いた台本があったのか?
キノにだけ配られて、ツカサには知らされない台本を書いたやつがいたのか?
キノは、台本にそって演じたのか?」
キノは、ツカサを振り回すように依頼されていたのか?
「言うなれば、キノは、野良女優。
台本と一緒にエサを用意されたキノは、エサのために、白昼堂々と修羅場を演じることになった。」
とドッジボールの女リーダー。
「人のことを野良呼ばわり?
馬鹿にして。私は女優。」
とキノ。
「キノを主演女優にすえた青空劇場計画がご破算になった理由。
金剛ショウタは、分かる?」
とドッジボールの女リーダー。
「台本にないツカサのファンがいたからではないか?」
キノは、ムスッとしている。
「ツカサがツカサのファンの対応を終えてから、キノがツカサに絡めば、書かれた台本通りに運べたかもしれない。」
とドッジボールの女リーダー。
「キノは、ツカサのファンが立ち去るまで待たなかった。
もしくは。
待たなかったのではなく、待てなかったのか?」
「キノに聞いたら、キノは答える?」
とドッジボールの女リーダー。
キノは、ドッジボールの女リーダーを無言で睨んでいる。
ドッジボールの女リーダーに返事する気はないらしい。
「女優が、台本通りに演じなくてよいものなのか?
主演女優だったら、アドリブが許されるのか?」
「台本にそわずに動いてしまうのが、キノがキノたるゆえん。」
とドッジボールの女リーダーは、微笑む。
「キノが、女優として大成しなかったのは、自分勝手なアドリブにはしるからか?」
「目立って、できるところを見せて、売り込もうとするも、求めていない、と煙たがれる。
それが、舞台女優としてのキノ。」
とドッジボールの女リーダー。
キノは、ギリギリと歯を食いしばっている。
「キノは、女優として認められたかったが、認められなかった、ということは理解した。
キノの動機が、見えてこないのだが。」
「必要とされず、惜しまれることもない世界で。
キノは、必死に自分を売り込もうとしていたわ。
女優として認められようとして。」
とドッジボールの女リーダー。
なりたかった職業につけたのに、業界で必要とされていないと分かったとき。
辞めるか、しがみつくか、仕事がなくなるまで続けるか。
キノは、しがみついたのか。
「そんなキノに女優として引き立ててやろうという誘いがきたら?」
とドッジボールの女リーダー。
「キノは、飛びついたか。」
「キノは、プライドを捨ててでも、女優でいようとした。」
とドッジボールの女リーダー。
「キノは、引き立てられたいなら従え、と交換条件を提示され、受け入れたのか。
プライドを捨ててでも、という条件に、ツカサがファンを殺しただか、殺していないか、という事件が関係してくるのか?」
「キノがプライドを捨てたのは、もっと前。」
とドッジボールの女リーダー。
「いつからか?」
「ツカサと共演する話が決まるとき。」
とドッジボールの女リーダー。
「キノが、共演者のツカサにしつこく絡んでいたのは、キノが女優として生きていくためとして提示された交換条件で、キノの事務所もその条件をのんだのか。」
「キノがアドリブをきかせたのは、共演する舞台でのことではないわ。
ツカサに関する交換条件について。
キノは、台本を無視してアドリブを貫き通した。」
とドッジボールの女リーダー。
「共演者のツカサを盗撮したことか?」
「盗撮は、台本通り。私物の持ち帰りも。」
とドッジボールの女リーダー。
「職場で犯罪行為を働くことが交換条件か。
女優として終わりかねない条件をのんだのか。
発覚したら、共演を拒否される。
発覚しないはずがない。」
「キノが台本通りに動けば、秘密裏に処理されることになっていた。
キノのアドリブは、どれだと思う?」
とドッジボールの女リーダー。
「キノの台本通りではなかった部分は、既に今までの話に出ているのか?」
「話の中にあったわ。」
とドッジボールの女リーダー。
俺は、キノという女の本質を考える。
キノは、タケハヤプロジェクトの学生の炎上をまとめていた。
ツカサに突撃するタイミングで、台本にないツカサのファンがいたときのキノは、ツカサのファンを煽った挙げ句にSNSへツカサのファンの姿をあげている。
「SNSか。ツカサとの匂わせは、台本にないキノのアドリブだったのか。」
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