242.生き残った学生のその後は?
「駆けつけたタケハヤプロジェクトの学生は、答えたのか?」
「駆けつけた学生は、
『お望み通りの存在なら、あなたの目の前にいて、あなた自ら作り出した。』
と言い。
元政治家の弟に家族を絞殺され、一人だけ生き残った学生を指し示したわ。
『あなたは、この人の家族を皆殺しにして、この人への恨みを晴らし、満足しているようだ。
俺は、この人が生き残っていることに憤りを覚える。』」
とドッジボールの女リーダー。
「駆けつけた学生は、生き残った学生が生きていてよかったとは言わなかったのか。」
家族を絞殺されたばかりの仲間に対する気持ちの表明としては、容赦ない。
「駆けつけた学生は、元政治家の弟に対して。
『余計な仕事を増やした挙げ句、仕事ができる人を死なせて、仕事ができないだけでなく、一人で生きていけない人だけで生き残ったところで、誰も喜ばない。
自分一人で生きていけない人に、一人だけ生き残られても、迷惑だ。
まとめて殺されていると助かった。
今からでも、一人追加する予定は?』
と聞いていたわ。」
とドッジボールの女リーダー。
辛辣だが、共倒れを避けるためか。
元々、生きていることを苦々しく思っていたのかもしれないが。
「生き残りの学生は、元政治家の弟に殺されたのか?」
「元政治家の弟は、笑いながら、生き残った学生の殺害を断った。
正義が勝たないデスゲームへ参加するために、意気揚々と絞殺死体が並ぶ家を出ていった。」
とドッジボールの女リーダー。
生き残った学生は、元政治家の弟に殺されずに済んだ。
家族は、皆殺しにされたが。
駆けつけた学生の言い様は、元政治家の弟の敵意を、生き残った学生と駆けつけた学生から、最後までそらすことに成功している。
「生き残った学生は、駆けつけた学生に対し、さらなる助けを求めた。
生き残った学生が助けを求めたのは、以下の二点。
家族が絞殺されたことについて、警察を呼ぶから付き添ってほしい、ということ。
誰もいなくなったから、一緒にいてほしい、ということ。」
とドッジボールの女リーダー。
生き残った学生が、駆けつけた学生から蔑む言葉を聞かされても、なお、駆けつけた学生にすがったのは、他に頼る相手がいなかったからか?
「駆けつけた学生は、生き残った学生に。
『タケハヤプロジェクトの離脱後、それぞれが精一杯生きている。
他人の手を煩わせないようにしてからなら、話を聞く。』
と言って、一人で事件現場から立ち去っているわ。
事件現場となった、生き残った学生の住んでいた家に、生き残った学生は、一人で残った。
家族の絞殺された死体と一緒に。」
とドッジボールの女リーダー。
生き残った学生は、助けを求めたとき、駆けつけた学生についていき、駆けつけた学生の家に転がり込むことを考えていたのではないか?
誘われることを期待したかもしれない。
しかし。
明確に拒絶され、行き場を失った。
絞殺された家族が倒れている家を出ていくには、自分でトラブルを解決してから、と言われてしまった。
「生き残った学生は、その後?」
「事件現場となった絞殺された家族が横たわる家の中で、首を吊っている姿で発見されているわ。」
とドッジボールの女リーダー。
絞殺された家族の後を追ったか。
「駆けつけた学生は?」
「私が正義が勝たないデスゲームに来る前は、生きていた。
駆けつけた学生の家族も生きていた。
今は、どうだか分からない。」
とドッジボールの女リーダー。
正義が勝たないデスゲームに参加していると、外の世界の情報は遮断される。
「駆けつけた学生のことを酷いと思う?」
とドッジボールの女リーダー。
「切り捨て方が容赦ないとは思う。」
駆けつけた学生は、絞殺死体の並ぶ現場に駆けつけるだけの行動力や情がありながら、感情や倫理的な正解に流されなかった。
「タケハヤプロジェクトを離脱した学生には、家族以外に頼る相手がいない。
家族が皆殺しになっている学生に、時間、人手、お金をかける人はいなくなった。」
とドッジボールの女リーダー。
俺は、咄嗟に答えられなかった。
仲間を切り捨てること。
平時では、褒められることではない。
だが。
タケハヤプロジェクトを離脱した学生に、平時であったときの安らぎなど、存在しただろうか?
炎上に次ぐ炎上。
火消しは、間に合わず。
タケハヤプロジェクトの学生内にいた裏切り者のために、炎上を予防することは叶わない。
緊張感が続く中。
大胆な単独行動に出たゆえに、悲劇にまみれた仲間がいたら。
気の毒だと、力になろうとするか?
自業自得だと、見切りをつけないか?
たとえ。
仲間の大胆さが、仲間自身のためでなく、仲間全員のためを思い発揮されたものであったとしても。
「助けてもらうだけの立ち場のままでいると、助けてくれる人がいなくなったときに、居場所がなくなる。
生き残った学生に、状況をよめるほどの賢さがあるなら、一人取り残されたことが何を意味するかの理解も早かっただろう。」
生き残った学生が、家族の絞殺された家で首を吊ったのは、そこにしか居場所を見いだせなかったからか。
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