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211.『許さなくていいよ。許されるために生きているわけではないから。』とツカサは言った。一人いるなら、もう一人いてもおかしくない。

「今、安全ピンを抜いたね。」

と言う満足そうなツカサの声だけが、耳に残った。


手榴弾を手に入れた男を中心に爆発音と爆風が、巻き起こる。


爆発音が耳から頭に抜けた。


光が眩しくて、何も見えない。


何も聞こえない。


手榴弾を手に入れた男は、手榴弾を投げなかったのか?


手榴弾は、男の手にあるうちに爆発した。


爆発音の後に遅れて、悲鳴が上がる。


悲鳴が聞き取れるようになった。


聴覚が戻ったようだ。


爆発時の光もおさまって、視覚で状況を把握できるようになった。


助かる。


これからの動きを決めるという段で、視覚と聴覚が効かない事態にならなくてよかった。


俺は、ラキちゃんと北白川サナの三人で、逃げ延びながら、俺が手榴弾を使うタイミングを見極める必要がある。


肌感覚で、気温は、確実に上がった気がする。


視覚と聴覚が戻ってきた俺が見たものは。


爆風で飛んだと思われる木と人。


溶けた地面。


溶けた地面に倒れる人。


溶けた木の下で、うずくまる人。


手榴弾が爆発したあたり一帯に、無事な人は一人もいなかった。


屍累々のような現場で。


手榴弾を手に入れた男がどうしているか、俺は視線を動かして探す。


ツカサの説明では、手榴弾を持っている人は、安全。


手榴弾を手に入れた男は、手榴弾の影響を受けなかったなら、無事な姿で元の位置にいたのではないか、と俺は考えていた。


一人だけ無事な姿で逃げおおせたであろう手榴弾を手に入れた男は、見つからない。


隠れたのか?


手榴弾の爆発による影響は顕著だった。


爆風に飛ばされた参加者は、人工の木や岩にぶつかっただけで済まなかった。


サバイバルゲームに使われている人工の木も岩も熱に弱い。


手榴弾が爆発したときの熱は、爆風域に入っていた木も岩も土も溶かした。


爆風により、地面の土は、溶けた状態で飛び地った。


熱で溶けた木や岩、土を浴びた参加者のうち、鼻を塞がれた参加者は、鼻での呼吸を確保しようと、鼻の穴に手を突っ込んだり、鼻を噛む仕草をしている。


口を塞がれた参加者は、付着物を口から剥がそうとしていて、何人かの手が止まる。


力任せに剥がそうとすると、周囲の皮膚を引っ張るため、口を塞がれている参加者は、口の周りの皮膚を犠牲にするかどうか、という選択を迫られていた。


口の周りの皮膚を引っ張る手を止めたのは、鼻呼吸が確保できている参加者。


鼻と口が同時に塞がれていると、鼻の穴に張り付いた付着物が取れないので、口の周りの皮膚を犠牲にしようとした参加者もいた。


呼吸ができない状態で、自ら皮膚を破いて、皮膚ごと付着物を剥がそうとする痛みに耐えられた参加者はいなかった。


付着物に口と鼻が塞がれた参加者は、呼吸ができないことに、苦しんで暴れ、溶けた地面に倒れていく。


倒れていく参加者の中に、手榴弾を手に入れた男はいない。


手榴弾を手に入れた男は、どのタイミングで、爆心地から逃れたのか?


爆風で飛ばされた参加者の中にも、手榴弾を手に入れた男と似た男はいない。


手榴弾を手に入れた男が、音がしない土の上を歩いて移動していたら、俺には気づけないが、その可能性は低いような気がしている。


手榴弾を手に入れた男は、手榴弾の爆発から逃げおおせることができなかったのではないか?


周囲には人の壁。


手榴弾は、安全ピンを抜いてすぐに爆発した。


手榴弾は、男が投げる前に、男の手の中で爆発している。


「ツカサ。

手榴弾は、安全ピンを抜かなければ安全で、安全ピンを抜いた人は安全だという仕様ではなかったのか?


手榴弾の安全ピンを抜いた男ごと爆発にやられていないか?」


俺は、ツカサに手榴弾について確認した。


「ショウタに渡した手榴弾の仕様は、説明通りだよ。」

とツカサ。


「木のうろに入っていた手榴弾は、俺が持っているものとは仕様が違うのか。」


「道具の多様性は、可能性を広げることになるからね。」

とツカサ。


「参加者の予想を裏切れば、人殺しのパターンを無限に作り出せるか。」


「ショウタも、物わかりが良くなったね。」

とツカサは、朗らかに笑う。


爆心地の地面は、干上がった底なし沼のようになっている。


干上がった底なし沼には、爆心地の中心にいたであろう、手榴弾を手に入れた男と、男の近くにいた何人かが、仰向けに倒れていた。


両腕がなくなり、肩と顔の肉がえぐれ、体の前面が血だらけになっている、一番重傷な男は、潰れていて見えているか分からない目を動かして、誰かを探している。


男の周りに倒れている参加者は、うめき声と声に張りがない悲鳴をあげていた。


「威力満点。」

とツカサは、満足そうに惨状を眺めている。


うめき声や悲鳴に紛れて。

「ツカサ。」

というかすかな声が聞こえた。


悲鳴やうめき声とは別に、口を動かしているのは、爆心地で一番重傷を負った男。


「ツカサ。

聞こえるだろう?


安全ピンを抜く人は、安全だと言って俺を騙したお前を絶対に許さない。


こいつらは、全員許さないから、こいつらが苦しんでいるのは、胸がすく思いだ。


ツカサ、お前だけは違うと思っていた。

俺を利用したお前は、絶対に許さない。

復讐してやる。

必ず。」


俺が聞こえた声は、ツカサにも聞こえていた。


「許されるために生きているわけではないから、許さなくていいよ。」

というツカサの呟きを俺の耳は拾った。


思わずツカサを振り返る。


「復讐とは、大きく出たよね?」

とツカサは、振り返った俺に笑いかけてきた。


手榴弾を手に入れた男が、手榴弾を手にした経緯は、ツカサの仕込みがあったのか。


ツカサの仕込み二人目が、サバイバルゲームで手榴弾を手に入れた男。


一人目は、ドッジボールでタツキのチームにいた野球してそうな男。


ツカサ自身は、輪の中心にいたりいなかったり。


ツカサは、輪の中心にいない標的を動かすことで、ゲームメイクしているのか。


ツカサの目標が達成されるまで、ツカサが暗躍していたことに、参加者は気づかない。


利用された本人だけは、死の間際に気づける。


タケハヤプロジェクトに参加を決めたツカサは、正義が勝たないデスゲームに参加することになっても、俳優であり続けている。


タケハヤプロジェクトの参加者になった瞬間から、ツカサは、俳優として人生を走り抜くことにしたのか。


評判も人間関係も捨てて。


メグたんとツカサは、互いの立場を理解し合っている。


メグたんとツカサの二人を結びつけているのは、覚悟を土台にした信頼。


俺は、ラキちゃんと北白川サナと三人のチームを作った。


今から、何をするか、何も分かっていないだけではない。


俺は、二人の信頼を得られるだけの関係性を築けていないまま、走り出そうとしている。

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