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232/472

232.絶望の深さを比べてみれば。底なし沼に沈みゆく誰かと浮かび上がる誰か。苦しみの中で抱く感情は、夢でも希望でもなく。彼我の差への怨嗟。

ドッジボールの女リーダーの反応を見るに、俺が口を開かないのは、正解だった。


ドッジボールの女リーダーは、タケハヤプロジェクトについて、関係者の関係者として、見聞きできる立ち場にいたのか。


「仕事をしているなら、上司も同僚も、仕事に関わりのある誰かしらと接点があるはず。


死因は、仕事のしすぎだというのだから。」


過労死か。


タケハヤプロジェクトの関係者で過労死した、とされる人は、一人。


「若手官僚が死に至るほどの仕事を与えたり、引受させたり、仕事から離れられなくした元凶がいる。


死ぬほどの仕事で追い詰めた元凶が、出てこないのよ。


元凶は、名前も存在も秘されている。


亡くなった結末だけを見て、見せしめだと騒ぐばかり。


誰一人として、哀悼の意を表すことはしない。


亡くなったことを疑問に思って、死因を調べ直そうともしない。」

とドッジボールの女リーダー。


ドッジボールの女リーダーの怒りと憎悪の矢印は二方向に向いている。


一つは、若手官僚を直接、過労死に追いやったやつら。


「死因は、過労死。


過労死の原因は、タケハヤプロジェクト?


そんなわけがない。


タケハヤプロジェクトを進めているときは、過労死をするようなスケジュールは組んでいなかった。


家に帰ることもままならないような仕事は、タケハヤプロジェクトではない。


タケハヤプロジェクトを失敗と断定し、毎日、反省文を提出させては、反省が足りないとやり直しをさせて。


反省文ばかりでは、仕事をしたことにはならない、と振られた仕事は、どんな仕事?


誰も解決しようがないとさじを投げていた仕事。


若手が一人で片付けるのは、そもそも無理。


助けを求めても、誰も助けようとしない。


そんな環境下に押し込んで。


仕事が終わるまで、誰とも連絡を取れないようにする。


若手官僚も、若手官僚に仕事を与えた側も、若手官僚に与えられた仕事は、永遠に終わらないと分かっている。」

とドッジボールの女リーダー。


タケハヤプロジェクトを立ち上げた若手官僚は、組織の中で孤立させられて、亡くなり、その死を悼まれることもないようにされたのか。


「一方的に苦しめられ、苦しみを誰にも伝えられず、かえりみられることなく。


タケハヤプロジェクトの学生は、いつの間にか、姿を見なくなって、亡くなっているから驚いたみたい。


驚いたことに驚くわ。


タケハヤプロジェクトの学生が妨害されているなら、官僚に妨害があってもおかしくない。


タケハヤプロジェクトの学生と妨害するやつらの間に入って、学生に害が及ばないようにしていた若手官僚への妨害が、学生への妨害を上回らないわけがない。


そんなことも分からない。


想像しさえしない。


ギリギリまで、若手官僚に守られていたことに気づきもせず、当然、感謝もしない。


危なくなってきたから、と学生はタケハヤプロジェクトから逃げていく。


家族がいるから、家族に害が及ぶ前に、と言って。」

とドッジボールの女リーダー。


ドッジボールの女リーダーが怒りと憎悪を向ける二方向のもう一つ。


それは、生き延びたタケハヤプロジェクトの学生。


タケハヤプロジェクトの関係者は、軒並みひどい目にあっている。


一番最初に、過労死した、と発表されている若手官僚は、隠されるようにして、ひどい目にあっていた。


見せしめにされるために。


過労死したとされる若手官僚の死は、見せしめとして、抜群の効果を発揮した。


逃げることをできなくされて、死に至らしめられた若手官僚と、危ない目にあわないために、とタケハヤプロジェクトから逃げていく学生の差が、ドッジボールの女リーダーの憎悪を集めたのか。


タケハヤプロジェクトの関係者であった若手官僚と学生は、妨害された者同士として、手を取り合うことはなかった。


タケハヤプロジェクトの学生は、官僚の存在を忘れ去り、思い出すこともなく。


亡くなった若手官僚以外で関係していた官僚は、タケハヤプロジェクトに近づくことが出来なくなった。


亡くなった若手官僚は、痛めつけられ、見せしめに。


同じく妨害にあって苦しんだタケハヤプロジェクトの関係者のその後は、乖離して交わらない。


共に夢を語り、夢の実現へと走り出していたタケハヤプロジェクトの関係者の中に生じさせられた格差は、タケハヤプロジェクト関係者同士を結束させなかった。


タケハヤプロジェクトの関係者同士の格差は、タケハヤプロジェクトの関係者の間で、格差を憎む感情を生み出した。


「集団による殺人を、過労死だと偽り、殺人があったことを隠蔽した挙げ句。


いけしゃあしゃあと殺しておきながら、何食わぬ顔で、若手官僚の死を利用して、若手官僚が切り開いた道を閉ざそうとするやつらは、今も、正義が勝たないデスゲームの外で幅を利かせている。


誰にも守られていないから、と不都合を一人の若手官僚に押し付けて、物言えぬ者に変えたやつら。


やつらの言いなりになった学生。


炎上がどうだと言うけれど、炎上して辛いのはなぜだか分かる?


生きているから、辛さを感じるのよ。


タケハヤプロジェクトの関係者で生きているのは、そんなやつばかり。


タケハヤプロジェクトから逃げ出すことなど考える猶予すらなく、追い詰められて殺された若手官僚は、もう何も感じられない。」

とドッジボールの女リーダー。


ひどい目に差があるように。


ひどい目にあったときの絶望にも差がある。


絶望の底なし沼に落ちていくとき。


沈み続ける者と浮き上がってくる者に分かれているとするならば。


その二つを分けるものは、何か?


ドッジボールの女リーダーは、タケハヤプロジェクトが原因の過労死だと決めつけられた若手官僚の死の真相を知っている。


その上で。


ドッジボールの女リーダーは、タケハヤプロジェクトの学生についての情報を調べた。


両者の違いは何か、を探して、突き止めた結果が。


タケハヤプロジェクトの学生に対する怨嗟に繋がったか。


「タケハヤプロジェクトの学生は、亡くなった官僚の死因を追及することも、悲しむこともしなかった。


タケハヤプロジェクトの学生は、亡くなった官僚を、見せしめに殺されたとだけ認識して、佐竹ハヤトとモエカといった一部を除き、タケハヤプロジェクトから離脱していった。」


ドッジボールの女リーダーが、北白川サナについて語る感情に、純粋な同情が入らないのは。


北白川サナが、タケハヤプロジェクトの離脱組だからか。

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