245.慟哭。走り出した先には?『また、会ったね。』
俺は、足を止めた。
「ラキちゃんと北白川サナは、死ぬ気なのか?
俺一人を生かすために。」
「状況判断もできない?」
とドッジボールの女リーダー。
俺は、返事をしないで、走り出した。
全力で。
ラキちゃんと北白川サナが、死ぬ気だったなど信じたくない。
信じたくないが。
状況は、ドッジボールの女リーダーの言う通りだ。
俺は、どうして、いつも気づくのが遅いのか。
佐竹ハヤトのときも。
今回も。
いや。
今回は、まだ、間に合う。
間に合わせる。
佐竹ハヤトのときは、間に合わなかったが。
ラキちゃんと北白川サナは、まだ死んでいない。
死んでいないはずだ!
生きていてくれ。
ラキちゃんと北白川サナが俺の知らないところで、戦って死んでいくなど、あってたまるか!
俺達は、チームだ。
俺、ラキちゃん、北白川サナ。
俺達は、三人で一つのチームだ。
俺達は、誰一人欠けずに、サバイバルゲームをクリアすると決めた。
決めたはずだ!
ラキちゃん、北白川サナ。
二人は、最初から、今回のことを想定していたのか?
俺に勝ち目がない敵と出くわしたとき。
俺を安全圏に逃がすために。
俺に黙って死ぬ気だったのか?
サバイバルゲームをクリア後の俺が。
ラキちゃんと北白川サナを探しても、二人はどこにもいない。
俺達の再会は、俺が後ろを振り返らずに進むための方便だったのか。
俺を生かすためだけにされた、果たされない約束なのか。
いらない。
優しい嘘など。
俺は、必要としていない。
俺は、やりたくないことは、なんとしてもやらないで済ませてきた。
俺は、やりたくないことは、はっきりしているが、やりたいことは、これといってなかった。
興味を持っても、詳しく知りたくなる事象は、特になく。
関わりたい事柄も、取り立ててなかった。
気が赴けば、何かに干渉することはある。
ただ、関心が長続きすることはなかった。
俺は、俺の人生に不満を抱えたことなどなかった。
人生とは、そういうものだと思っていた。
疑いもしなかった。
何事にも興味を惹かれない人生に、不自由を感じたことがなかったから。
だが。
俺は、今、全力で走っている。
全力疾走をしようと考えたことなど、なかった俺が。
感情の起伏が、俺を突き動かすということがあるのか。
初めて、俺は、自分の感情のままに走っている。
間に合いたい。
死なせたくない。
俺の感情は、俺の体を突き動かせるくらい、強かったのか。
がむしゃらに走って、ラキちゃんと北白川サナの姿を探す。
どこにいるのか?
二人は、無事か?
ラキちゃんと北白川サナ、どちらの声も、俺には聞こえない。
男の声は?
耳を澄ます。
一度聞いたきりだが、聞き慣れていない声が、聞こえてきたら。
息が切れてきた。
立ち止まる。
息を大きく吸い込む。
人体の焼けた匂いは、もう薄まりようがなく。
吸って吐いてを繰り返しても、匂いのマシな空気は、肺に入ってこない。
俺は、ツカサが、終盤だと言っていた意味を嗅覚で理解した。
サバイバルゲームの会場となっているこの部屋には、人の体が焼けた匂いが充満している。
充満する匂いは、デスゲーム参加者の死を積み重ねたもの。
濃くなる一方で、薄まらない匂いは。
能動的にデスゲームに参加していた参加者が数を減らしている証左。
探さなくても。
そこここで、動かなくなった参加者を見ることができる。
走っているときは、気にしなかったが。
立ち止まって、周りに目を向けると。
動かなくなった参加者と動けない参加者が増えていた。
どちらも減ることは、ない。
俺は、息を整え、足を休めながら、耳を澄ます。
人工の土のため、足音はしない。
だが。
何か、聞こえてこないか?
人の声。
男女の。
話し声が聞こえる。
話し声は、段々と近づいてくる。
話し声からは、険悪なムードは感じない。
和気あいあいともしていないようだが、会話は成立している。
「ああ、いたいた。」
と女の声が響いた。
女は、何かを見つけたらしい。
聞き覚えがある声を頼りに、人工の木の間の人影を探す。
声の主の女は、一人ではない。
女の近くには、女が会話していた男女がいるはずだ。
今、対峙したくない男女が。
俺は、女の声から遠ざかるように、休めていた足を動かす。
俺は、今、誰にも邪魔をされたくない。
一分だって。
一秒だって。
無駄にしたくない。
「こっちに全力疾走していくのが、見えたから。
こっち、こっち。」
という女の声。
女の声が大きくなる。
女が探していたのは、俺か。
女は、俺など眼中になかったはずだが。
どうして、今さら俺は探されているのか。
「立ち止まったのなら、そこから動かないでよ。
移動するから、わざわざ探すことになったわ。」
顔と首に火傷を負い、ドッジボールでは女リーダーとコンビを組み、正義が勝たないデスゲームに参加するきっかけが、ドッジボールの女リーダーだと思って、女リーダーの元から去ったキノという女の嬉々とした声が響く。
「ほら、いた。」
とキノは、背中越しに手招きする。
「また、会ったね。」
とツカサ。
ツカサは、笑いながら俺に手を振ってきた。
「会わなくてもよかったわ。」
とメグたん。
「二人とも。
早く、この男を殺ってしまいましょう。」
とキノは、俺をあごでしゃくった。
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