198.メグたんが話したモエカを死なせた動機を聞いた俺とラキちゃん。『ラキちゃんのなまくら刀は、鞘から抜けたわね』とメグたん。
俺は、メグたんとの戦いをラキちゃんといるため、と考えていた。
その思いは変わらない。
モエカへの死に納得できない、俺の不満が追加。
俺のやることに変わりはない。
やる気は、上がった。
モエカは既に亡くなっている。
メグたんが、モエカを死なせて申し訳ないと感じたところで今さらだ。
俺は、メグたんにモエカを死なせたことを反省などしてほしくない。
俺は、メグたんの更生など望んでいない。
メグたんにモエカを殺す正当な動機があったところで、俺は、そんな動機があれば仕方がない、などとは言わない。
人を殺してから、人を殺したことを悔やんで、得るものがあるのは、人を殺した者だけ。
モエカを殺したメグたんが、モエカを殺すのではなかったと、殺してから話したとしても。
殺されたモエカにも、見殺しにした俺にも、得るものはない。
殺されたモエカが、苦しみながら死んだ事実は変わらない。
苦しみながらも、絶望の淵にいるモエカに生かされた俺は、モエカを見殺しにして生きたという業から一生逃れられない。
モエカが亡くなったことにも、モエカの亡くなり方にも納得できない俺は、今、俺の鬱憤を吐き出す場所を見つけた。
それだけだ。
俺は、モエカの死による俺の鬱憤を溜め込まない。
俺の目標は、正義が勝たないデスゲームから脱出し、正義が勝たないデスゲームとは無縁の生活を送ること。
配信で俺の顔は見られているが、人殺しは、まだしていない。
正義が勝たないデスゲームを脱出してからも、俺は、大手を振って、太陽の下を歩く。
正義が勝たないデスゲームを脱出してから、会うことになるだろう黒幕との交渉次第でなんとかしたい。
そのために。
正義が勝たないデスゲームでの鬱憤は、正義が勝たないデスゲーム内で晴らしていく。
かと言って。
俺は、メグたんに一矢報いる気などはない。
ここは、正義が勝たないデスゲーム。
タケハヤプロジェクトも正義が勝たないデスゲームも、佐竹ハヤトが作り上げた傑作。
俺は、友達の作り上げた傑作を壊す気はない。
佐竹ハヤトが生きていたら、俺が壊しても、佐竹ハヤトは、別のものを作り出せた。
佐竹ハヤトは、もう生きていない。
佐竹ハヤトが作り上げたものを壊してしまえば、もう、佐竹ハヤトが遺したものは、何も残らなくなってしまう。
だから、俺は、壊さない。
タケハヤプロジェクトも、
正義が勝たないデスゲームも。
壊さずに脱出する。
俺にはできる。
俺だから、できる。
俺の脱出を阻むものはない。
北白川サナは、俺に正義が勝たないデスゲームへの協力を求めた。
北白川サナは、目的があるから、俺を死なせない。
北白川サナは、どこかで、見ているはず。
俺は、ラキちゃんと一緒に暴れるが、俺が死ぬようなことはしない。
俺が死にそうになったら、俺を庇おうとするラキちゃんを死なせることに繋がる。
メグたんは、人殺しの適性を見込まれてタケハヤプロジェクトの参加者になった。
メグたんの人殺し適性について、俺はケチをつけない。
佐竹ハヤトが、俺の友達が、身命を賭して、作り上げたものが成功しているのは、メグたんが参加しているから。
ゲームメイクは、ツカサ。
チェックメイトを決めるのは、メグたん。
なら、俺は、メグたんを撹乱してやる。
ラキちゃんの望み通りに。
それで、俺の鬱憤は、チャラにする。
俺は、腹を決めた。
メグたんは、刺すような眼差しを俺に向ける。
「ラキちゃんのなまくら刀は、鞘から抜けたわね?」
とメグたん。
ラキちゃんは、全回復できてはいないものの、動けそうだ。
これ以上、ラキちゃんの休養のための引き延ばしは、無理だろう。
メグたんが焦れてくる。
「ラキちゃん。俺は、動ける。」
俺は、ラキちゃんに告げた。
「何度も言うけど、ショウタは、自由に動いていいから。」
とラキちゃん。
「分かった。」
場所を移動するため、立ち去ろうとした俺を、ラキちゃんは呼び止めた。
「ショウタ、今からは自暴自棄にだけはならない、と約束して。
生きて。死なないで。」
とラキちゃん。
ラキちゃんは、モエカの話を聞いた俺を心配している。
俺は、ラキちゃんに、モエカのことは、気にしていないから、などとは言わない。
モエカを見殺しにした事実を気にしないで、俺が生きることは難しい。
ラキちゃんも、俺と一緒に、メグたんのトークを聞いていた。
俺自身が分かっていることを、俺は、誤魔化してラキちゃんに伝えたりはしない。
嘘も誤魔化しも、ラキちゃんと俺の間では、邪魔になる。
ありのままの思いを、ありのままの言葉で。
「約束する。
ラキちゃんも約束してほしい。
俺は、死なない。
ラキちゃんも死なせない。」
「ショウタとの約束は、私にできるかどうか。そうね。約束が守れたら、いいわね。」
とラキちゃんは、苦笑した。
「今の俺には、ラキちゃんの言葉をラキちゃんから聞くだけで十分だ。」
ラキちゃんは、苦笑いしたまま、頷いた。
「それは、よかったわ。行って。ショウタ。」
とラキちゃん。
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