215.『チーム戦で、敗北を喫する原因は、強いチームメイトに任せきりっで、強くなろうとしないチームメイトによるタダ乗り。』とラキちゃん。
「出会い頭で、殺し合いをしろということか。」
「真正面から、襲ってくるとは限らないです。」
と北白川サナ。
「生き残りを賭けた最終決戦。
不意打ちを狙ってくることも、大いにあるわ。」
とラキちゃん。
「不意打ちに対応できるようにするです?」
と北白川サナ。
「それがいいと思う。
私達は、互いに手を伸ばせば届く距離以上は、離れない。
分断されないようにする。
一度でも分断されたら。」
とラキちゃん。
「迎えにいくか?
俺は、ラキちゃんとサナをすぐに見つける。」
俺は、ラキちゃんの台詞の続きを先取りしたはずだった。
「分断された時点で、分断された者同士は、別チームとして動くことを厳守。
これは、各自徹底して。」
とラキちゃん。
俺は、ラキちゃんの決定が信じられなかった。
「分断されたチームメイトを迎えにいかないのか?」
俺は、食い気味に、ラキちゃんに確認した。
「ショウタ。
分断されたということは、敵の罠にかかってしまった後ということ。
敵の罠にかかってしまった状態から抜け出すには、敵に有利な条件を根底からひっくり返さないと。
敵は、分断したことを利用してくる。
利用するために、分断したのだから。」
とラキちゃん。
「了解です。」
と迷いなく了承する北白川サナ。
「ショウタ?」
ラキちゃんが、俺に了承の返事を促している。
俺は、ラキちゃんが、チームメンバーを助けないことを即決するとは、夢にも思っていなかった。
だから。
ラキちゃんが求める了承の返事をできずにいる。
「ラキちゃんは、本気で助けに行かなくていい、と考えているのか?」
俺は、心の中で、ラキちゃんへの台詞に付け加えていた。
『刑事なのに。』
と。
「私は行かない。サナもショウタも、行かないのよ?」
と即答するラキちゃんは、いっそう、頑なになっているように見えた。
「どうして、助けない、という選択肢になるのか、俺には分からない。
俺に、その選択肢を選ぶ理由や経緯を説明してくれないか?
ラキちゃんは、まず第一に、誰かを助けたいと考えているのではないのか?」
ラキちゃんは、いいえ、と答えた。
「余力があれば、助ける。でも。
第一に考えているのは、私の命。」
俺は、誰かを助けることがラキちゃんの一番ではなかったことに、言葉を失った。
俺は、言葉を発せないまま、ラキちゃんを見ていた。
「ショウタは、何に、ひっかかりを覚えている?
私は、私達三人が三人ともサバイバルゲームをクリアするために必要な最低限の作戦だと思っているわ。
各自、生き延びるために足掻くことは、三人が生き延びるために無駄にならないわ。」
と話すラキちゃんの感情に揺れはない。
俺は、ラキちゃんに、俺の心の中にある付け足しを告げるのをためらった。
『刑事なのに。』
この一言を、ラキちゃんに出してはいけないような気がした。
なぜか?
この一言をラキちゃんに向かって発したら、今まで積み上げてきたものを一瞬で台無しにするのではないか、と俺は懸念した。
俺が、ラキちゃんへ伝える『刑事なのに』に代わる言葉を探し出せずにいると。
「ショウタは、『刑事なのに、味方を助けるのではなく、切り捨てることを迷わないラキ』に、疑問を感じているですか?」
と北白川サナが、唐突にぶっ込んできた。
「北白川サナには、情緒がないのか?
ラキちゃんは、ドッジボールで、同じチームになったふーくんを助けようとしていたように見えた。
ラキちゃんの本質は、誰かを助けたい人だと俺は考えている。」
ラキちゃんは、ドッジボールで同じふーくんを助けようとしたのに、同じチームになった俺を助けることには否定的だということが、俺の心を荒立たせている。
ふーくんは、よくて。
俺を助けるのは、なし、なのか?
ラキちゃんにとって、俺は、ふーくんよりも、助ける価値がないのか?
ラキちゃんは、最終的に、ドッジボールで、ふーくんを盾にしていた。
助けた後に盾にしていたふーくんよりも、ラキちゃんにとって、俺の価値は低いということにならないか?
「なぜ、誰かを助けたい、と考えて行動するのが、ラキだけだと思うですか?」
と北白川サナ。
なぜ?
それは、言うまでもなく。
「北白川サナとラキちゃんは違うだろう?」
「サナと私は違うけれど。
私と違うのは、ショウタもよ?」
とラキちゃん。
「ラキちゃんと俺が違うことは、当然、承知している。」
「ショウタは、私とラキを比較して、ショウタの願望を垂れ流しにしてるです。
なぜ、比較対象にショウタ自身を入れないですか?」
と北白川サナ。
俺は、願望を垂れ流しに、などしていない。
「俺とラキちゃんとでは、比較にならないだろう?」
北白川サナに、俺への失礼さを指摘しても。
北白川サナは、俺がおかしなことを言っていると考えて、自省しない。
「ショウタにとって、全部他人事だから、です?」
と北白川サナ。
「見当違いの言いがかりは、よせ。
ラキちゃんと北白川サナには、二人共、俺と共通点などないだろう。」
「ショウタは、ショウタだけが、他の誰かとは違うと言いたいですか?」
と北白川サナ。
俺が、他の誰かとは違う俺は特別だと考えている、と?
「俺は、俺のことを厨二病だと言いたいのか?」
「刑事のラキ、ハヤトの友達だったショウタ、ハヤトの研究者仲間だった私。」
と北白川サナ。
「そのまんまか?」
どうした、突然。
「ショウタのお気に入りのラキ。」
と北白川サナ。
「お気に入り、という言い方は、気に入らない。」
「ラキにおんぶにだっこのショウタ。」
と北白川サナ。
北白川サナは、俺の苦情を無視。
「おんぶにだっこは、言い過ぎだ。」
ラキちゃんに、助けられてばかりではある。
今まで、俺の得意分野はなかったから。
「自立している私。」
と北白川サナ。
「北白川サナは、自分のことを良く言い過ぎではないか?」
「ショウタには、ショウタ自身がどう見えているです?」
と北白川サナ。
「俺は、チームの要で、チームメイトであるラキちゃんとサナのバランサーだろう。」
「ラキの味方になったつもりの、現実が見えておらず、チームの和を乱している自覚もなく、無自覚にリーダーのラキの足を引っ張る、それがショウタです。」
「北白川サナは、失礼千万だ。」
「困ったわね。」
とラキちゃん。
「俺もそう思う。
北白川サナは、俺に噛みつき過ぎではないか?」
「まだ、言うですか。」
と北白川サナ。
「ショウタが、自身を外して私とサナの比較をする原因は、ショウタに、当事者意識がないから。
当事者意識がないことに、気づけないままだと、ショウタは生き延びられないわ。」
とラキちゃん。
「ラキちゃん?」
深刻そうに話しだすラキちゃん。
「ショウタ。
私とサナがいることに安心して、ショウタ自身が生き延びるためにどうすればいいか、を真剣に考えることを止めていない?」
とラキちゃん。
「三人で生き延びるためには、ラキちゃんとサナが。」
ラキちゃんとサナがうまくやらないと、チームは機能しない。
俺は、台詞を続けられなかった。
「ショウタ。
一人一人が生き延びるために足掻かないと、サバイバルゲームはクリアできない。
一人一人、我が身を守り、戦って生き延びるという気持ちが必要なのに。
ショウタからは、正念場で生き延びるための決意が伝わってこない。
かといって、生き延びることを諦めているわけでもない。
ショウタは、私とサナがいれば、なんとかなりそうだと、思っていない?
チーム戦で、敗北を喫する原因は、強いチームメイトに任せきりっで、恩恵にあやかろうとして、自らは強くなろうとしないチームメイトによるタダ乗りよ?」
とラキちゃん。
「俺が、ラキちゃんにタダ乗りしていると、ラキちゃんは感じているのか?」
ラキちゃんからかけられた言葉は、ことのほか辛辣だった。
「私とサナにね?
私とサナとショウタのチームになってから。
ショウタが熱心してきたことは、私とサナの比較。
ショウタ。
私とサナを比較することで、サバイバルゲームをクリアすることに役立つ発見は、何かあった?」
とラキちゃん。
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